あの未曾有の震災から5年が経った。年の瀬のNHK紅白歌合戦で毎年のようにアイドルが『花は咲く♪』を歌い、被災地はお涙ちょうだいの扱いを受けてきたが、津波でやられた三陸沿岸地域や福島の原発周辺は住民たちがいまだに戻れず、広大な土地には『花は咲く』どころかぺんぺん草ばかりが生い茂っている。五年もたちながらまともに復興できぬ惨い現実をお花畑に覆い隠してはならないと思う。
復興費用として国はこれまでに26兆円もの予算を投じ、残り5年も含めた10年間で32兆円をあてるという。被災者1人当たりに換算すると6800万円に相当する。ところがそのうち1%しか生活再建には回らなかった。除染といえばゼネコンが丸儲けをやり、巨大防潮堤もゼネコンが丸儲けをやり、広大な市街地のかさ上げもそう。みな「復興」と称して大企業の懐に消えていき、「もっとくれ」の遠慮知らずが食い物にして空っぽになる。
インフラ整備に巨額の費用がかかることはわかる。しかし、それだけの費用があるなら、流されて失った住宅を早急に整備するなり、人間の生活再建のためにできることがいくらでもあったはずだ。極端な話が、1軒当たり3000万円かけて国が面倒を見たとしても32兆円の半額にもならない。同じ金額の税金をかけてゼネコンや大企業が焼け太りするだけなら、その方がはるかに有用な使い道だったはずだ。
沿岸地域ではもともと住んでいた人間を追い出した後に建築規制を敷き、従来とは別物の開発をやることが創造的復興として持て囃されてきた。さらに、高さ10㍍をこえる巨大防潮堤を築き、膨大な年月を要する土地のかさ上げも進行している。津波は10㍍の壁など簡単に乗りこえてくるのに、まだそんなことをやっている。一方ではあれほどの悲劇を経験したのに原発再稼働を次次と強行している。国民の生命や暮らしを二の次にして、この国の為政者はいったい誰を見て復興しているのかである。
東京でひねり出した『花は咲く』を被災地はどのような思いで聞いているのだろうか。必要なのは同情や哀れみではなく、復興を阻む輩を撃退してまともな復興を成し遂げるための応援に違いない。“地方創生”の行き着く先を示している東北の現状は、全国にとっても他人事ではない。 武蔵坊五郎