新型コロナウイルス(COVID-19)の感染が世界的に拡大するなかで、この災いに乗じて米国政府が制裁対象国への圧力と軍事恫喝を強めていることが国際的な非難を集めている。人種や立場、国家体制の違いをこえた国際的な連帯と人道的な相互支援によってウイルスの封じ込めと人命救済が求められるなかで、危機を自国の覇権強化に利用する動きは、国内の社会的弱者や多くの国民を医療や経済的支援の枠組みから切り捨てる無慈悲な政策とも重なる。それはこの疫病禍が単純な天災でなく、人為的な戦争としての側面をもっていることを裏付けており、多くの人々が平和な日常の回復を願うなかで看過できないものとなっている。
キューバ 世界各国に医師団を派遣
新型コロナパニックのただ中に米国政府が真っ先に攻撃の矛先を向けたのが、中米カリブ海の中心で米国と対立してきたキューバだ。キューバは今回の新型コロナウイルスの世界的感染拡大にさいして、感染発生国の中国や医療崩壊を起こしたイタリア、さらに中南米、アフリカ諸国など37カ国(感染発生国)に医師団を派遣するなど献身的な医療支援活動に乗り出して注目を集めている。米国の半世紀以上にわたる経済封鎖によって医療分野でも困難な状況が強いられるなかで、「医療外交」を国の基幹政策に位置づけ、国家プロジェクトとして医師の養成プログラムを構築しながら数々の先進医療技術を開発。現在も世界67カ国に約3万7000人の医療従事者を派遣し、その多くが長期任務に従事している。
またキューバが開発した抗ウイルス薬インターフェロン・アルファ2Bは、新型コロナウイルス肺炎の治療に有効であることが認められ、WHOも製薬の一つにあげた。日本でも認可されたこの薬は、いま「奇跡の新薬」として注目を集め、世界45カ国以上が処方薬として申請を出している。
だが、キューバを敵視する米国政府は、キューバ発のインターフェロン・アルファ2Bを各国に使用しないように呼びかけ、国内でも新型コロナの治療薬として認可していない。それだけでなく米国務省は公式SNSで「キューバはCOVID-19に苦しむ国々に国際医療支援を提供しているが、この制度の悪用への加担を各国がやめた結果、受けた損失を埋め合わせようとしているだけだ」と中傷を展開。また「医師や看護師らが劣悪な労働環境に身を置きながら、国際医療支援に従事して稼いだ給料のほとんどを国が確保している」とのべ、「キューバの支援を求めている各国は、合意内容を精査し、強制労働に終止符を打つべきだ」と圧力をかけた。
これに対してキューバ外務省は「キューバは決して、世界のいかなる辺境に対しても先制攻撃や奇襲を仕掛けることはない。そのかわり、世界の最も辺境の地に、必要とされる医師を派遣する能力がある。医師であり、爆弾ではない」との故フィデル・カストロ議長の言葉を掲げ、「米国政府による中傷キャンペーンはあらゆる状況において不道徳である。それは、われわれ全員がパンデミックの脅威にさらされ、連帯と支援を促進するために全員が努力していなければならないときに、キューバや世界のその他の国々にとってとりわけ攻撃的だ」と非難した。
さらに12 日、キューバ保健省の輸出入業務を担当する MEDICUBA(メディキューバ)社は、同国に人工呼吸器を供給していたスイスのIMT Medical AG社とAstronautic社が米イリノイ州に拠点を置く米国企業Vyaire Medical社に買収され、「本日からキューバとの全取引を停止することを企業指針とする」との通告を受けたことを発表した。人工呼吸器は新型コロナウイルス肺炎の重篤患者の治療に必須の医療機器であり、最後の救急救命装置でもある。キューバへの供給を絶つことは、同国の新型コロナ対策の医療活動を著しく困難にするだけでなく、キューバが各国でおこなう国際医療支援活動にとっても大きな打撃となる。
