いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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この期に及んで祝島に受け取り迫る 14日に漁協総会


 上関原発建設計画を巡って漁業補償金の受けとりを拒否している祝島の漁師に対して、6日に山口県漁協本店から「漁業補償金配分基準」について採決するため、総会の部会を招集するとの通知が届いている。森友信代表理事組合長の名前で組合員に配られた文書の中では、4月14日(火)午前9時より開催すること、開催場所は祝島ではなく、県漁協・柳井事業所会議室(柳井市)であることが記されている。一昨年、昨年と祝島島民が総会の開催に抗議して実力行動をくり広げ、県漁協幹部が恐れをなして逃げ帰っていたが、公有水面埋立免許失効の可否判断が迫るなかで、追い詰められた原発推進勢力が祝島島外での総会開催という、前代未聞の禁じ手を使って押し切ろうとしている。安倍首相お膝元である山口県において、この期に及んで粛々と原発手続きを推進する動きが現れている。
 
 裏切り者に期待する県当局

 会場を遠く離れた柳井市の柳井事業所にした理由について、県漁協は
①総会の部会開催当日において、多くの組合員以外の人たちによって祝島の渡船場が占拠され、総会の部会招集者を含め本店役職員の上陸が著しく困難であることが予想される。
②たとえ祝島に上陸しても、多くの組合員以外の人人の妨害によって、総会の部会の会場まで到達が困難であることが予想される。
③さらに会場(祝島公民館)についても、事前に多くの組合員以外の人人によって占拠され、事前に開催準備ができない恐れがある。
④今回予定している部会の会場は、祝島から定期船を経由して、柳井市の渡船場から徒歩で約10分程度の場所であり、出席は困難でないと考える。また当漁協が所有、管理する土地・建物でもあり、総会の部会の開催に向けて充分な対応をおこなうことができ、開催可能な場所である。
⑤近隣の支店である上関町の上関支店、室津支店、四代支店には、総会の部会を開催する適当な会場がなく、付近の公的施設では自己所有地及び施設でないため、総会の部会開催のための対応が充分にとれない。
 といった理由を縷々上げている。そして、出席者には後日支店から交通費(実費)が支払われることや、当日出席できない場合、委任状を利用するよう促している。通知のほかに、「不当・不法に委任状を求められた場合」とする内容の文書も同封され、「総会の部会の議案は、今後の支店運営や組合員のみなさまに影響のある重要なもの」であり、「必ずご本人が出席し、しっかり説明を聞いていただいたうえで意思表示」するよう要求。「万が一、正組合員のみなさまが他の組合員や非組合員から不当および不法な方法で委任状を求められたり、本人の出席が妨げられるようなことがあった場合」には、「本店総務指導部 白石」まで連絡するよう求め、「場合によっては弁護士や警察に相談するなど適切な対応をとる」として、祝島島民に恫喝を加えている。

