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下関を風力だらけにするな 豊浦沖にも巨大洋上風力計画 ドイツ大企業が1万㌗×40基

海外市場は頭打ち 外資の在庫処分の標的に

 

 少子高齢化と人口減少が進む地方をターゲットに、「原発に替わるクリーンなエネルギー」を売り文句にして、大企業が大規模風力発電やメガソーラー建設に色めき立っていることが、全国的に問題になっている。ここ下関市を見ても、これまで建設されてきた豊北町や豊浦町の陸上風力に加え、7年前から安岡沖に大規模な洋上風力発電を建設する計画が持ち上がり、最近では豊浦町室津地区に陸上風力計画が浮上した。そして、多くの市民が知らないまま水面下で進んでいるのが豊浦町沖の洋上風力発電計画で、ドイツの企業がそこに1万㌔㍗の風車を40基建てるという、安岡沖を上回る大規模な計画が明らかになった。下関市内の風力発電をめぐる動きがどうなっているのか、調べてみた。

 

 

 下関市では、経産省のお墨付きを得た前田建設工業(本社・東京)が安岡沖に3000㌔㍗の風車を20基建てる計画(現在は5000㌔㍗×12基に変更)をうち出した7年前から、住民たちによる大規模な反対運動が巻き起こり、現在も計画を立ち往生させている。一方、市内の豊北町や豊浦町の山々には、東日本大震災以前からいつの間にか風力発電が林立する状態になってきた(地図参照)。

 

 豊北町では、白滝山に関西電力グループの株式会社きんでんが設置した白滝山ウインドファーム(2500㌔㍗×20基)がそびえたっている。現在、更新計画が進行中で、風車を3000~4500㌔㍗と大規模化して12~17基建てる(総出力は同じ5万㌔㍗)という。耐用年数20年といってきたが、今になって事業者が「10年未満で老朽化」といっていることを住民が問題視している。

 

 また、同町滝部の境下と寺地の山の尾根にかけて建っているのが豊北ウインドファームで、2500㌔㍗×7基と、1500㌔㍗×5基が稼働している(総出力2万5000㌔㍗)。

 

 さらに豊浦町の山の尾根には豊浦風力発電(2000㌔㍗×10基、総出力2万㌔㍗)が建っている。事業者はふそう風力発電株式会社となっているが、これは日立サステナブルの子会社だ。

 

 これらの風車は、建設前の説明が立地点の自治会や地権者とのやりとりにとどまり、住民全体に知らされなかった。住民たちは「風の強い日にはうるさくて、いったん目が覚めると気になって眠れない」「ジェット機が飛ぶような音がする」と風車騒音の悩みを語っている。

 

 昨年5月、白滝山ウインドファーム更新計画を審議する下関市環境審議会が開かれたが、その場でも住民代表の委員から「風車建設のために山肌を削ることによって山そのものの環境が変わり、山から流れてくる川が白濁し、生態系にも影響を与えている」「前回の工事では40万立方㍍、ダンプ7~8万台分の残土が出て、川や水に影響が出た」「風車から500㍍のところに民家があり、健康被害が心配」など危惧する意見があいついだ。

 

 そして今年7月、今度は全国で風力発電事業をおこなっている日立サステナブルエナジー(本社・茨城県日立市)が豊浦町室津地区から吉母地区にまたがる山中に、4200㌔㍗の風車を最大6基建てる(最大出力2万5200㌔㍗)という計画をうち出し、環境影響評価配慮書を国と山口県、下関市に提出した。風車は一番近い住宅までがわずか500㍍、2㌔以内に731戸の住宅があり、学校や医療機関、福祉施設も近くにあるため、同月に開かれた下関市環境審議会の場で「安岡沖風力発電計画でも、漁業への影響や近隣住民への低周波による健康被害が大きな問題になった。この計画では、それはどの程度考慮されているか」と住民代表の委員が事業者に問いただす場面もあった。

 

外資が洋上風力に参入

 

 一方、10年以上前から水面下で進んできたのが豊浦町沖の大規模な洋上風力発電計画で、現在、事業者はドイツのRWE Renewablesとされている。安岡沖の計画の2倍にもなる1万㌔㍗の風車を40基、豊浦町の沖に建てるという計画が明らかになっている。第一建設機工(本社・兵庫県)が窓口となって、地元との折衝にあたっている。

 

 このRWE(エル・ヴェー・エー)社はドイツ・エッセンに本社をおき、再生可能エネルギーの発電では世界最大規模の大手エネルギー企業で、昨年10月にドイツ最大手のエネルギー企業EONの再エネ事業を取得。欧州や北米、中南米など15カ国以上で陸上・洋上風力やメガソーラーなどの開発、建設、運用に携わっている。同社はこれまでに蓄積したノウハウをもとに、日本で大規模な洋上風力プロジェクトを推進することを狙い、昨年10月にアジア初の事務所を東京に開設した。そして北九州市若松沖、秋田県由利本荘沖、山口県下関市豊浦沖などで洋上風力発電計画を動かしている。

 

 RWE社は昨年、九電みらいエナジーと日本での着床式洋上風力プロジェクトの共同開発に関する最初の協力協定を締結した。九電みらいエナジーは北九州市若松沖の響灘に、5000㌔㍗×44基の大規模洋上風力発電計画を進めている。

