寒さが厳しさを増すなか、新型コロナウイルスの感染者が再び北海道や東京、大阪などの都市部を中心に広がりを見せはじめ、第三波の到来が危惧されている。地方都市でもクラスターが発生する度に、多少持ち直し始めたかに思われた飲食店でも再び閑古鳥が鳴き、忘年会などで稼ぎ時の11~12月もこの調子だと、とても経営は保たないと絶望の面持ちで漏らす居酒屋店主たちも少なくない。公務員や病院関係者が自粛しているほかに、企業でもアフター5の居酒屋での会食を控えるよう指示が出ているところもあり、客足がぱったりと止まっているからだ。そして下関の街では、中心市街地で長年にわたって経営してきた某老舗ホテルの休業という名の廃業がヒソヒソと取り沙汰され始め、1カ月前の老舗コメ卸の社長失踪と自己破産に続いて「老舗がバタバタと逝くな…」「コロナも影響したのだろうか…」と残念な話題が続いている。
欧米ほどの感染拡大ではないものの、日本国内でも明らかに感染数は増大傾向にあり、連日発表される1日当りの感染者数は伸びを見せている。そうした事態に際して、緊急提言を発表した政府の新型コロナ感染症対策分科会の尾身会長は、「食べるときは左手で(マスクを)外して、食べる。そのときはしゃべっていません。食べるときはしゃべらない。飲み込んだら、(マスクを再びつける仕草)」などと会食時の対策を身振り手振りを交えて真顔で説き、世間を唖然とさせた。食べる瞬間はマスクを外し、お話する際にはマスクを着用し、再び食べるときにはマスクを外し、飲み込んだらマスクを着用する――。左利きの人はその逆――。この無限ループで会食すれば感染対策になるというのである。政府の感染症対策の行方を左右するような立場の人間が、なにを思ってこのような非現実的な戯言をこの期に及んで発しているのだろうかと不思議でならないし、真顔でふざけているのだろうか? とすら思う場面だった。
恐らく尾身会長は政府がGoToイートやGoToトラベルを展開していることに忖度したのだろう。しかし、感染拡大が広がっている折に、片側をパカパカとさせたマスクの着せ替え人形のようになってまで会食する意味が不明であるし、まず感染症の専門家として提言すべきはマスクの扱い方ではなく、人の流動化を促す一連のGoToキャンペーンを即刻中止せよ! のはずである。ここにきて感染拡大が広がっていることについて、もっぱら寒さに起因するかのような指摘もあるものの、まだ終息もしていないうちに7月末から全国民に旅行を促し、また飲食に出かけるよう促す政策がやられたことと、今日の感染急増は決して無関係とはいえないのである。二階幹事長が叫ぶ「5月までの延期」などもってのほかで、このままダラダラと旅行・飲食を促した場合、東京2021・五輪も中止に追い込まれるのが関の山だろう。福島と同じく、コロナも完全にコントロールされていないのである。
前述したように、飲食店やホテル・旅館をはじめ、各種産業のなかでもコロナ禍で打撃を被っている企業や個人は増大している。そこへの直接的な手当が求められているわけで、GoToをやるにしてもコロナ感染が終息してからでなければ話にならない。現状では生殺しのような状態が続き、不完全かつ中途半端なもとで「経済活動」を急ぐものだから、逆効果となって感染拡大の要因にもなり、そのことが飲食店やホテル旅館業などの苦境の長期化にもつながっている。各国の事例でも明らかなように、徹底的なPCR検査と隔離以外には新型コロナの感染を抑える方法がない以上、それをやるほかない。しかし、この何カ月もGoToに熱を上げながら、全国的にPCR検査はまだまだ十分におこなえる体制にはないのである。 吉田充春