 村岡県政 公有水面判断迫り焦る

 昨年、村岡県政が発足して間もない3月に総会の部会を開催しようとして、このさいも島民の抗議行動によって山口県漁協が断念した経緯がある。春が来る度に、祝島に対して補償金の受け取りを迫っているのは、公有水面埋立許可を延長するか失効するかの判断を県知事が迫られているからである。昨年、山本繁太郎に続いて村岡知事も「判断に必要な根拠が整っていない」ことを理由に一年間先送りすることを発表していた。その期限が迫っているなかで、無理矢理にでも手続きを進めようとしている。
 原発予定地の公有水面については、「法的根拠」が曖昧だから許可が出せないのではない。二井知事が08年にいったん許可したものの、水面下で片付けるはずだった祝島の漁業権問題に決着がつかず、期限の3年がきても島民たちが補償金の受け取りを拒否したため、その間、中電は海に手がつけられなかった。埋立許可は出ているのに工事すると漁業権の侵害行為になるという前例がない事態に発展し、行き詰まっている事実を隠蔽するために、ブイを浮かべて「着手!」と騒いでみたり、適当な衝突を演出して「工事ができない」理由付けにしたり、推進側も必死に誤魔化していた。
 祝島との関係では漁業交渉どころか受領関係すら成立しておらず、この漁業権を剥奪してしまわなければ公有水面埋立許可を出しても工事ができないのである。だからこそ国庫に没収されるべき法務局の供託金(祝島が受け取り拒否した補償金)を勝手に引き出し、執拗に受け取りを迫ってきた。
 総会は本来、組合員の2分の1以上の参加で成立し、漁業権ともかかわった特別議決は組合員の3分の2の賛成がなければ成立しない。祝島の漁民にとって最高の意思決定機関である総会が祝島で開催されず、町外の柳井市にこっそり呼び寄せて祝島島民の生活や瀬戸内海沿岸に暮らす住民の未来を売り飛ばそうというのだから、これほどデタラメなことはない。祝島の正組合員は53人で、27人が参加するなら成立と見なし、しかも「配分」承認については過半数で済むといっているのが県漁協である。
 祝島では「補償金を受け取るか否か」しか問うたことはない。漁業交渉の実態もない。正式な漁業権放棄の同意もなく、権利者が承知しないうちから中電が一方的にカネを振り込んだだけである。ところが、一昨年に抜き打ちでおこなった「補償金を受け取る」決議をもって良しとし、本来なら組合員が選任した配分委員によって分配方法が決められるべきところ、これも県漁協本店がみな決めて「承認せよ」といっている。漁業権放棄の手続きなどあってないようなもので、水協法の逸脱も甚だしい。
 何年にもわたって祝島の切り崩しを担ってきたのは、知事の意向をくんだ山口県の水産行政である。山口県漁協本店は県当局のいいなりで、歴代の水産部長なり審議官、現在部長クラスに出世した中島理事なりが、黒々とした裏工作の実態についてもっとも熟知していることである。反対派組合長の不正を締め上げて漁協合併に誘導した後は、反対派崩れの新興の推進派を取り立て、彼らが柳井の飲み屋で大西組合長らに飲ませ食わせでもてなされながら島の売り飛ばしに加担していたし、頻繁に県幹部に呼ばれていることもみなが知っている。そうして組合員53人にまつわる情報を収集し、誰がカネに弱いか、女に弱いか、酒に弱いか等等調べ尽くして切り崩しに勤しんできた。
 しかし籠絡させたと思った2009年の支店総会では反対35、賛成33で退けられ、翌2010年の支店総会では反対43、賛成15と反対が強いものになり、一昨年に唐突に開いた総会の部会において、無記名方式でやっと反対21、賛成31という結果になった。ただ、これを漁業権消滅のための3分の2同意にすり替えるのもムリな話で、票数そのものは必要数(35票)には足りない。配分決定までゴリ押ししたとしても、いずれ漁業権を議題にした総会を開催して3分の2同意を取り付け、さらに受領にともなって書面同意をとることが必要となる。それでも受け取らない組合員が出るなら、さらに延長戦となる。これほど補償金の受け取りにこだわるのは、1人残らず受け取らせなければ漁業権が未解決状態に置かれるからである。
 柳井市での総会開催という事態に対して、祝島の島民がどのような行動をするのか注目されている。この期に及んで安倍政府がお膝元で新規立地を進めていること、デタラメな漁業権剥奪がやられていることを全県、全国に広くアピールすることは大きな意味を持っている。このなかで、仮に強行したとして、それは長年にわたって島民を欺き、補償金吊り上げのために反対の仮面を被って推進してきた島内の魑魅魍魎(ちみもうりょう)をあぶり出す結果になることは疑いない。人を散々銭ボイト呼ばわりしてきた新興の推進派勢力が、30年の島ぐるみのたたかいを売り飛ばすことへの怒りは強烈に渦巻いている。この間、カネが欲しくて仕方ない者たちが、表には見えない無記名投票などでは賛成票を投じて島民を欺いてきた。こうした面面に担ぎ上げられてきた「反対派のカリスマ」こと山戸貞夫とその仲間たちが、いったいどのような振る舞いをするのかも、祝島全島だけでなく、全町、全県、全国が注目する点である。県漁協、山口県当局が柳井開催の総会で期待しているのは、彼らの怒濤の裏切りであり、それなしには過半数もおぼつかない。
 祝島では全島で斗争機運が高まっており、わずか30人足らずの漁師が30年の苦労を水の泡にして、あぶく銭と引き替えに郷土を売り渡していくことへ怒りが高まっている。推進勢力にとって最後の拠り所となっているのが反対派内部に潜んできた裏切り者で、この正体も暴露されるところへきた。漁業権同意を巡ってはまだまだ延長戦にもつれ込むことが予想されるなかで、裏切りのカードを使い果たしたとき、祝島崩しの糸口を失うのはむしろ推進勢力の側である。沖縄と同じように、島民主導で反対運動が統率されるなら、屁理屈で反対運動をねじ曲げ、敗北に導いていく運動路線を乗りこえ、以前よりもはるかに強い力となって広がることは疑いない。
 東日本大震災と福島事故から4年が経過したなかで、安倍政府が原発輸出や再稼働を動かし始め、新規立地の上関を巡っても攻防が激化している。表向きは国をあげて「新規立地をやる!」とはいえず、きわめて姑息なやり方で手続きを前に進めようとしている。地方創生どころか、郷土の売り飛ばしであり、山口県民や瀬戸内海で暮らす住民たちに福島県民と同じ境遇を強いて構わないというものである。安倍首相の指名でポストを与えられた村岡知事についても、全国最後の新規立地について推進するなら、どう県民の生命と財産に責任を負うのか厳重に問わなければならない。

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