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国内最大の陸上風力建設に異議 電源開発が広島県西部に計画 土砂災害の危険性を危惧

 広島県西部地域に国内最大級の風力発電施設を建設する「広島西ウインドファーム(仮称)」計画をめぐり、事業者の電源開発(Jパワー、東京)は1月26日から環境影響評価方法書の縦覧を始め、9日からは予定地周辺で住民説明会を開いている。国が「カーボンニュートラル(脱炭素化)」「地球温暖化防止対策」として後押しする再エネ事業だが、東京資本による鳴り物入りの大規模開発計画に住民の警戒心は高く、説明会では環境保全や防災などの観点から計画見直しや中止を求める意見があいついだ。

 

 この風力事業は、広島市佐伯区湯来町、廿日市市、安芸太田町にまたがる約2700㌶を対象区域とし、高さ150㍍、ローター直径130㍍の風車(出力4300㌔㍗)を最大36基(総出力15万4800㌔㍗)を建設するもの。陸上風力発電としては、国内最大の「ウインドファームつがる」(青森県、12万1600㌔㍗)を大きくこえる、国内では例がない規模だ。

 

 建設予定地には、急峻な山々に挟まれた集落が散在し、広島市佐伯区湯来町(約6000人)、廿日市市吉和地区(約660人)、安芸太田町(約3000人)に約1万人が暮らす。風車群は、中国自動車道・吉和インターチェンジ付近から道路の両側に連なる山々に設置されるため、谷間の集落は風車にとり囲まれる形になる【図参照】。これもまた国内に前例がなく、多くの住民が低周波や騒音による健康被害を危惧している。

 

 また、風車は標高800~1100㍍付近の尾根(山頂部)に建設され、その基礎は18㍍四方、深さ約18㍍の杭を24本打ち込む計画となっている。一基当り50㍍四方の土地を掘削する計画で、掘削土石量は1カ所当り1万㌧に達する。さらに各風車をつなぐ道路(幅4㍍以上)を尾根部を中心に整備するため、少なくとも25㌔㍍以上を新たに掘削することになり、その工事による掘削土砂量は少なくとも20万㌧以上になると考えられている。

 

 広島県は2018年の西日本豪雨災害(死者108人)、14年8月の広島市を中心にした豪雨災害(死者77人)など、甚大な土砂災害に見舞われてきた。風車建設予定地の山々の地質も同じく豪雨等によって崩壊しやすい混在岩(含レキ泥岩)が多い地質であり、予定地内には土石流発生想定箇所が531カ所あると地質学者が報告している。

 

 湯来町でも、1951年のルース台風で太田川の支流である水内川が氾濫して40人以上が犠牲になり、1988年には安芸太田町加計付近で土石流が頻発して15人が犠牲になるなど、この地域にとって土砂災害は決して「想定外」ではない。民間企業の一時的な営利事業のために山を大規模に開発することは、未来永劫にわたって地域の安全を脅かすことになりかねず、住民たちが計画に反対する大きな理由になっている。

 

住民説明会では疑問が噴出

 

安芸太田町戸河内ふれあいセンターでの住民説明会(16日、広島県)

 電源開発が9日から、廿日市市吉和、広島市佐伯区湯来(2カ所)、安芸太田町(戸河内、加計、筒賀)の計6カ所で開催した住民説明会では、コロナ禍でありながらどの会場も数十人規模の住民が参加し、激しい反対意見が飛び交った。

 

 安芸太田町戸河内で開かれた住民説明会には約50人の住民が参加。事業者側は1時間にわたって、環境影響評価法に基づく12項目の調査方法を説明したが、住民側からは「それでは不十分」とする厳しい意見があいつぎ、質疑応答は予定時間を1時間以上超過する白熱したものとなった。

 

 生態系の調査対象をクマタカ(絶滅危惧種)など鳥類に限定していることについて、男性住民は「この地域はツキノワグマ生息地の本州西端だ。低周波や騒音、工事、道路敷設などによってクマの行動が変わったり、道路慣れ、人慣れをして人里におりて来ることも十分考えられる。それは地域住民の生活にも大きく影響するものだ」とのべた。事業者側は「風車が回る影響を受けやすいのはクマタカと考えている」として調査対象は変えない姿勢を示した。

 

