民意を無視して公約を覆し続けてきた民主党政府がつぶれ、自民党の安倍内閣が発足した。メディアは前回衆院選の大惨敗時よりも票を減らし、全有権者のたった16%(比例)の得票で大量議席を得たにすぎない落ち目の安倍内閣を「危機突破内閣」「重厚布陣だ」ともてはやし、まるで「救世主」があらわれたかのように騒いでいる。安倍は早速、集団自衛権行使を可能にする改憲を目指して鼻息を荒くし、選挙中は態度を曖昧にしていた原発問題は新設・再稼働を目指す姿勢をむき出しにし、TPP(環太平洋経済連携協定)も早期参加に向けて動き出す様相となった。前回総選挙でたたきつぶされながら、今選挙で民主の自滅に助けられて復活し、性懲りもなくアメリカの対日要求丸呑みを続け、総翼賛・戦争政治で暴走しようというのである。それは独立と平和を願う全日本国民との対立を激化させずにはおかない。
集団的自衛権の行使を意図
第2次安倍内閣発足にあたり安倍は「人物重視、実力重視の危機突破内閣だ」「強い経済をとり戻す!」と胸を張ったが、国民の目は冷ややかだ。「クビのすげ替えでは変わらない」「どの政党もあてにならない」と根本変革を求める世論が圧倒しているからである。
3年前の自民党の大惨敗は、戦後の対米従属の売国政治、直接には中曽根から小泉へ続く新自由主義改革による日本社会の大崩壊に対する怒りの爆発だった。今回の民主党壊滅も、次次に公約を破棄して小泉以上の新自由主義改革で突っ走り、大震災が来ると被災地を救うどころか外資が食いつぶすTPP先取りの市場として差し出す売国政治への強烈な憤りが全国共通であることを明確に示した。この民主党をたたきつぶした国民の怒りの矛先は、戦後の対米従属・売国政治へと向いており、再び亡霊のように再登板してきた安倍・自民党にそのまま向けられている。
これまで普天間移転、消費税増税、TPP、円高などの経済政策、原発事故問題など、だれが首相になっても、アメリカが背後で指図し、それに抵抗する要素はメディアや官僚、検察などがよってたかって叩きつぶしてきた。日本の政府を動かす権力者は総理大臣ではないとの実感が拡大している。日本の最高権力者はアメリカであり、その目下の権力者が財界である。官僚機構、メディアなどあらゆる権力機関がその道具になって、政治家を使用人として動かす。それがどの政党が与党になっても、だれが首相になっても国民や国益のためには一切働かない根拠である。
このなかで国会議員票で多数を占めて自民党総裁に返り咲き、四割の有権者が投票にも行かなかった「コップのなか選挙」で議席を独占し組閣。それでも議席が足りないため公明党、石原慎太郎率いる「維新の会」、みんなの党など似たりよったりの新党と結託し、憲法改定、TPP参加、原発再稼働・新設などアメリカから提示された課題をオール与党体制で実行することを狙っている。それはアメリカのための「危機突破内閣」「重厚布陣」であり、民主党以上に露骨な対米従属の総翼賛・戦争政治をおし進める暴走体制にほかならない。
すぐに憲法改悪に着手 米軍再編とも連動
安倍が真っ先に意欲を見せたのが「改憲」を軸とする戦争動員体制である。選挙前から「憲法改正」の必要性を絶叫。そして「自衛隊と米軍が同じ活動をしているとき、米軍は日本を守るのに、日本は米軍が攻撃されても守ることができない。これはおかしい」とまくし立て、米軍が世界各国で引き起こす戦争に自衛隊をずるずる引きずり込む集団的自衛権を行使させるため「憲法解釈を変更すべきだ」と主張してきた。
