いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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コロナ禍暗躍する火事場泥棒 持続化給付金事業に寄生する電通やパソナ

 安倍政府の新型コロナ対策の目玉である持続化給付金をめぐり、経済産業省が業務委託した「一般社団法人サービスデザイン推進協議会」なる団体が、広告最大手の電通にほぼ丸投げで業務を再委託し、さらに子会社や人材派遣大手のパソナなどにねずみ算式に再委託をくり返していたことが明るみに出て物議を醸している。巨額の給付金事業にピンハネ企業が群がり、苦しんでいる中小事業者には遅々として給付金が行き届かない。コロナ禍の混乱につけ込み、公然と火事場泥棒をくり広げる強欲な姿に全国的な怒りが高まっている。

 

 持続化給付金は、新型コロナ不況によって月の売上が前年比で半減した中小企業に上限200万円、個人事業主には上限100万円を給付する救済制度だ。融資などの貸付制度が多い政府の「支援策」のなかで、返済義務のない給付金は、わずかであっても外出自粛や休業措置で大打撃を受ける中小零細事業者にとっては唯一の命綱ともいえる。所管する経産省は、総額2兆3176億円の予算を計上し、5月1日から受付を開始した。

 

 経産省は当初から、執行業務を「民間団体等に委託する」ことを表明していた。4月8日に「持続化給付金事務事業」の一般競争入札を公示し、これにサービスデザイン推進協議会(サ協)と「デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社」の2社が応札し、「サ協」が769億208万4807円で受託した。落札率は100%。給付対象として想定される事業所150万社に換算すると一件あたりの手数料が5万円という法外な金額だった。

 

 全国150万社を対象とする持続化給付金の審査や給付は、さまざまなケースに応じた業務を正確かつ迅速にこなすことが求められる。だが、緊急性を要する支援でありながら申請手続き方法はオンラインのみに限られ、行政区ごとの相談窓口もなく、インターネットに疎遠な人々は申請すらできずに全国でトラブルがあいついだ。申請した人も待てど暮らせど給付金が振り込まれず混乱が増すなかで、給付業務を請け負った「サ協」には公式サイトも電話番号もなく、担当者に連絡もつかない。それどころか本部事務所(東京・築地)は勤務員が誰もいないもぬけの殻だった。そこから同団体は設立当初から「ダミー法人」であり、外部に業務を丸投げしている疑惑が深まった。

 

 持続化給付金事業のその後を追ってみると、元請けの「サ協」は委託料から20億円を差し引いた748億円で業務の97%を電通に再委託し、さらに電通はそこから「管理・運営費」など103億円を差し引いた645億円で子会社の電通ライブ、電通国際情報サービス、電通デジタルなどに再々委託していた。そして電通ライブは審査やコールセンターなどの業務を、人材派遣パソナ(取締役会長・竹中平蔵)に171億円、大日本印刷に103億円、トランスコスモスに30億円など合計417億円で外注に出していた【図参照】。さらに子会社へと再委託は続いており、最終的にはほとんど経理経験のない派遣社員らが審査などを担当させられたため、給付業務が滞ったことが指摘されている。

 

 

 経産省は「申請から2週間で振り込む」と宣言しながら、受付開始当初の5月1日と2日に申請があった約28万7000件のうち、3・5%の1万件超が未払い(6月10日時点)であることが明らかになっている。

 

 公共調達の適正化に関する財務省の通知では、随意契約における事業の一括再委託を禁止しており、競争入札の場合でも再委託には委託内容や金額、必要性についての書類提出が義務づけられ、担当省庁による審査・承認が必要となる。

 

 一般競争入札で用いられる総合評価方式は、価格と価格以外の要素を総合的に評価して判断するが、業務の97%を再委託するような団体は履行能力がないとみなされるのが常識であり、再委託を前提にした入札は税金の浪費につながる。そのため経産省も「全部再委託」を禁止しているが、梶山経産大臣は「(入札に必須の)履行体制図が提出されていなかった」と異常な事態を認めている。入札の公平性に疑義が生じ、情報公開請求がおこなわれたが、経産省が開示した入札の提案書は、価格点や技術点、総合評価点など肝心な部分がすべて黒塗りだった。

 

 「サ協」は、電通、パソナ、IT企業大手のトランスコスモスの3社が2016年に設立し、職員は21名。すべて持続化給付金事業の再委託先企業であり、理事も職員もこれらの企業から出向している。さらに経産省の所管団体である日本生産性本部も理事を出し、みずほ銀行出身者が監事に就いている。これまでも経産省から「おもてなし規格認証」の認定機関、「サービス等生産性向上IT導入支援事業」など14事業、合計1576億円もの公共事業を受託しており、その5割強にあたる808億円分を電通に再委託していた。運営体制は不透明で、一般社団法人法で定められている決算公告を官報に出していないなどの違法行為も明らかになっている。実態のない団体になぜこれほど巨額の公共事業が落札されているのか説明がつかない。

