28年目を迎える上関原発計画を巡って来年2月に7度目の改選となる町議選が控えている。この間、原発工事着工にむけて中電は「もうできる」と大げさなパフォーマンスを繰り広げてきたものの、工事の動きは停滞しており、社長が再び延期を発表した。町内ではとりわけ祝島で反対行動が熱を帯びており、下からの力が噴き上がっている。このなかで漁業補償金の残っていた半金の配分がすすみ、祝島にも「受けとらなければ損」という働きかけが執拗に続いている。上関を巡る情勢について、記者座談会をもって論議してみた。
A この間、町内の世論調査や取材を進めてきたわけだが、特徴から出してもらいたい。
B 原発建設を巡っていま最も大きな焦点は、祝島の漁業補償がどうなるかだ。田名埠頭での抗議行動があり、その後は「カヌー隊が死にかけた」「あれは自作自演だ」とかの騒ぎもやっているが、主要な問題は補償金問題だ。
来年5月までに受け取らなければ法務局に預けられている5億4000万円の供託金は没収になる。つまり「交渉が成立しなかった」「決裂した」ということになる。補償金を受け取るということは漁業権放棄を認めるという問題だ。祝島の漁業権者の3分の2の同意を得ていないし、中電との間で「漁業補償契約」など結ばれていない。無効と見なされることになる。
C 目の前にできて最も被害を受けるのが祝島なのに、ゴリ押しできるわけがない。行政関係者たちに「合意もなくつくれるのか?」と話してみると「そんなの前例がない」とみんな驚く。例えば公共工事の用地買収で相手方の同意もなく、交渉のテーブルにもついていないのに権利を取り上げるなど無謀で、しかも補償金を受け取ってもらえない場合に工事を着工できるか? 100%できない。あり得ないのだ。
上関のケースでは、漁業補償金も用地代も9年前に中電は半額払いという、前例のない方法をとった。あの時点で「山登りのスタート地点に立った」などといっていたが、不確定要素を抱えながら進めているわけだ。
D 107共同漁業権管理委員会との妥結から9年が過ぎて、残る半金もこの夏に配分し、広島国税も課税で動き始めた。祝島だけが受け取っていないとなると、困るのは中電だ。共同所有権の売買の場合、一人でも拒否したらできないのが常識だ。107共同漁業権の漁場もそうだが、4㌔しか離れていない祝島地先にも影響があり漁業権変更を要する。四代地先に埋め立てをするのも影響がある。どこからどう見ても祝島漁民の3分の2の同意がなければ、それを無視して強行するというのは、超法規的軍事独裁国家でもなければできないことだ。
タイムリミットが迫って困っているのは中電の側だ。だから昨年くらいから「もう原発はできる」のパフォーマンスとセットで、必死に「受け取れ!」と攻勢をかけている。祝島で「原発はできるから供託金をもらわないと損」といって動きがあった春先には「六月から海面埋立工事を開始」と景気の良いことをいっていた。
これにダマされて利権に色めき立った企業も多かった。ところが、結局工事はほとんど進展がない。ブイを浮かべただけで足踏みしている。なぜか? だ。パフォーマンス先行であきらめを煽るためだからだ。しかし祝島は崩れるどころかますます元気になっている。祝島が漁業補償を受け取る見込みがないからだ。
A 2000年4月に祝島を除いた107共同漁業権管理委員会(山根勝法委員長)が125億5000万円の漁業補償を「妥結」している。「多数決で決まったのだ」と押し切った。当時、そのうちの半額が7漁協には配分され、祝島の5億4000万円については法務局に供託金として預けられていた。そして、昨年の11月20日付で中電は残りの62億円を各漁協支店に支払った。漁業者に配分されたのが盆前後だ。
B 春に祝島で補償金の扱いをどうするか投票した際2票差で否決するという騒ぎがあった。合併で山戸氏が失権して以後、バッターチェンジした運営委員たちが金欲しさで旗を振りはじめ「祝島はもう崩れた!」と長島側の推進派が喜んでいた矢先の出来事だった。ところが島の反対の力は崩れていなかった。山戸失脚なら島民の反対運動も沈静化するかと思ったら逆になった。中電や県の誤算だ。
あのとき、急遽聞きつけた島の婦人たちが総会をひっくり返して、その後は旧反対派改めの新型推進派のメンバーも失脚させられた。いま巻き返す力はなくチュンとなっている。その後、山戸氏らが復権をはかりはじめ、今日に至っている。「ワシらを運営委員に認めろ」と主張するが、一方は「認めない」といい、運営委員が決まらず不在状況が続いている。
ここ数年で入念な仕掛 補償金取らせる為
E ここ数年を振り返ってみると、「補償金受け取り」には入念にシカケがつくられている。漁協合併に引きずりこんで法人格を奪い取ったのもポイントになっている。それ以前には山戸の赤字経営が漁協組合員を泣かせてきた。タイなど一本釣りの活魚が二束三文で買い叩かれて、そのくせに出荷先は遠く離れた福山市。市場では重宝されているというからデタラメなピンハネだ。大島の漁師が広島市の市場に出荷する同じ魚種の活魚より半値以下だから驚きを通り越していた。油代は県内の他の離島と比較しても1㍑10円近く高い。「金に汚い」と漁師たちは恨みを持っている。
