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全ての原発を即停止せよ 浜岡だけで誤魔化せぬ

 東北大震災から2カ月がたつが、いまだに東京電力・福島第1原発事故の収束のめどはたっていない。そればかりか、日に日に新たな事態が発生して右往左往しており、東電も国も原子力発電所のコントロール能力はまったくないことをまざまざと見せつけている。そうしたなかで菅政府は中部電力に対し浜岡原発の停止要請を出した。それも津波対策の防潮堤完成までの2年程度であり、しかも浜岡原発以外の原発については停止要請は出さないという。菅政府の浜岡原発停止要請は、「のどもとすぎれば熱さ忘れる」と国民を侮り、ほとぼりがさめるのを待ってなんの反省もなく原発推進に突き進もうというその場しのぎである。今回の原発震災を引き起こした反省に立って、新規計画の上関原発白紙撤回をはじめ、すべての既存原発をただちに停止することが国益である。
 
 島国に54基も集中する無謀さ

 菅首相は6日、中部電力に対し、静岡県御前崎市にある浜岡原発のすべての原子炉の運転停止を要請した。菅首相は「文科省の地震調査研究推進本部によればこれから30年以内にマグニチュード(M)8程度の想定の東海地震が発生する可能性は87%と切迫している。……防潮堤の設置などの対策が完成するまでのあいだ、運転を停止すべきと判断した」とした。これは原発推進政策を転換するものではない。9日には枝野官房長官が「原発政策の基本は変わっていない」、また仙谷官房副長官も「戦略、政策としては原発を堅持する」と会見のなかで発言した。中部電力の水野社長もこの要請を受け入れることを決めたことについて、「2~3年後の運転再開へのめどがたち、菅政権から支援の確約も得られたためだ」と語っている。つまり「東海地震に十分対応できる」(菅首相)防潮堤完成までの2~3年間の停止である。


 菅政府には今回の重大原発震災からなにも学ばず、原子力政策を根本的に転換する構えはない。それどころか経済産業省内では「原発の緊急安全対策を進めて“安全宣言”を早期におこなうことで、既設の原発からの電力供給を確保し、2030~50年には“世界最高レベルの安全性に支えられた原子力”をエネルギー政策の三本柱の一つとする」などと、今回の事態を一層の原発推進の足がかりにしようという論議が公然とおこなわれている。


 福島原発事故を経験して、地震学者など専門家は「福島原発事故の最大の教訓は、世界有数の地震国、津波国の日本に、技術的に未完成な原発を集中立地することがいかに無謀なことであるかということだ」と強く警鐘を鳴らしている。


 地震学者の石橋克彦氏は、07年の新潟県中越沖地震(M6・8)で東京電力の柏崎刈羽原発が大被害を受けた後、「日本の海岸線を縁取る50基以上の原発の地震被害が日常的風景になるといってもよく、原発震災がいつ起きても不思議ではない」と警告を発してきた。福島原発事故を受けて「日本には17商業用原発があり、54基の大型原子炉が稼働している。地球上の地震活動の約1割が集中している狭い島国に、世界中の発電用原子炉の1割以上があって米・仏につぐ世界3位の原発大国なのだ」とし、日本列島における原発の危険性の本質が、「地震列島・日本」にあり、イギリスやフランス、アメリカなどとは違った「原発の怖さが、到るところに、地震・火山のさまざまな種類の現象にひそんでいる」とのべている。今回の事故の根本原因は「唯一つ、地震列島で、しかもプレート境界断層面に対峙して原発を建てたことだ」と主張し、「地震列島からの原発の撤収」こそが必要であることを訴えている。