石原慎太郎の尖閣購入発言、民主党・野田政府の尖閣国有化で矛盾が激化すると「挑戦を跳ね返すのは純粋に軍事力」と好戦姿勢を露わにし、海上保安庁の増強や防衛費の増額を選挙公約に盛り込んで訴えた。首相の座につくと「私が憲法を変えるための橋を架けた(国民投票法を成立させた)ので、いよいよ国民みんなで橋を渡り、最初に行うことは改正要件を定めた九六条の改正だ。3分の1をちょっと超える国会議員が反対すれば、国民が指一本触れることができないというのはあまりにもハードルが高すぎる」と発言。そして「発議のために必要な3分の2の議席は(公明党と合わせ)衆院で確保したが、参院ではほど遠い」といって「維新」や「みんな」と連携し具体的な「改憲」準備に着手している。
憲法96条で規定した改憲に必要な発議要件(現行=3分の2以上の賛成)を「過半数」に緩和し、その後、自衛隊を国防軍に位置づけたり、集団自衛権の行使を可能にする解釈変更をやるなどして「戦争ができる国」にすることを意図している。
しかもそれは、国民にはそっぽを向きアメリカの要求に沿ったものである。選挙公約には「米国の新国防戦略にもとづく自衛隊の役割強化」や「日米防衛協力ガイドラインの見直し」を盛り込み、辺野古への新基地建設にむけ「地元の理解を得る努力をしたい」と公言。国益にたってアメリカに意見をいうどころか、もっぱらアメリカの利益にたって住民説得にあたるイエスマンの立場を隠さない。この安倍・自民党が次期政府を握ることが決まると、アメリカは歓迎の意を表し、朝鮮半島に近い岩国基地へのF35ステルス戦斗機配備を表明した。沖縄の基地増強とともに岩国や下関、広島湾岸一帯を軍事拠点化する意図を露わにしている。
反省なく再稼働や新設 本性表す原発対処
東北被災地はもとより全国の農漁業生産に甚大な影響を及ぼし続けている原発問題も、選挙では「すべての原発については3年以内の結論を目指す」と争点化を避け、選挙後に本性をあらわす姑息な性根を露呈している。
山口県庁での記者会見で安倍は、中止に追い込まれた上関原発計画について「民主党政権が決めたことは決めたこととして、もう一度見直しをしていきたい」と表明。原発政策全般については「10年間でベストミックスを考えるという大方針がある。その中で新設をどう考えるかもう一度見直す」とのべ、原発再稼働や原発新増設に乗り出す姿勢を明確にした。経団連との政策対話でも「原子力なしで経済成長はあり得ない」と公言。自民党政府が「絶対安全」と住民をだまして原発を作らせて大事故を起こしたことへの反省はまるでなく、今度は「ベストミックス」とだまして、後は野となれの亡国政治で突っ走ろうというのである。
選挙終われば公約変更 TPPも参加推進
改憲による戦時体制作りや原発再稼動とセットですすむのがTPPと称する中国包囲体制であり、日本国民大収奪体制である。選挙時は農漁業者や医師会、建設業界や大学人など全国的な反対運動が噴き上がったことを恐れて「聖域なき関税撤廃を前提にする限り交渉参加に反対」と公約に掲げていたが、選挙が終わればさっさと変更。「TPPについては国益にかなう最善の道を求める」(自公連立合意)と文面を変え、TPP参加推進の本性をあらわした。
TPP参加問題では、郵政民営化見直しや、牛肉やコメの輸入制限、公共事業参入制限などを「貿易障壁」として緩和するよう迫るアメリカへの盲従姿勢は民主党よりも自民党の方が元祖である。安倍・自民党も「日米同盟の絆を強化することが外交立て直しの第一歩」といって恥じない。
郵政民営化については「民主党は手ぬるい」として、300兆円以上の国民資産を抱える「ゆうちょ銀行」や「かんぽ生命」の株をすべて売却し、外資が奪いとれるようにするためトップ人事にも口を挟む姿勢。さらに現日銀総裁が安倍のインフレ目標政策を「物価も賃金も上がらない状況が長い経済では現実的ではない」と批判したため、日銀法改正や日銀総裁の変更を模索。次期日銀総裁候補には竹中平蔵などの名前もあがっている。東日本大震災、世界恐慌に便乗して、日本市場を全面開放させ日本社会を丸ごと大収奪するのがTPPであるが、安倍政府は米国にいわれるままに実行する姿勢を見せている。