B それだけ漁師から巻き上げても経営は赤字続きで、「こんなに負担が多いなら補償金に頼るか…」という雰囲気が振りまかれた。漁協合併の際には、法務局に供託されていた環境調査(95年)の迷惑料2200万円を受け取って、漁協が抱える2000万円の赤字を穴埋めするという動きになった。当時の山戸執行部としてはやむを得ぬという格好で受け取りを決議した。この時も婦人たちを中心に、「中電の金を使ったら原発を認めたことになる!」の声が高まり、二転三転して撤回した。
C そもそも94年の漁業権書き換えが最大の裏切り行為で、今日までの状況をつくり出している。祝島が地先の漁業権を手放さなければ、90年代のはじめには上関原発はとっくに勝負がついていたのだ。
D 祝島では24日に県漁協が招集して組合員集会が持たれた。この夏に配分された残りの5億4000万円の補償金についての税金の扱いを説明するという趣旨だった。「もらってももらわなくても税金はかかるのだ」「受け取らなくても工事は進むのだ」と県水産部まで引率して、意味不明の説明を一生懸命やった。ポイントは、この話は祝島支店が「受領」して県漁協に預金していることを前提にしていることだ。補償金を受け取っていないことが現実なのに受領したとして話を進め、ペテンにかけようとしている。訳が分からないようにしてだまそうとしている。
A いずれにしても5月没収なら交渉決裂で中電の負けだ。他の漁協には配分してしまって、税金もかかる時分になって慌てている。一見すると原発が進んでいるように見えて、実際は違う。追いつめられているのは中電の側なのだ。祝島では下からの住民の力が噴き上がっているし、明らかに山戸の欺瞞が通用しなくなっている。田名埠頭の抗議行動は三日坊主で引き上げようとする幹部たちに対して、住民の多くが「やめるな!」と断固継続させた。「みんなの溜まっていた思いが爆発したのだ」と語られている。力関係が変わっている。運動の質も変わっている。
B 老人たちが身体を張って頑張っている姿には全町的にも共感が強い。「頭が下がる」との声が強まっている。「祝島は崩れていない」「頑張っている」と確信を深めている。
C 中電は“アメとムチ”で、「補償金欲しくないですか?」とやりながら一方では田名埠頭の抗議船をチェックして裁判に訴えるなど恫喝の動きも見せている。しかしこれも祝島ではみなが腹を立てているし逆効果だ。あきらめを煽るしか手がない中電もお粗末だ。
乱立模様の町議選 全町団結で大再編へ
E もう一つの焦点として、2月14日投開票で町議選がある。今回は2議席減って12議席が争われる。「原発はできる」という現在の情勢とはかけ離れたところで、古い型の古い認識のままでの空中戦を展開している。
D 前回選挙でできあがった推反の議席割合は9対5。推進派は四代の山谷良数、白井田の右田勝、篠川源次、吉崎芳男、上関の加納簾香、岩木和美、室津の西哲夫、佐々木襄、外村勉の9人。反対派は室津の平岡隆嗣氏の議席が欠員になったほか、祝島の山戸貞夫、清水敏保、戸津の田中早知、上関の岩木基展の5議席だった。
A 老人議員たちの進退がはっきりしないなかで、新人の動きも活発になっている。推進側では上関地区出身で柳井市で飲食店を経営している“トントン”こと嶋尾氏が出馬の挨拶回りをはじめている。町外に住んでいるが、反対派には平生町住民として上関に出稼ぎに来ている格好の清水議員のようなのもいる。室津の漁業者代表ということで海下氏の動きも取り沙汰されている。片山町長の親戚にあたる役場退職者の河村氏も出馬を準備している。「古い推進派とは違って、町のためにやるのだ」と強調しているのが特徴だ。新人に票を食われる加納氏や反対派から寝返った外村氏(旧社会党)などが慌てている。
B 反対派は外部勢力の登場が目立っている。室津に「長島の自然を守る会」の高島美登里氏が移り住んで、町議選に出馬するというから驚かれている。防府県職の書記をしていた人物で、湯田元商工労働部長とも仲良しだ。上関地区には「日共」職員が宇部から移り住んできて「小柳さんの後釜になります。よろしく」と関係者に挨拶している。外部勢力が選挙に出るということで、「勘違いが酷すぎる」と話されている。
C 祝島では先週の月曜日のデモの後、新人が出馬に向けて抱負を述べたと話題になっている。影響力を失っている山戸氏は今回出馬できない模様で、Uターン組の山根という人物が出馬すると話されている。住民にいわせると「山戸は島内での求心力を失っているし、息子のタカシはそれ以上に票が集まりそうになくて、選挙に出ても勝てる保証がないからだ」という説明だった。
