れいわ新選組(山本太郎代表)の全国ツアーは九州ブロックに入り、19日に佐賀県唐津市でおしゃべり会、20日には福岡市のJR博多駅前でソーシャルディスタンス街宣をおこなった。約一年ぶりとなった福岡街宣には多くの聴衆が集まり、山本氏は1人10万円の毎月給付や消費税廃止などの大胆な給付と徴収の免除を中心にした「コロナ緊急政策」とともに、聴衆との質疑応答を交えて約2時間にわたって演説をおこなった。また、九州ブロックで初となる公認候補予定者を麻生太郎副総理の選挙区である福岡8区に擁立することを発表した。
一部のためでなく全体の奉仕者を
冒頭、山本氏は「20年以上にわたるデフレ。そこにコロナが襲い、このままの状態で日本経済もあなたの生活も崩壊に向かうことをなんとか止めなければならない。そのためには消費税廃止をはじめとするさまざまな政策が必要だ」とのべ、「テレビや新聞では日常的に『日本はこのままでは財政破綻する』と囁かれているが、私たちはさまざまな事実関係から、それはありえないことをチラシその他で訴えている。ぜひ読んでいただきたい」と呼びかけた。
その後は質疑応答に移り、参加者からは野党共闘の課題や勢力拡大のための広報活動のあり方、自民党デジタル社会推進本部が健康保険証と一体化させる方針を示したマイナンバー制度、また政治家の「愛国心」をめぐる質問などが出され、熱い論議となった。
「マイナンバーを社会保険(健康保険証)と抱き合わせにするというニュースを見たが、山本さんが国会に出たらこれにどう対応するのか」(女性)の質問に対して、山本氏は「マイナンバー制度は、みなさんの生活を便利にするためという概念では作られていない。情報は必ず漏れる。漏れるたびに変更したり、補修するという永遠に続く公共事業という考えのもとでつくられている。みなさんの個人情報はお金になる。マイナンバーが広がれば広がるほど企業が商利用できるからだ」と指摘して以下のようにのべた。
私は内閣委員会でマイナンバー制度の質疑に参加したが、政府側の説明のなかには「企業による利活用」という言葉も入っていた。いま一番大きな商業的価値(お金)を生むものはみなさんの個人情報だ。今日どのルートを通り、どのような手段で移動し、何を食べたかという情報を一元的に集めていけば、企業にとってはプラスになる。それは当然プライバシーと衝突する。ところが日本の個人情報の取り扱い基準は、欧州と比べてもかなり低い。それどころか米国などの情報大手と共有していくようなメガ協定を結ぼうとしている。欧州では自国内にサーバーを置かなければ情報を外には出さないという建て付けをしているが、日本は他国にも情報を移動できる状況を広げていこうとしている。
それは誰のためか。2013年に安倍前首相は「世界で一番企業が活躍しやすい国を目指す」と施政方針演説でのべた。これがすべてを物語っている。それ以前から企業側がもうかるような政治を続けてきたが、マイナンバーカードを運転免許や保険証と一体化させるのは、企業利益のためだ。それが漏洩して不利益を被るのはみなさんだ。
マイナンバーカードの取得率が低いのは、国の個人情報管理に大きな不安があるからだ。資産状況まで多岐にわたって情報を一体化させ、それが漏洩すれば個人は痛い目にあう。しかも、いまの日本では禁止されているプロファイリングで、さまざまな情報を結びつけることによって人物像を浮かび上がらせるようなことが広がる可能性がある。
欧州では2018年にGDPR(一般データ保護規則)が定められた。ネット社会での新しい個人の権利を規定した法律だ。そこには個人をデータの持ち主と位置づけ、企業は個人の同意なくデータを集めることはできないし、集めたデータも、持ち主が「返してほしい」といった場合は返すべきだ、といった考え方が根底にある。
その一方、日本の個人情報保護法は、対象情報の定義が狭すぎる。例えば、個人情報保護法では、初めから氏名が含まれていないデータは個人情報ではないと解釈されている。GDPRでは無記名の個人の履歴データも個人情報に該当する。
さらに日本は、プロファイリングの規制に対応していない。個人情報保護法では、情報漏洩対策ばかり注目されているが、GDPRでは自動処理による判断が重要視されている。例えば、企業が人材の採用において、同意なく人工知能で人物評価まで自動化すると違法になる。人が判断することが必要であり、機械に判断させてはいけないというものだ。だが日本国内では、すでに某就活サイトが学生の特徴をAIにかけて内定辞職率や早期離職率などを割り出し、その情報を企業に販売していた。国内で禁止されているはずのプロファイリングがすでに事件化しているのだ。
