住民運動の盛り上がりを契機に
再生可能エネルギーの代表格である太陽光発電をめぐり、全国で最低でも138の自治体が、施設の設置を規制する条例を定めている。東日本大震災後建設推進に拍車がかかったが、各地で住民の反発があいつぎ、各自治体が地域を守るために「防衛策」として独自の条例を定めたいきさつがある。
岩手県遠野市は、既存の条例を改正して昨年6月、全国的にも厳しい「1万平方㍍以上の太陽光発電事業は許可しない」という新条例をもうけた。
そのきっかけになったのは2019年4月、市内を流れる一級河川・猿ヶ石川で赤茶色の濁りが確認されたことだ。濁水は山奥の小さな川から流れ込んできており、その小川のそばでは2018年4月、約90万平方㍍の広大な敷地で太陽光発電の建設工事が始まっていた。雑木林を伐採した造成地で土がむき出しになり、雨が降ると泥水が川に流れ込んでいた。
住民は太陽光発電計画についてはまったく知らされておらず、川が汚れてはじめて気付いた。濁水は流域の水田に流入したほか、川の生態系にも影響を与え、ヤマメの養殖が一時停止し、アユの養殖量は減った。
住民側は、施工会社のNECネッツエスアイ(東京)に抗議。同社は謝罪して一旦工事を中断し、泥水を受け止める調整池などの対策を講じた。だが濁水は止まらず、同社は今年九月中に対策を完了させると約束する一方で、約10万枚の太陽光パネルの設置を進め、発電は始まった。こうしたなかで遠野市は太陽光発電を規制する新条例をもうけた。
太陽光発電施設の建設を規制する条例をもうけている市町村は、全国で急増している。NPO法人の調べでは、設置を規制する内容の条例をもうけている自治体は、4年前には28市町村だったが、昨年12月上旬では最低でも94市町村にのぼり、3倍以上に増えている。内訳を見ると、68の市町村が建設を禁止したり抑制したりする区域をもうけており、25の市町村が建設にあたって市町村長の許可や同意などを必要としている。
大規模な太陽光発電施設の建設計画に対し住民による反対運動が起きた、前出の岩手県遠野市や静岡県伊東市では、その後条例によって、いずれも市内全域が「抑制区域」に指定されている。
長野県では昨年12月上旬までに13の市町村で太陽光発電施設の建設を規制する条例が制定された。全国で2番目に多い。木曽町では一昨年10月新たな条例が施行された。条例では、再生可能エネルギーによる発電施設を設置するさいには、事前に地元の自治会などに計画を説明したうえで、町の同意を得ることが必要だとしている。また、景観を損ねたり、土砂災害を引き起こすおそれがあったりする地域を「抑制区域」とし、この区域内では、100平方㍍をこえる太陽光発電施設の建設は、原則として町は同意しないとしている。
条例制定のきっかけは地元の住民による反対署名だ。木曽町は山岳信仰の対象としても知られる御嶽山のふもとにあり、登山客などが数多く訪れる。樹木が伐採されると景観が損なわれるうえ、この地域は地盤が緩く、太陽光パネルが崩れ落ちるおそれがあった。
木曽町は長野県の呼びかけを受けて、5年前に再生可能エネルギーの導入を促進するための条例を制定していた。しかし、建設に反対する住民の声を受けて、この条例を廃止し、新たに設置を規制する条例を制定した。条例によって、御嶽山のふもとは全域が「抑制区域」となり、今後は原則として大規模な太陽光発電施設は設置できない。