B 選挙戦としては、推進派が瓦解している。議会では議長になった山谷氏や西議員などが一番幅をきかせているようだ。中電と自分のために町のすべてを売り飛ばしますという潮流があり、それに対して町に金を取るための推進という形で若手が登場している。
C 推進派乱立の様相だが、反対派も外部勢力が登場するというので、乱立推進派を助ける構図だ。
E 「町が発展しますよ」とそそのかした中電は、工事といえば中電退職者が天下った洋林建設みたいなのが町発注工事まで奪っていくし、批判が強烈に渦巻いている。事業協同組合をつくったけれど相手にされていない。「原発がくれば町が発展する」などといっていたら、白い目で見られるほど冷めた空気がある。「大嘘をいうな」と。
D 原発にたかって儲けているのは、推進派にしろ反対派にしろ一部の幹部連中ばかりだった。四代では議長になった山谷氏が四階建ての民宿を建てている。隣の公民館を見下したような印象で「四代公民館をバカにしているのだ」と住民たちはいう。それこそ95年に支払われた環境調査の迷惑料(神社地だけでも1500万円)や用地代(神社地だけで1億5000万円。共有地は不明)は山谷氏の管理の下で行方しれずで、いまだに住民には会計報告がされていない。これも時効なのか? 「あの建物に消えているのではないか」と疑いの目が向けられている。
C 「引退した片山(前町長)が、会社をつくって伐採工事を請け負っている」とかの反発もある。28年間、町の上層部が「原電の灯が見たい」とか「町が発展する」といっているうちに過疎高齢化はすさまじい勢いで進行したし、室津では「七五三の子供が少なくて悲しくなった」と語られていた。
海と山守れの声が沸騰 岩国や広島と結び
B 町民のなかでひじょうに語られるのは、海と山を大切にしなければならないということだ。それがあらためて強調されるようになった。最近都会で働けなくなって帰ってくる若者がおり、退職したら帰って暮らすという人が多い。祝島では、田んぼもできるし野菜もできる、魚も捕れて、もともと自給自足ができる所なんだと語られる。都会で生きていけなくなったら、田舎で金儲けや贅沢はできないが暮らしていける。こういうご時世だから、田舎を守らなければならないという思いだ。
C 敗戦後はみんな上関に帰ってきた人があふれた。上関の海と山がたくさんの人を養ってくれて、そこからみんな立ち上がっていった。今それに似た状況になっていると語られている。
A 上関町は縄文遺跡から弥生遺跡がある。大昔からひじょうに暮らしやすい自然条件なんだ。今どき都会に行っても田舎にいても金儲けできる商売はないが、上関にいたら生活はできる。そのとき原発で海と山がダメになったら何もかもダメになると語られる。これは「第一次産業ではメシは食っていけない」といった中電職員のような都会かぶれの人間にはわからない。
C 上関原発を持ち込んだときは、80年代初めでバブル経済に突き進む前だった。田舎はダメで都会の企業だけがよいという風潮が強かった。だから企業誘致といって騒いだ。ところがバブルがはじけ、その後の市場原理経済がパンクし、農業も漁業も製造業までいらないという世の中になった。しかしそれでは日本はつぶれる。海と山は守らなければ取り返しがつかなくなるという関係だ。
B 意識の変化で大きいのは、岩国基地の増強に反対する岩国市民のたたかいがひじょうに共感されている。二倍化される米軍基地の近くにミサイルの標的になる原発をつくるなど気違い沙汰だと思わない者はいない。それに広島で岩国基地反対の世論が表面化していることだ。原発といえば原爆だ。上関は年寄りが多いというがそれは戦争体験者が多いということだ。戦争反対の世論が大きく動いている。これらが町民世論の大きな変化の底流だ。
A 上関の現在の情勢では、祝島が漁業補償金を断固拒否して、最後的に合意未成立にするかどうかが第一の焦点だ。そしたら原発建設は実際上見通しがなくなる。この間のブイ阻止行動は、下から島民の力が押し上げて、山戸の三日坊主を突き破った。祝島が断固たたかう姿勢を堅持していることを天下に示した。大事なことはその運動の質が変わっていること、島内団結、全町、全県、全国団結の志向を強め、下から大衆が主導権を握ってきたことだ。これは大変歓迎されている。
C 推進で金をもらった漁民も祝島には頭が下がるといっていた。
A 町議選は祝島の補償金問題の結末次第で、大きく激動する。各候補は多少の色合いが違うにしても、今までの体制がズルズルつづくという前提の上で、誰が利権を得るかという程度の違いだ。祝島が補償金受けとりを拒絶し、最後的に合意なしとなる可能性は高い。そうすると原発の見込みはないという中の、町議選となる。
B 町議選で、祝島の婦人たちが全町を回って、「祝島に協力してくれ」と訴えて回るような行動をする必要がある。全町団結で町内世論はいっぺんに動いていくだろう。そうしたら、誰を出すかを含めて、町議選は大再編になりうる。