 どこでも大地震の危機 確率0%で福島被災

 日本の地震学者は95年の阪神・淡路大震災以降、25~30年間日本列島は「地震の活動期」に入ったとしている。さらに今回の東日本大震災でM9・0の超巨大地震によって、日本列島のほとんど全域で大地震が起こりやすくなっていると警告する。気象庁の4月発表でも、3月発生のM6以上の地震は77回を数え、過去3年間の月平均の約50倍にのぼっている。また全国の20の火山で平常時よりも地震が増加したとしている。同庁地震火山部は「東日本大震災以降、全国的に地震活動が活発化しており、大震災との関連性は否定できない。歴史的には巨大地震から数カ月後に火山が噴火した例もある」と指摘している。20の火山のなかには、焼岳や富士山、箱根山、阿蘇山などがある。


 そうしたなかで、地震学者のなかでも近い将来発生が確実視されている東海巨大地震(M8以上)の想定震源域の真上に位置する浜岡原発の危険性が指摘され、閉鎖する必要があることが訴えられてきた。このほか、07年の地震で火災を起こし、放射能漏れを起こした柏崎・刈羽原発についても、原因解明なしに「安全宣言」がされ運転が再開され、健全性が不確実であり、直下でM6・5クラスの余震が発生することも予測されており、また事故が起こりかねない。また、活断層が密集している若狭湾でM7・5をこえる大地震が起これば、京阪神・中京圏をまきこんだ原発震災になる。若狭湾には運転歴40年をこすかそれに近い、敦賀原発1号機や美浜原発1、2号機、高浜原発1号機など老朽原発が多い。専門家らはこれらの原発の順次閉鎖を主張している。さらにナトリウム漏れの重大事故を起こした高速増殖炉もんじゅや青森県六ヶ所村の核燃料サイクル関連施設も危険性がきわめて高く、閉鎖の必要性を指摘している。また、現在建設中の青森県・大間原発、東通原発、島根原発の建設中止、上関原発の計画白紙撤回が当然であり、早急に実行することを呼びかけている。


 また、浜岡原発だけが危険性が高いとはいえないことを政府自身が認めている。文科省の地震調査研究推進本部は今年1月に「浜岡原発で30年以内に震度6強以上の地震が起きる確率は84%」とし、他の原発より10倍以上高いとしていた。だが、「福島第1原発での地震発生確率は0%」としていた。その福島原発を東日本大震災が襲ったのであり、日本列島ではどこで巨大地震が発生し、原発震災が起こっても不思議ではない状況にある。


 菅政府は浜岡原発の2~3年間の停止でお茶を濁し、国民世論をあざむいて原発推進に拍車をかけるかまえであるが、全国的な世論はそれを許さない規模で高揚している。

 停止求める行動広がる 九電管内でも

 全国の原発立地点周辺では、原発震災に対する問題意識が高まり、行動を開始している。
 九州電力管内では佐賀県に玄海原発、鹿児島県に川内原発がある。とくに玄海原発は昨年からプルサーマルを導入している。


 4月には九電本社前で「玄海原発、川内原発の永久停止・廃炉」を要求する行動がおこなわれた。また、「玄海原発2、3号機の5月再開を中止せよ」と要求した。これまでは「事故が起きても幾重もの層で燃料棒は守られているから放射能が漏れるようなことは絶対ない」といってきた九電は、「緊急用の電源車を新たに設置した」など、福島原発級の事故が起きることを前提として原発の運転を続ける姿勢を示したことは住民の怒りを買った。


 浜岡原発には停止要請した政府は玄海原発については緊急津波安全対策に認可を与えた。これを受けて九電は玄海原発2、3号機の早期再開を目指している。だが、これまでは「地元」としては扱われてこなかった原発から10~30㌔圏内の六県市が九電に説明を求めており、地元の同意を得ることは難航している。


 九電はこれまで立地する佐賀県と玄海町のほか、国が10㌔圏内と定める原子力事故の防災対策重点地域内の唐津市、長崎県、同県松浦市には事前報告してきた。だが、福島原発事故を受けて、その範囲をこえる自治体から声が上がっている。