人々の情報に関しての定義や管理の仕方がずさんな国に信用がおけるはずがない。まずは国家としての信頼回復や、個人情報の定義を少なくとも欧州基準に近づける努力をしてからの話だ。
政治家の愛国心とは? 若い世代の疑問
18歳の男性は「右や左といった思想的なスタンスを別として、国会議員から地方議員にいたるまで、いまの政治家に愛国心というものはあるのか。日本国民のために全力を尽くすという信念をもっている政治家はいるのか?」と質問した。
山本氏は「国を愛する気持ちというのは、誰かからの押しつけではなく、この国を愛するという気持ちが湧き上がってくるような大人たちが存在しなければならないはずだ」としたうえで概略以下のように続けた。
実際には「国のために必要」といいながら、それが歪曲されることもある。だから根本的には、この国に生きる人々を守るためには何が必要かという視点に立つ必要がある。それはよくイデオロギーの違いで区別されがちだが、基準にすべきは憲法だ。憲法はこの国の最高法規であり、この国の権力者が守らなければならない。過去に権力者が暴走した結果、この国は大きく痛手を負った。その教訓から権力者を縛る法規が最上位に置かれている。
憲法15条には「すべて公務員は、全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない」と規定されている。いまの政治家と呼ばれるもののなかには、一部の奉仕者にしか見えない人がいないだろうか。さまざまな不祥事や公文書改ざん、自殺にまで追い込むという政治が目の前にある。政治家の資質を問われるならば、全体の奉仕者として働く覚悟があるか否か。そしてなによりも最高法規である憲法を守る意志があるか否かだ。
憲法99条には「国務大臣、国会議員、裁判官、その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負う」とある。そして憲法25条には「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」とある。
いまの政治は、憲法を守れているだろうか。コロナ前の日本では、厚労省の国民生活基礎調査によると、「生活が苦しい」という人たちが全世帯で54・4%、母子世帯では86・7%にものぼる。コロナ前ですら7人に1人の子どもが貧困で、一人暮らしの女性3人に1人が貧困だ。
日本銀行の調べでは、貯蓄ゼロ世帯は、2012年の民主党政権のときよりも2017年の自民党になってから格段に増えている【表参照】。世の中はより疲弊している。この責任がどこにあるのか考えるなら、誰がどう見ても自民党だ。民主党は2、3年しか政権トップにはいない。その前後の何十年にもわたって自民党がこの国をコントロールし続けてきた。その結果、多くの人々は生活が厳しい状況に置かれている。私も問いたい。「あなた方の愛国心とはなんですか?」と。
国をコントロールする権力を持ち、お金が刷れる。それが国だ。なのに実質賃金の推移【グラフ参照】をみても、1996年から2017年まで一度も上がっていない。20年以上のデフレだからだ。
お金が回っていない。物が売れず、物価が下がる。物価が下がれば企業の収益は少なくなり、収入が下がれば賃金も下がる。賃金が下がれば、また消費が落ち込む。このループから20年以上抜け出せない。こんな状態にある先進国は日本しかない。誰がこんな国にしたのか。それは経済政策を間違え続けてきた自民党以外にない。
自民党からお金や仕事をもらっている人が自民党を応援するのは理解できる。だが、それ以外の人々にとってはこの数十年をみるだけでもプラスにすらなっていない。逆に首を絞められている。しかもその間に消費税を何度も増税した。
消費税を上げれば消費が落ち込み、所得が低下する。誰かの消費が、誰かの所得に回るという経済循環をさらに弱める。より貧乏にさせるような増税の仕方だ。デフレ時に消費税を上げるような間抜けな経済政策をおこなう国は日本以外に存在しない。
この国に生きる人たちの生活をしっかり支え、この国の経済を守るという考えで仕事をやっている国会議員は、残念ながら多数派ではない。多数派は自民党と公明党だ。自分たちに組織票をくれ、日頃から献金をしてくれるような一部の企業や団体がいい思いをするという政治を続けている。それが続く限りはみんなが貧乏になっていく。