キューバ政府機関紙『グランマ』の記事によると、キューバ中南米外務省事務局長は「キューバの医療協力はCOVID-19とのたたかいを支援するために世界中に広がっているが、米国は、病気の最も深刻なケースをケアするための鍵である人工呼吸器の2つのサプライヤーとキューバとのアクセスを遮断するという非常識な封鎖を私たちに科した」と報告。また「経済封鎖によって阻止されているため、カリブ海諸国が米国の企業から医薬品を購入できない」とものべ、しかもこれらの米国による措置はWHO(世界保健機関)事務局長が「コロナ対策を政治利用しない」よう求めた数時間後におこなわれていると指摘した。
また、「中国のアリババ基金からのCOVID-19とたたかうための医薬品の寄付は、委託を受けた米国企業が輸送業務を拒否したため、国に到達できなかった」ことも告発した。これは3 月半ば、中国の大手電子商取引アリババの創業者ジャック・マーが、キューバやカリブ海諸国、南米23 カ国に200万枚のマスク、40 万個の検査キット、104台の人工呼吸器を寄贈したさい、米国による禁輸措置によって土壇場で阻止されたことを指している。同紙は「昨年キューバは健康分野における米国の制裁措置により1億6000万㌦(180億円)を失い、遠隔地でより高価な買い物をしなければならなくなった」と指摘している。
キューバのロドリゲス外務大臣は「米国の封鎖と制裁には倫理的、法的な正当性はない。対キューバ封鎖はジェノサイド(大量虐殺)である。諸国が協力しあうべき状況にあるなかで、米国は連帯的な国キューバに対する攻撃を強めている」と非難し、米国による非人道的な経済封鎖の解除を求めている。
米国によるキューバへの経済制裁をめぐっては、昨年11月の国連総会で加盟192カ国中187カ国の賛成で「制裁解除」を求める意見書を採択している。反対したのは米国、イスラエル、ブラジルの3 カ国だけだった。同意見書の採択は、1992年以降28回連続でおこなわれている。
ベネズエラ 米軍部隊の増派に直面
さらにトランプ米政府は1日、米国の新自由主義政策に反対してきたベネズエラ政府が新型コロナウイルスのパンデミックを利用して「麻薬密輸」をしているとして、カリブ海に米海軍と監視航空機、特殊部隊を増派すると発表した。トランプ大統領は同国のマドゥロ大統領を「腐敗した俳優」と罵り、3月26日にはマドゥロ大統領をはじめベネズエラ政府関係者12人を「麻薬テロの陰謀」「麻薬密売」などの容疑で起訴し、有力な情報提供には1000万~1500万㌦(約16億3000万円)の懸賞金を掛けた。
この動きに同調するように2日には英国、翌3日にはフランスも自国軍をそれぞれカリブ海に配備。新型コロナ対策を名目にしながら、医療活動ではなく水陸両用の戦闘車両も配置したことで緊迫の度を増した。
米国政府はキューバに対しても「麻薬輸送の情報を米国諜報機関が得ている」と発言しているが、いずれも裏付けとなる証拠は示していない。
さらに2日、トランプ政府は、ベネズエラの与野党に対し「マドゥロ大統領を排除して暫定政府を成立させる」ことを条件にして、同国への経済制裁を解除することを提案。昨年から同国のグアイド議長を使って仕掛けてきた政権転覆のクーデターを、新型コロナパニックに乗じて強行する姿勢を強めている。
これに対してマドゥロ大統領は、各国宛ての書簡(声明)を出し、米国がベネズエラにかけた「麻薬取引」の嫌疑は、米国がベネズエラの退役将官を雇ってコロンビアから大量の武器を輸送しようとしたことをベネズエラ政府が摘発したことへの報復であると指摘。しかも、米国はみずから雇ったこの退役将官(その後、米国にVIP待遇で送致)をあたかもベネズエラ当局の人間であるかのように訴追対象に加えており、みずからが企てた軍事クーデターの失敗を糊塗するためにベネズエラに「麻薬売買」の疑いを掛けるという「茶番劇」であると指摘した。そして「この未遂に終わった軍事作戦は、3月の終わり頃、まさにベネズエラ国中がCOVID―19の感染拡大とたたかっている最中に実行が予定されていた」と強調している。