 

 また、安倍政府は再生可能エネルギー海域利用法をつくり、洋上風力発電建設のための促進区域を指定しているが、7月には秋田県由利本荘沖がこの促進区域に指定された。この海域の事業をめぐってRWE社と九電みらいエナジーがつくる日本法人・RWE Renewables Japan合同会社がすでに5月28日、共同入札参加協定を締結している。現在、公募に向けて環境アセスの準備をしているという。由利本荘沖の洋上風力発電計画は9500~1万2000㌔㍗の巨大風車(高さは200~260㍍)を100基近く建てるもので、沿岸2㌔以内には6417軒の住居と学校、保育所、病院、福祉施設がある。低周波音の健康被害を心配する地域住民が反対する会をつくって、署名運動や県、市に対する陳情をおこなっている。

 

 このようにドイツ、イギリス、スペインなどの外資系風力発電事業者が日本の洋上風力発電事業に次々と参入しているのが最近の特徴だ。

 

 たとえば佐賀県唐津市沖では、風車1基8000~1万2000㌔㍗を想定し、8000㌔㍗の場合は75基を建て、総出力60万㌔㍗を確保しようとする巨大な着床式洋上風力発電計画が動いている。計画予定海域は唐津市の馬渡島周辺で、同市と佐賀県玄海町、長崎県松浦市、壱岐市、平戸市などにまたがる1万3000㌶というもの。この事業者が、大阪ガスとアカシア・リニューアブルズである。

 

 アカシア・リニューアブルズ(東京)というのは、マッコーリーキャピタルの日本における再生可能エネルギー事業開発プラットフォームで、日本を拠点にアジア地域に展開している。そしてマッコーリーキャピタルは、2017年にグリーンインベストメントバンクを買収して欧州最大のグリーンインフラ投資グループとなった金融資本だ。

 

 こうした動きについてある事業者は、「現在、日本国内で商業用に稼働する洋上風力発電はなく、洋上風力について経験のある企業は日本にはない。風力発電機を生産するメーカーも日本にはなくなった。その日本を狙って、設計から運転までのノウハウを持ったヨーロッパの企業、しかも数千億円の初期投資が可能な大企業が参入している。だから日本企業の出番はますますなくなる。彼らが提出している事業計画も1基当たり1万㌔㍗以上、総出力も原発なみの数十万㌔㍗という大規模なもので、スケールメリットを追求している。日本を足場にアジア地域の市場を開拓しようとしているようだ」と語っている。

 

 風力発電についての講演を全国各地でおこなっている三重県の歯科医師、武田恵世氏は、「風力発電の先進地といわれたデンマークでは、風力発電の健康被害が国会でも問題になり、環境規制の強化で実質的に風力発電の建設は困難、洋上風力も頭打ちになっている。ヨーロッパ全体を見ても、“役に立たずたんなる破壊行為である風力発電計画は中止せよ”という運動が広がっている。欧米では現在、政府が風力や太陽光の補助金を削減し、固定買取価格を値下げする動きが盛んになっており、ブームは去ったといわれている。そこで風力発電や太陽光の資材が余りに余って、ベスタスなどの有名企業が倒産や経営難に陥っている。ところが日本には売れるというので、これらの企業が色めき立っている」と指摘している。

 

 欧米の再エネ企業の在庫処理のために迷惑施設を押しつけられ、そのために日本人が健康被害を被り、漁場を奪われ、長年暮らしてきた郷土に住めなくなるというのだから、たまったものではない。

 

跳ね返す住民運動の力

 

 しかし豊浦沖洋上風力発電にしろ、下関市で新規に風力発電を建設しようと思えば、安岡沖洋上風力発電の建設に反対する全市的な世論を無視することはできない。

 

 安岡沖の計画が持ち上がって8年目に入るが、この間住民たちは反対署名を10万筆以上集め、安岡自治連合会(5300世帯)が反対決議をあげるとともに商工会や医師会、宅建協会など各団体が市長に反対の陳情に行き、毎月1回の風力反対の街頭活動を5年以上も継続し、1000人規模のデモ行進を何度もおこなって、風力発電建設に同意しない強固な意志を突きつけてきた。そして、建設予定海域に漁業権を持つ下関ひびき支店の漁師たちが、「20年間で8億円」という補償金の受けとりを拒否し、風力反対を貫いている。

 

 こうした住民運動の力が、風力反対の陳情を市議会が全会一致で採択することにつながり、前田市長から「(風力は)絶対に進めるべきではない」との発言を引き出してきた。

 

 安倍政府は洋上風力発電促進区域を指定するため、都道府県に情報提供を求めてきた。一般海域に洋上風力を建てようと思えば現行の都道府県条例による海域占用期間では短いため(山口県は5年間)、事業者に30年間の海の占用を認めるものだ。政府は昨年4月に続き12月にも各都道府県から情報収集をしたが、山口県は「県内市町村からの希望がない」として二度とも情報提供をしなかった。したがって今年度も下関市は促進区域に指定されていない。

 

 住民運動の力をさらに全市、全県に広げ、より大きなものにすることが、地方を食い物にしようとする企業を撤退させる力になる。

 

大漁旗を掲げてデモ行進する住民や漁業者(2014年)

下関駅前の国道を埋め尽くした1000人デモ

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