下関市では新型コロナ対応をしている地方独立行政法人・下関市立市民病院で院内感染が発生し、関係者らのあいだに緊張が走っている。25日に入院患者の陽性が判明し、医療スタッフなどに対しPCR検査をおこなったところ、27日現在で4人(看護師3人、患者1人)の陽性が確認された。5人以上の陽性者が出たことから、下関市は同日、クラスターが発生したと認定した。下関市の医療体制の中核を担う市民病院の機能が停止することは、医療崩壊につながる危険性をはらんでおり、関係者らのあいだで迅速な対応を求める声が高まっている。
最初に感染が確認されたのは25日(金)の午後。15日に発熱と体動困難で救急搬送された70代男性の発熱がおさまらないため、25日にPCR検査をおこなったところ陽性が判明した。市保健部によると、救急搬送されてきたさいには「新型コロナを疑う状態にはない」との判断でPCR検査をおこなっていなかった。この男性の家族は全員陰性で、行動履歴では県外移動や陽性者との濃厚接触はなく、感染経路は不明だ。
市民病院はこの日の夕方から救急の受け入れを停止。翌26日(土)から1月8日(金)までの期間、救急患者の受け入れ、新規の入院患者の受け入れ、新規の外来患者の受け入れを停止することを発表している。
現在、同室の入院患者、医療従事者や出入り業者などのうち、濃厚接触者を優先してPCR検査をおこなっている。全体でおよそ500件の検査が進行中で、27日までに結果が判明した203件のうち4人が陽性だった。27日に新たに陽性が判明した入院患者(70代女性)も同じ病棟だったが、病室は別だった。残り約330件が結果待ちのほか、今後、非正規職員およそ100人、入院患者50人程度の検査を予定している(検査総数は約700件)。
そのほかにも、事務の委託会社社員や清掃業者、リネン会社、葬儀会社、メッセンジャーや荷物を運搬する業務に従事する人など、多くの関係者が病院内を行きかっている。27日に市保健部のクラスター班が同病院に調査に入っており、状況を把握したうえで、これら出入り業者などについても検査を検討するほか、医療現場が必要とする支援をおこなう。
求められる十分な情報共有 医療崩壊の懸念も
最初に陽性患者が出た病棟を担当していた看護師や、濃厚接触者となった関係者のなかには、家族がいるため帰宅できず、病院内にとどまらざるを得なかった人も複数いる。医療現場では、濃厚接触者となって離脱せざるを得ないスタッフの業務をカバーする体制づくりにも追われるなど、懸命な対応が続いている。医療スタッフ、とくに看護師の陽性者が増加すれば、スタッフ不足に陥り、医療体制の維持も困難になる。現場スタッフやその家族の不安ははかり知れず、現場の声を吸い上げ、行政としてフォロー体制をとることが必須となっている。現場に十分な情報が共有されていないことが、より対応を困難にしているとみられ、情報共有を求める声も強い。
検査が進行しているものの、関係者のあいだでは「同じ病棟の入院患者すべての検査はされていない」との指摘もあり、看護に赴くことへの危険を感じているスタッフもいる。濃厚接触者と陽性者はコロナ対応の病床に移動し、2週間の健康観察をおこなうものの、その他を含む全員の検査をおこなう予定はない(検査対象は50人程度)。また「接触」や「接触の疑いはない」と判断した患者については検査せず、退院など通常対応をおこなう方針にも危惧の声が上がっている。院内のどこで感染が広がっているかわからないため、現時点で厳密に検査を徹底し、感染状況を正確に把握しておかなければ、今後さらに院内感染が拡大する可能性があるばかりか、退院後に家庭内感染などが発生しかねないからだ。
下関市は、コロナ対応の病床を128床(うち重症者用8床)を確保していると公表している。このうち即応病床は42床であり、その大半を占める市民病院(感染病床6床、一般病床30床弱)でのクラスター発生の打撃は大きい。
同病院は入院中の新型コロナ患者のうち、軽症者をホテルに移動させる方針で、すでに山口県がホテルの確保は終えているという。医師が移動可能と判断した患者をホテルに移動させ、県の要請があれば下関市も医療スタッフを派遣する。
コロナ発生前から下関市は4総合病院の医師の高齢化や人手不足で、救急受け入れ体制など一角が崩れれば医療崩壊しかねないギリギリの状態であったことが指摘されてきた。市民病院の機能停止が長引けば、地域医療の崩壊にもつながりかねず、徹底的かつ迅速な行政対応が求められている。