「真水」のないコロナ補正予算 失業も自殺者も増
さらに山本氏は、本格的な第三波を迎えたコロナ禍における国の対策について以下のように言及した。
今年度の本予算にはコロナ対策は含まれておらず、4月に入ってからようやく第一次補正予算が組まれた。当時、安倍首相は「雇用と生活は断じて守り抜く。GDPの2割にあたる事業規模108兆円、世界的にも最大級の経済対策を実施する」といった。事業規模は117兆円に増えたが、その数字にだまされてはいけない。
「事業規模」とは、GDPを間接的に増やすかもしれないという程度の不確実なものであり、国が出すお金ではない。
この117兆円には、納税・社会保険料納入猶予額の26兆円(猶予分は後で払う義務がある)、民間支出の42・7兆円も含まれている。民間が出すかもしれないが、出さないかもしれないものだ。必要なのは国が実際に出す「真水」であり、GDPを確実に直接増やす効果のある対策だ。
117兆円のうち真水の額はわずか25・6兆円だった。事業規模で予算額を大きくみせているが、実は超絶ドケチなのだ。
5月の第二次補正予算でも「先の補正予算と合わせて事業規模は200兆円をこえて、GDPの4割! 空前絶後! 世界最大!」という言葉がテレビ画面や新聞紙上に踊った。だが真水はたった31兆円だ。事実上のハッタリで、コロナの影響から人々を守れるのか? ということだ。
厚労省の発表(11月6日時点)で、コロナ関連解雇は7万人をこえた。それもハローワークを通じて捕捉した数であり、それ以外は把握もできない。とにかく失業者が1カ月に1万人ペースで増えているのだ。
そして、10月の自殺者は去年よりも40%増加した。男女別では、男性が去年よりも21・3%増えて1302人。女性が82・6%増えて851人になった。1カ月間の自殺者数としては過去五年間で最多だ。もう絶望の淵に立たされている人がいっぱいいる。
コロナ不況が、すでに「コロナ恐慌」に突入しようとしているなかで、国がやるべきことはさっさとお金を刷って人々に供給することだ。やれることがわかっているのにやらない。この国に生きる人々を救う立場にあり、権力を持ちながら、その責務を果たさない者は、政治の場から追い出さなければならない。
福岡8区で真っ向勝負 vs麻生太郎
さらに次期衆院選に向けて、自民党の麻生太郎副総理の選挙区でもある福岡8区(比例九州ブロック)に、前参議院議員の大島九州男氏(59)を擁立することを発表した。大島氏は福岡県直方市出身で、直方市議を3期務めた後、民主党(当時)から2回出馬し、いずれも麻生太郎に破れた。その後に参院比例代表で当選し、2019年の参院選で落選するまでの2期12年間、参議院議員を務めた。
山本氏は「麻生さんと真っ向勝負する候補者だ。私が参議院議員の時代、大島さんは内閣委員会の委員長だったが、私のような抗うものに対して心ある対応をしてくれた人だ。“あの麻生太郎に勝てるわけがない”と思われるかもしれないが、本気になれば変えられる。間違った政治を進めてきた者を入れ替えることができるという民主主義のルールをしっかりと前に進めていくためにも力を貸してもらいたい」と呼びかけた。
登壇した大島氏は、昨年の参院選後、れいわ新選組の全国ツアーで「ボランティアの皆さんや、寒いなかでお話を聞いてくれる皆さんの姿を見て、この政治家でなければ変えられないと確信し、麻生太郎に3度目の挑戦をさせてもらうことになった。れいわ新選組でなければ、日本の政治は変えられないからだ」「コロナで苦しんでいる人を助けるためには、財政出動をするしかない。その権限を持つ財務大臣は、本当に国民のための政治をすべきであり、自分たちの会社とか自分たちのグループのための政治はもうやめてくれということを、この選挙を通じて言いたい」とのべた。
また自身が議員時代に起きた森友学園問題で、近畿財務局職員の赤木俊夫氏が公文書改ざんを強要されたことを苦に自殺した事件に触れ、「国民の財産である公文書を改ざんさせて、大切な命を奪った財務省の責任をしっかりと問うていきたい。謝るべきは安倍前総理だけではなくて、そのトップである麻生太郎財務大臣だ。国会答弁では(赤木氏が作成した)ファイルがあるのではないかといわれたが、それすら出さない。真実を残したその記録は、命の記録だ。それを開示させ、そしてそのようなことが二度と起こらないような政治を作る」とのべ、国民本位の新しい政治を九州から作り上げていく決意をのべた。