 女性住民は、「人や環境に優しい再エネ業者といわれるが、電源開発は大間原発(青森県)を建設して稼働を待っている状態だ。風力もやるが、原発も火力もやっている。風車が建たなければわからない低周波の影響は調査しようがなく、住んでいる場所や人の感受性によっても変わる。形だけで初めから結論ありきの調査では意味がない。しかも土砂災害の影響については環境影響評価に一言も示されていない」と指摘した。事業者側は「低周波は自動車からも工場からも出ており、風車だけが危険なわけでない」と抗弁し、災害想定については「法的な調査規定がない」「これから検討する」というのみで、参加者からは「答えになっていない」「5000㌧以上もある構造物を山頂に建てれば土砂災害は必至だ!」と批判の声が飛んだ。

 

 年配男性は「福島原発事故を見ても、地方の富を東京に吸い上げていくだけで、多くの住民が苦しんでいても幹部は温々と生活している。企業幹部は風車の真下で生活し、壊した自然を修復するまで末代まで責任をもってほしい」と意見したが、事業者は「利益は地元の皆さんに還元していく」として地元業者への発注や固定資産税の納税など経済的な「アメ」をちらつかせたことも、住民の怒りに油を注いだ。

 

 また、「原発をつくらないための社会貢献だと思って太陽光パネルを設置したが、最近、中国電力が“電気が余っているので出力抑制の機器をとり付けてくれなければ買電に応じられない”と通知してきた。電気は足りているのになんのために発電するのか。森林伐採し、掘削作業のために大型車両を動かし、樹脂(石油)製の大型風車を何十基も設置することに比べ、風力発電ではどれだけのCO2が削減されるのか」(女性)、「広島は全国有数の土砂災害が多い地域だが、そこに国内最大級の風車を建てるというのは未知のチャレンジだ。命が奪われかねないものであり、防災面の協議は公開の場で住民参加でおこなわれるべきだ。安全が確約できるのなら口約束ではなく、文書で回答してほしい」(女性)との意見にも、事業者側は「再エネの出力を優先するように国レベルで法整備が進められている」「CO2削減の比較試算はしていない」「(防災面については)今後相談させていただく」とのべるだけだった。

 

 住民からは「建設費が500億~600億円で、設備利用率が20~28%で20年(FITによる電力買い取り期間)の稼働を想定しているなら、単純計算で電源開発は20年で950億~1000億円規模の利益が出る。そのためにかけがえのない自然が壊され、地域は土砂災害の危険にさらされる。国の指針でつくられた国道でさえ土砂崩落しているのに、事業実施後に放置される残存物(道路や風車)の管理責任にすら言及がない。建ててしまってからでは遅い」(男性)、「安芸太田町では予定地の多くが町の財産区であり、災害の可能性がある場合は禁伐の規定もあるのを知っているのか」(男性)などの意見が出された。

 

 湯来町での説明会(50人参加)でも「活断層の記述がまったくない」「名水百選に選ばれた太田川の支流は47ある。上流域の開発で太田川が汚染された場合、三菱総研の試算によれば数兆円規模の損害が生じる。白紙撤回すべき」「地権者との間だけで地上権設定契約をすることは姑息であり、机上ではわからないリスクにも責任を持て」と激しく意見が飛び、電源開発の不誠実な回答に怒った住民が説明書を破り捨てるなど終始白熱した討論となった。

 

 参加した住民は「事業反対の意見が出るたびに、会場から拍手が出た。80歳をこえた地元の長老が、力をふりしぼって反対の発言をされていた。長年にわたり地域を見守ってきたからこその警告に聞こえた。事業者は“地域社会との共生”を目指すのなら、最も傾聴すべき内容であるはずなのに、通りいっぺんの回答をくり返すだけだった。説明会の参加者が日ごとに増え、反対世論が居住地域の枠をこえてつながり、まとまりができてきていることが明るい材料だ」とのべた。

 

 日本地質学会会員で広島県自主防災アドバイザーの越智秀二氏は、「山頂を開発すれば山の崩落に繋がるため、植林事業でも山頂は自然林のまま残すのが鉄則だ。だが今計画は正反対だ。花崗岩がむき出しになっている場所も多く、岩の割れ目に入った水が凍結と解凍をくり返して亀裂が広がり、岩盤が不安定になっている。木に覆われているから保護されているのに、これを伐採・掘削し、巨大な構造物を建てれば一気に崩壊が進む。環境アセスは事業者にとって有利になるように影響の少ないものしか調査しない。地質や災害について知見をもたないから事業者は平気で説明ができる。実際にはレッドゾーンだらけであり、風力発電は建設すべきではない」と指摘した。

 

2018年7月豪雨による土砂災害では多くの家が埋まった(広島県呉市天応)

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