菅政府が12日、「デジタル庁」創設を柱としたデジタル改革関連法を参院本会議で可決・成立させた。官民業務のデジタル化やICチップ付きマイナンバーカード(マイナカード)との個人情報紐付けを進め、日本社会全体をデジタル管理するための法律だ。さらに同法は行政機関による個人情報の目的外使用(本人の同意なし)も認めている。もともと60本以上ある法律をわずか6本の法案に束ねて中心内容を隠し、国民に同法が持つ意味合いをまったく知らせない姑息な手口で成立にこぎ着けた。参議院の採決は本来、全議員の賛否を公開するが、今回は「起立採決」で、誰が賛成したのかも公開していない。
菅政府が成立させたデジタル関連法は、
①デジタル社会形成基本法(デジタル化推進の基本理念や重点計画を規定)
②デジタル庁設置法
③デジタル社会形成関係整備法(個人情報保護の仕組みを整備)
④預貯金口座登録法(マイナポータルから口座登録を可能にし、緊急時の給付金支給などに登録口座を使える仕組みを整備)
⑤預貯金口座管理法(マイナンバーと預貯金口座情報の紐付けを規定)
⑥地方公共団体情報システム標準化関連法(自治体の主要業務のシステムを統一・標準化)
の6法で構成している。
この法案はデジタル庁設置と個人情報の目的外使用拡大が主な内容で、デジタル庁設置関連では「首相が長を務めるデジタル庁を9月に発足」「デジタル行政の司令塔として各省庁への勧告権など強力な権限を持たせる」ことを規定している。
個人情報保護関連では「業務の遂行に必要で相当な理由のあるとき」は行政機関が本人の同意なしで個人情報の目的外利用ができると規定した。さらにこれまでの個人情報保護体制は全国統一ではなく、国の規定より厳しい個人情報保護体制をとる自治体もあった。今のままではデジタル庁が全国から個人情報を吸い上げようとしても、地方自治体に拒まれる可能性があった。そのため各自治体が独自に整備してきた個人情報保護条例をみなリセットし、問答無用で国の基準に従わせる内容も盛り込んだ。
このデジタル庁設置と政府・自治体の情報システム統一によって、首相直属機関であるデジタル庁に、全国各地の個人情報をすべて吸い上げ、一元管理することを可能にした。これは全国民をデジタル管理・監視する国民監視社会を形成する地ならしである。同時にそれは、行政や警察が、全国民の行動や資産、趣味、思想等の情報を本人の同意も得ずに収集し、全住民をゆりかごから墓場まで徹底監視していく方向へつながっている。
こうしたデジタル関連法の成立と同時進行しているマイナカード普及策は、これまで何度も失敗してきた「国民総背番号制」実用化に不可欠な準備である。そのため菅政府は今年3月末までだった「取得者には5000円分のマイナポイント付与」という特典の申請受付期限を今年4月末までに延長し、2453億円もの公金(2020年度予算)をつぎ込んでカード所持者の増加を図ってきた。しかし利便性のメリットは乏しく、個人情報漏洩や犯罪に使われる不安、国家権力による違法な個人情報収集へ不信感は大きく、いまだにマイナカード所持者の数は28・3%(2021年4月1日現在)にとどまっている。結局は「取得者には5000円分のマイナポイント付与」という「アメ」もあまり効果がなく、4月末で終了せざるを得なかった。
しかしカード取得者が少ないままならマイナンバー制度自体の意味がなくなり、全国民をデジタル管理することはできなくなる。そのため菅政府はデジタル庁を九月に発足させ、今度は「アメ」ではなく、マイナカードを持たなければ生活に必要な行政手続きが困難になる状態に追い込むという強権手法で、マイナカード所持を迫る準備に着手している。
菅政府は2022年から「国立大学でのマイナカード活用」「ハローワークカードとしての利用」「電子版ジョブカードとしての利用」「スマホへの機能搭載」を開始し、2022年度末までに「ほぼすべての国民へのマイナカード取得」を実現させることを目標にしている。2024年度末までには「運転免許証とマイナカードの一体化」も計画している。