 

 今回の委託料から中抜きした20億円の内訳について「サ協」は、職員(21名)の人件費が1・18億円、みずほ銀行への振込手数料が15・55億円、10人体制による払い出し作業費が7200万円などと説明しているが業務実態は不明だ。この問題が明るみに出るや団体トップの笠原英一代表理事は「応札の経緯を含めて、運営体制を一切知らない」「報酬は受けとっていない」「私は単なる飾りです」とメディアにいい放って6月8日付で辞職した。

 

ダミー法人が複数存在 経産省が定款を作成

 

 この団体の設立には、経産省が電通などと結託して主導的に関与していたことが明確になっている。一般社団法人とは、単なる民間団体に過ぎず、本来は公共分野が支出する補助金(税金)を執行する権限など持ち得ていない。にもかかわらず、設立段階から「補助金執行一般社団法人(仮称)」を名乗り、しかもこの民間団体の「定款」(2016年5月13日作成)を、経産省大臣官房の内部組織である「情報システム厚生課」が作成していたことが定款を記したPDFファイルから判明している。

 

 さらに、持続化給付金の唯一の申請窓口となったウェブサイトに使われたドメイン(ネット上の住所)「jizokuka―kyufujp」は、この事業の入札公示日の2日前にあたる4月6日に同協議会によって登録されていた。公示前に事業の正式名称まで正確に把握していなければ不可能だ。

 

 事業会社ではなく社団法人であれば、剰余金を分配しない「非営利型法人」とすることで事業費は非課税となる。この「非営利」の民間団体を受け皿にして、電通やパソナなどの営利企業に業務を再委託するなら、委託企業全体でのお金のプールが可能となり、表向き「非営利」であっても間接的に利益を得ることができる。国が契約規律を直接及ぼせるのは民間団体までであり、再委託先、まして再々委託先までは国の監視が及ばない。そこまで見越して国(経産省)みずからが「定款」を作ってまでお膳立てをしていたことになる。
 しかも、この定款(作成者情報システム厚生課)とまったく同じものが、電通が2011年に設立した別の一般社団法人「環境共創イニシアチブ」でも使用されていた。この法人が2017~19年度の3年間に国から受託し、電通に再委託した事業は計35件、160億円(梶山経産大臣の答弁)にものぼる。構成企業も電通子会社やトランスコスモス、大日本印刷など、「サ協」と重なっており、すでにこのような「トンネル団体」をつくることが特定企業群に公共事業費を環流するための常套手段となっていたことがうかがえる。

 

 「なぜ電通が直接受託しなかったのか」--会見での記者の質問に対して、電通の榑谷(くれたに)典洋副社長は、「巨額の預かり金を会社のバランスシートに計上するのは不適切と社内で判断した。給付が完了した振り込みを通知するハガキの差出人が『株式会社電通』では戸惑いを招く」と説明。梶山経産大臣も「(直接委託すれば)電通の財務会計上の処理が複雑化する」「給付金が電通から振り込まれたら、受けとった人が驚いて電通に問い合わせが殺到する」などとのべた。

 

 だが、97%も再委託しているため会計上の処理は同じであるうえに、政府の給付金が業務を受託した企業の口座名で振り込まれることなど常識的にありえない。中小企業庁担当者も国会答弁で、振り込み名義は受託事業者名ではなく「ジゾクカキュウフキングチ」となることを認めており、場当たり的な釈明に矛盾が生じている。

 

 これまでに「サービスデザイン推進協議会」が経産省からの委託事業でみずからのとり分として受けとった資金の額は、
▼平成27年度補正「おもてなし規格認証」 …4680万円
▼平成28年度補正「IT導入補助金」事務費 …8億7900万円
▼平成29年度当初「カイゼン指導者育成事業」 …445万8519円
▼平成二九年度補正「IT導入補助金」事務費 …38億5700万円

 

 さらに平成30年度補正と令和元年度補正の「IT導入補助金」事務費の金額は公開されていない。推定されるものを含めれば合計約57億円が流れ込んでおり、その8割を占める45億5500万円が同協議会を経由して外部の企業に流出している。

 

 経産省はこの垂れ流し状態を黙認するだけでなく、2兆3000億円もの空前の予算を組んだ持続化給付金事業で、この4年間に外部へと流れた額の15倍以上にも及ぶ約750億円を1年間で特定企業に流出させる前代未聞の行為を積極的に進めたことになる。「国民救済」を名目にした巨額事業の執行に、ここぞとばかりに大企業が群がり、中抜きしながら企業から企業へと再委託をくり返し、そのおこぼれにあずかるためにかつてない規模の企業がねずみ算式にぶら下がる。そのため急がれるべき「国民救済」は遅れ、末端での業務は滞り、給付金が届かない事態となった。

 

 これと同じことが、昨年10月からの消費税10%への増税にともなう「負担軽減措置」の目玉としておこなわれたキャッシュレス決済のポイント還元事業でもおこなわれていた【図参照】。