 福岡県糸島市は玄海原発の20~30㌔圏内に入る。福島第1原発事故では30㌔圏内が避難・屋内退避の対象となった。同市の松本市長は「九電に説明を求める」と強調。同じく30㌔圏内に位置する長崎県壱岐市も「安全性の説明をするべきだ」と主張。白川市長は「浜岡原発を停止すると発表したときに玄海原発の再稼働を許可するのは配慮がなさすぎる」と政府を批判した。伊万里市、福岡県も九電に説明を求めている。


 また、30㌔以上離れた福岡市も「十分な説明が必要だ」としている。なお、福岡市は防災会議を開き、市の地域防災計画を九電の玄海原発の事故を想定した内容に見直す考えを表明した。現行の防災計画では原発事故は想定していない。5月中に津波や原子力の専門家、市民で構成する委員会を設置し、避難計画などを検討する。同市の西部は玄海原発から最短で約37㌔、中心部までは約55㌔離れている。50㌔圏内には佐世保市も入っている。佐賀県も現在原発から半径10㌔としている防災対策の重点地域の見直しを表明している。


 今回の福島原発事故で、半径50㌔圏では全住民の長期避難がありうることが実証された。上関原発の50㌔圏内には、周南、柳井市はもちろん岩国市が入り、広島市にも接近する。大分県、愛媛県の一部も圏内に入る。また、閉鎖海域である瀬戸内海の中心部がまるごと含まれ、漁業への影響や海上交通への影響は計り知れない。


 54基の原発がある日本の総面積は約38万平方㌔㍍である。フランスには58基の原発があるが、総面積は約63万平方㌔㍍、アメリカは104で総面積は約937万平方㌔㍍である。日本では狭い国土のなかに54基の原発がひしめいており、54基の原発の半径50㌔圏内が危険となると、逃げる場所もないのが現実である。


 ところがアメリカの「原発ルネッサンス」の先兵となってきた菅政府は2010年の「エネルギー基本計画」ではさらに14基の新・増設を掲げ、設備利用率を90%に引き上げ、発電に占める原発の割合を50%に引き上げる計画である。設備利用率を高めるために、定期検査の間隔を13カ月から最長24カ月までのばす制度も導入。新増設が進まない場合も考えて既存原発の出力を増大することも可能にし、利潤追求第一で原発の安全切り捨てを強行した。

 地震運命だから諦めよ 与謝野経産相の主張

 地震列島にコントロール不能な原発を70基も建設するという無謀な計画を菅政府も財界も、いまだにあきらめてはいない。与謝野経産相は「地震は運命だからあきらめろ。原子力は必要だ」とのべ、近藤元経産省政務官も「東京電力はよくやっている。これでとまっているのは日本の原子力が優秀だからだ」といい、米倉経団連会長は「1000年に1度の津波に耐えているのはすばらしい。原子力行政はもっと胸をはるべきだ」と広言している。東芝の佐々木社長は「巨費を投じて会社経営の一つの柱とした原子力発電事業を簡単にあきらめる気はない」と断言した。


 菅政府も財界も、私的な企業の利益追求のために日本民族を滅亡の淵に立たせる原発震災にもなんら反省の色はない。引き続きアメリカの政策に追随し、原発推進で突き進もうという姿勢である。また、原発は原爆を製造する軍事工場であり、日米軍事同盟による軍事的要請から原発推進が強行されている。だが、今回の福島原発事故で、原子力をコントロールする能力は、東電にも政府にもアメリカのGEにも米軍にもまったくないことがはっきりした。また、菅政府の統治能力のなさがさらけ出された。無能な菅政府や東電・財界が反省もないまま原発を推進すれば、さらに重大な原発事故を起こすことはまちがいない。


 原発の新規計画を白紙撤回し、既存の全原発を停止させることは、地震列島である日本の歴史的な経験や地理的条件からみてもっとも合理的な政策であり、地震活動が活発化する時期を迎え、緊急な課題になっている。

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