山口3区を巡る自民党国会議員同士のバトルがますます熱を帯びてきた。4日には河村建夫の所属派閥の領袖である二階派の二階自民党幹事長が20人の所属議員を引き連れて山口3区決起集会にあらわれ、「売られたケンカ、受けて立つ」と気炎を上げ、3区横取りを画策する林芳正(岸田派)を強めに牽制していった。それだけでなく、パーティー終了後には3区の有力企業である宇部興産を「視察」するなど、なんだか恫喝なのか睨みを効かせたのかわからないような、おどろおどろしいパフォーマンスまでして帰っていった。
宇部興産といえば3区の大票田ともいえる宇部市で絶大な影響力を持った企業であり、昔から山口県政界をも動かして全国唯一で最長の私道(通称・興産道路)を美祢市から宇部市に貫通させたり、なかなかの腕力を発揮する企業として知られてきた。林芳正の母親はこの宇部興産創業者・俵田一族の出身である。芳正にとってはいわば母方の身内企業のようなもので、現経営幹部のなかには下関西高等学校時代に同期で、山口銀行の現会長と並んで「秀才三羽ガラス」と呼ばれた人物もいるような会社だ。この企業に対して河村推しの自民党幹事長があえて「視察」するということは、すなわち「林支持で動いたらわかってるんだろうな」の意味合いと捉えるのが妥当だろう。20人の国会議員を引き連れて宇部に殴り込みをかけたのも、頭数が揃っていることを見せつけたうえで「商売の邪魔もできるんだぞ」と圧力をかけている風にも見えて、「なんとえげつない…」「宇部興産に釘を刺していった」と感じた人も少なくなかった。そして、「さあ、次は10月半ばに開かれる自民党山口県連のパーティーでどんなことが起きるのだろうか…」と胸をハラハラドキドキさせながら、山口県の政界関係者たちときたら3区の話題でもっぱらなのである。
現状では、3区で林芳正と河村建夫ががっぷり四つの選挙を戦った場合、それこそ宇部興産がどっちに付くかで軍配が上がるといわれるほど、その影響力は無視できないものがある。自民党の市議会議員とか県議会議員などはみな右へ倣えで、それこそ河村建夫(萩市出身)といっても宇部興産が林に乗り換えれば10万票などおぼつかないのはわかりきった話である。地元萩市の市長選ですら林派に負けているのだから--。だからこそ、そのカギとなる企業の首根っこを自民党幹事長の権力を通じて押さえに行ったのだろう。しかし、宇部興産が逆に腹を立てた場合はどうなるか? 二階派と岸田派の暗闘に挟まれて地元トップ企業はどう動くのか? これが3区の今後を観察する上で外せない注目点だろう。そして、もう一つ注目されるのは来年3月の萩市長選である。河村の実弟である田中文夫(県議)が出馬を表明し、林派現職の追い落としにかかっているが、この戦いに敗北すれば河村建夫の面目は丸つぶれで、地元でも力を失っている姿をさらすことになる。
3区横取りは既に噂話の域をこえて本格化しており、攻めの林、守りの河村の構図で事態は進行している。林事務所は貴船にあった下関のプレハブ小屋を何年も前にたたんで宇部に本拠を構え、この9月には萩市役所の目の前に萩事務所を移動させて開設するなど、もはやこれで引いたら笑われるレベルで3区横取りに総力を注いでいる。「ケンカを売っている」といえば、まぎれもなく売っているのである。そして、どちらかというと後がない林派が勢いに任せて押し気味なのに対して、防戦一方で焦った河村が二階幹事長に頼んで今回のパフォーマンスに及んだようにも見えるのである。宇部興産の「視察」が仮に楔を撃ち込むために一発入れに行ったということなら、河村としては相当に焦っていると見るのが自然だろう。
「売られたケンカ、受けて立つ」--二階幹事長の発言を受けて、今のところ林芳正の反応がなく、一方の派閥領袖である岸田文雄が対抗して20人引き連れて山口3区に来るという話もない。このまま尻すぼみとなって3区は河村でおさまるのか、はたまた形勢逆転の動きが起こるのか、行き場のない自民党世襲政治家たちの暗闘はまだまだ続きそうである。しかし情けないかなこの騒動、当該選挙区の有権者のために何を為すのかといった訴えなどまるでないまま、有権者を蚊帳の外に置いたまま、山口県の政治家ときたらどいつもこいつも自分の衆議院ポストのためだけに血眼なのである。
武蔵坊五郎