 

 このときは、経産省から同事業の委託業務を「一般社団法人キャッシュレス推進協議会」が落札し、委託費の93%にあたる約316億円で電通(307億円)などに再委託し、さらに電通は子会社を通じて同じくパソナやトランスコスモスなどに再々委託していた。この団体も法律で義務づけられている決算公告をおこなっておらず、資金環流の「トンネル団体」であった。

 

 福島原発の除染・廃炉事業、東北被災地の復興事業などと同じく、国民が救済を必要とするほどの窮地にあるなかで、そのどさくさに紛れて巨額の税金に一部の特定企業が群がって利権を分け合う「火事場泥棒」が盛大にくり広げられている。

 

構造的な国家の私物化 公の縮小と民間委託

 

 これらの実態は、「行政改革」と称して公共機関が職員を削減し、公の業務能力を縮小することと並行して、電通などの私企業に莫大な公的資金を流出させてきた構造的な問題を浮き彫りにしている。

 

 電通の2019年度決算で「官公庁・団体」からの売上高は1028億円にのぼる。業種が多岐にわたる電通にあって業種別売上高で5位に位置している。前年同期比からの成長率は79%であり、いかに国からの委託事業費が急増しているかを示している。

 

 それ以外にも今回のような「トンネル団体」を介して膨大な税金の横流しを受け、そこに竹中平蔵率いるパソナなどの人材派遣会社が抜け目なく入り込み、国民にとって死活のかかった公務を非正規労働者に低賃金で担わせて中間マージンをかすめとっていく構図だ。

 

 そのため、公正性や公平性を担保すべき公共機関が、ルールを守らせる側にありながらルールを逸脱し、利権(税金)を配分するだけの窓口として、公僕どころか特定企業の代理人として立ち回っている姿が浮かび上がってくる。

 

 持続化給付金事業は全国の中小企業など小規模事業者約150万社を対象にしたものであり、膨大な個人情報を厳格に管理・精査することが求められる。国家公務員法には守秘義務が定められているものの、これらの業務執行権が民間企業の手に渡り、しかも国の監督が行き渡らない二次、三次、四次にわたって再委託をくり返せば、秘密保護もコンプライアンスもないに等しい。「政府」の看板をつけた事業でありながら、その業務実態について誰も把握しないまま2兆円以上もの膨大な税金が運用され、数百万社もの個人情報が飛び交うという異常な事態にもなっている。

 

 電通は広告業界トップに君臨し、「第四の権力」といわれるメディアを牛耳る巨大権力機関にほかならない。もともと戦前の軍国主義体制を強化するため、当時の政府が日本電報通信社と新聞聯合社を強制的に合併させて国策報道に撤する同盟通信社をつくり、広告部門を電通に独占させたことで一大独占企業となった。「大本営発表」に代表される戦争遂行における言論統制の重要な一翼を担っただけでなく、戦後も満州から特高警察や軍人、メディア幹部など侵略戦争で要職にあった人物や組織を多数抱え込んで体制を維持。現在では中央から地方までのテレビ、新聞、週刊誌、ネットに至るあらゆるメディアに企業広告を供給する総元締めとして、各社の報道内容を細かくチェックしてその骨を抜き、報道や言論を経済的に支配する支柱となっている。

 

 その効力は、商業メディアがこの問題の追及に及び腰であることにもあらわれている。

 

 最近でも、総経費が過去最高の3兆円に膨れあがった東京五輪のマーケティング関連業務のすべてを電通が担当し、誘致工作の背後で采配を振るっていたことが明るみに出た。現在、官邸を仕切っているといわれる経産省も電通との関係を深め、内閣官房にも新型コロナウイルス感染症対策本部事務局や内閣広報室などに複数の電通社員が配置されている。

 

 持続化給付金事業を請け負った「サ協」の業務執行理事で、米テキサス州で前田中小企業庁長官が開いたパーティーに参加したり、梶山経産大臣と何度も面会していた平川健司氏(昨年6月まで電通社員)の経歴を見ても、JR東日本のアカウントプランナー(電子マネー導入事業)、政府エコポイント事業のプロジェクト・マネージャーなど多岐にわたり、官民の業界を渡り歩く仕切り屋であったことがうかがえる。

 

 これらの公私混同は「効率化」「財政規律」などあたかも国民のためになるような触れ込みで進められてきた行政改革の下で、公の財産や情報が私企業に垂れ流され、社会福祉は脆弱化する一方で、一部の独占企業体だけが富を膨らませていく構図の一端に過ぎない。

 

 モリカケ問題、桜問題などが些細に見えるほどの国家の私物化が公然と進行していることを見過ごすわけにはいかない。国民の危機をビジネスチャンスと見なして税金に群がる利権構図を一掃して公共の福祉を保障する公正公平な秩序をとり戻すことが求められている。

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