鋭さ増す参加者の意識 コロナ禍で渦巻く政治要求
街宣会場では、年配者、サラリーマン、女子高生など年齢や職業もさまざまな老若男女が真剣に耳を傾け、初めて演説を聞きに来たり、ボランティアに参加する人が多くみられた。
ボランティアに参加した30代の大学教員は「れいわ新選組はストレートに政治課題を示しているので支持している。学生の現状を考えても、非正規雇用が拡大し、競争が煽られるような生きづらい社会を変えなければ先細りするばかりだ。国民の消費が活発にならなければ、実体の景気はよくならないのに、政府は国民のためになる経済政策をまったくやっていない。今年もコロナの影響で採用枠が絞られ、客室乗務員を希望していた学生も就職先を失った。福岡市内でも採用が減って学生の将来への不安が増している。コロナでバイトを切られたり、親の収入が減って仕送りが厳しくなり、学費どころか生活費の工面に困っている。いまは多くの事業所が補助金などで急場をしのいでいるが、なりゆきまかせの政治が続けば資金繰りが厳しくなり、倒産が増えるのは目に見えている。当然そのしわ寄せは学生にもくる。今すぐにでも国民を救う経済政策をうち出すべきだ」と語った。
久留米市からボランティアに参加した40代の男性は「今の政治は一部の奉仕者になっており、国民全体のための政治ではない。このまま国民を絞り続ける政治が続けば、いずれ国は衰退し、既得権益者自身の首も絞まっていくのではないか。金持ちは政治と税制について勉強をしているが、一般市民の手から政治が引き離されている。山本代表の訴えを聞くなかで、日本全体を立て直さなければ、自分自身の努力だけで生活を守ることはできないということに気づいた。若い人に知ってもらうためには、まずは自分自身が動いて、ボランティアとしてれいわ新選組の活動をサポートすることではないかと思って活動に参加した。各候補者やボランティアももっとレベルアップして、選挙に行かない5割にどうやって働きかけるかを考えていかないといけない」と語った。
筑紫野市から初めてボランティアに参加した女性は「もともと自分は“宗教と政治にはかかわりたくない”と思って政治の話題を避けてきたが、今回コロナでの政府の姿勢を見て考えが変わった。国の対策が本当に国民のためになっているのか疑問だし、“政府は何もしてくれない。日本の政治はこんなにも冷たいのか……”と痛感した。自分にはなにができるのか少しずつ勉強を始め、市民が政治を知るきっかけを作るために協力したいと思い、初めてボランティアに参加した。今日は消費税廃止の署名を訴えたが、演説が始まると足を止める人が増え、声をかけると賛同してくれる人が多かった」と思いを口にした。
初めて演説を聞きに来たという30代の男性は、「長い間、政治に無関心だったが、コロナで政治と生活が密着していることに気がついた。山本太郎さんの動画をネットで見て世の中の仕組みを知るなかで、これを横に広げていくことの重要性を感じた。一部の人のための政治ではなく、みんなの暮らしをよくしていく政治を実現しなければ、半年後にはもっと悲惨な社会になっていると思う。自分は派遣社員を雇い止めになり、コロナが襲ってきて自粛期に入り、再就職活動もままならずにいる。周辺でも失業や収入減で将来の展望も描けず、結婚もできないロスジェネ世代がたくさんいる。それでもテレビやメディアは電通などの大手に忖度して、この深刻な事実を伝えない。タレントやコメンテーターも右傾化して弱者を叩くような風潮が増し、“自助努力をしろ”という政治に怒りを感じる。個人の力は小さいが、気がついた人から行動をしていかなければなにも変わらないと思う」と語り、ポスターを持ち帰った。
福岡県内から駆けつけた30代の女性は、「はじめて生で演説を聞いた。昨年まで福岡市内で飲食業をしていたが、同業者の間では、お客が減り、補償もなく、苦しんでいる人がたくさんいる。山本太郎さんはすべての事実を偽りなく伝えてくれるので信頼している。一人一人の命を大切にするのが当たり前の政治なのに、いまの日本は違う。みんなが望む当たり前の社会にしたい」とのべ、自宅に貼るためのポスターを持ち帰った。
れいわ新選組は引き続き、23日(月)の正午からJR熊本駅東口広場、24日(火)の午後5時から鹿児島県のJR国分駅西口で街頭演説をおこなう予定。