消費税増税については「(自民、公明、民主の)3党合意に基づき、社会保障と税の一体改革を継続する」と明言した。
安倍はこれらの売国施策を手みやげにして1月にアメリカで日米首脳会談をおこなう予定だ。テーマは普天間移設などの米軍再編問題、集団自衛権の行使容認、防衛協力指針の見直し、TPPなどでオバマは「関係を緊密にし連携を強化したい」と表明。米国務省は「日本の新しい首相や内閣と緊密な関係を続けていくことを楽しみにしている」と歓迎している。震災復興が遅遅として進まないのに、原発の再稼働・新設で突っ走り、TPP参加で農漁業や産業の破壊に輪をかけ、増税で大収奪したあげく、「改憲」で集団的自衛権行使に道を開き、日本をアメリカの企む対中国戦争にたたき込むという事態が現実味を帯びるところにきている。
強まる直接行動の機運 全国的な政治斗争へ
こうした動きはオバマ政府が2期目に入り、アメリカ自体が経済危機打開のため、TPPによる中国包囲網を強め、対中国戦争体制の布陣を強めていることと連動している。オバマは選挙中「中国の軍事力が将来強大になるから、アジア太平洋に軸足を移したのだ」といい、昨年11月にアジア太平洋最重視戦略を打ち出したことを「中国の軍事的脅威に対抗するためだ」と公言した。危機を戦争で打開する姿勢を露わにし、米海兵隊をグアムやハワイに置き、ローテーションでオーストラリア・ダーウィンに分散展開する体制作りを着着とおし進め、それと連動した形で日本国内の在日米軍再編やオスプレイ配備なども動いている。
米議会では、これまで財政悪化を理由にストップがかかっていた在沖海兵隊のグアム移転関連経費(約22億円)の計上を一転して復活させ、動き出した。さらに尖閣に安保適用を明記する国防権限法を可決するなど、米国側も日本を重視する姿勢を露わにしている。それは米国が財政危機に直面するなかで、日本へ軍事費負担の押しつけを拡大し、兵員派遣要求にも応えさせ、さまざまな米軍仕様の武器を配備し、日本国土全体を対中国代理戦争の矢面に立たせて米本土防衛の盾にするためである。
この要求に応えるために安倍・自民党を軸にする親米・売国政治家が色めき立って総翼賛体制で戦争政治と右傾化に拍車をかけている。だがアメリカの方ばかり向いて戦争をやる国にしようと突っ走っても、国民を動員できなければ戦争などできない。強権に走る脆弱さも露呈するところとなっている。
被爆者や戦争体験者をはじめとして、新たな戦争を阻止し独立・平和の日本をつくろうという世論は沸騰している。この勤労大衆が全国的に結びついて、共通の敵に対する共同のたたかいを起こすなら、いかなる権力者もうち負かすことができる。原発に続き、政党政治も総選挙もメルトダウン状態となっているが、政党がまったくあてにならないからこそ、全国団結を求める行動が各地で活発化している。
1950年8・6斗争に始まる原水爆禁止運動は、朝鮮戦争でもベトナム戦争でもその後の戦争でも原爆を使用させない力になり、それに続く60年安保斗争は戦後最大の全人民的な政治斗争となってアイゼンハワー大統領の来日を阻止し、岸内閣を打倒した。そのような大衆的な基盤を持った全国的な政治斗争が日本の政治を変えていく確かな力となる。原発再稼働反対の首相官邸前行動、東北被災地での生産を軸にした復興、TPPを阻止する農漁業者の行動、基地撤去を求める行動など、全国で直接行動を下から起こす機運は確実に大きくなっている。