また声明では「トランプ政権は、米国民にも影響しているCOVID-19の恐るべき拡大加速にもかかわらず、地域の主権国家とりわけベネズエラ国民に対する攻撃政策を深化させていく決意であるようだ」とのべ、「世界的感染拡大のさなか、米国政府は保健・予防分野での国際協力政策に焦点をあてるかわりに一方的な制裁を強化し、ベネズエラが医薬品、医療機器、食料を入手することを拒んでいる。同時に、米国で経済危機・保健危機に直面している数百名のベネズエラ国民を帰国させるための人道的航空便を運航することさえも禁じている」と実情を訴えている。
そして「ベネズエラは、こういった重大な事態を告発するにあたり、あらゆる国々と尊重・協力の関係を維持するという確固たる意志を改めて示す。COVID-19の世界的流行がそうであるように、責任ある諸政府が意見の違いをこえて団結して働かざるを得なくなるような、この未曾有の状況にあればこそなおさらのことだ」と決意をのべ、「テロリストや麻薬密売人といった気まぐれに移り変わるカテゴリーをなんの証拠もないまま当てはめる」という手段を選ばぬ米国の攻撃は、明日にでも同様のキャンペーンを他国や他国政府に仕掛けることを意味しているとして各国に注意を呼びかけている。
イラン 制裁で患者治療が困難に
また、トランプ政府が核合意から離脱して以降、一方的に制裁を強めてきたイランに対しても、米国は経済制裁を継続・強化している。イランは16日現在、感染者数が7万6000人(死者4585人)をこえ、世界で8番目に多い感染国となっているが、国の経済を支えてきた原油の禁輸措置やその他の経済制裁によって必要な医薬品や医療物資の供給が滞るという困難に直面している。米国は3月26日にも、「テロ組織を支援した」などを理由に、イランとイラクに拠点を置く企業五社と個人15人を制裁対象に追加指定。新型コロナウイルス感染が拡大するなかでの追加制裁は3回目となった。
一方、ポンペオ米国務長官は、新型コロナ対応での支援をイランに提案。これに対して、イラン外務省報道官は「経済テロによってイラン国民を圧迫し、医薬品・医療機器購入の道を閉ざしている国が新型ウイルス対応でイランを支援するとの主張はバカげており、政治的な心理ゲームだ」と批判し、経済制裁の即時解除を要求している。
人道支援にあたっている国際NGO「レリーフ・インターナショナル」のイラン担当責任者は、米国の制裁によって衛生・医療機器や備品のイランへの送付が困難になっていると告発。米国政府は「人道支援物資は経済制裁の対象外」としているものの、現実には米国政府から一方的に制裁対象に加えられるため「多くの企業や団体がイランとの取引は違法と考えてためらっている」と実態を指摘した。
このなかで国連のイラン政府代表部は12日、「一つの国家の危機対処能力を制限するような行動はすべて、新型コロナウイルス感染症を拡大させ、パンデミックに対する世界的な闘いを弱体化させることにつながる」と国連で表明。「イランは新型コロナウイルスの感染拡大による最悪の状況を経験している。米国の制裁は、患者の特定と治療および感染拡大防止にイランが効果的にとりくむことを著しく妨げている」として、米国によるイラン制裁を強く非難した。また、イラン国外で凍結された資金を指定されたスイスの銀行に送金することはほとんど不可能であり、「現在も米国による圧力のため、複数の医薬品・医療機器メーカーは新型コロナウイルス対策物資をイランに届けることを断念している」とのべている。
新型コロナウイルスのパンデミック抑制が地球規模の課題となるなかで、イランへの制裁の解除はすべての人類の利益に繋がることであり、「新型コロナウイルスの蔓延で状況がさらに悪化するのを防ぐため、国際社会は世界の人々の健康と生活に害を及ぼす非人道的かつ非合法な制裁を続けることを許すべきではない」と呼びかけた。
イランの首都・テヘラン市長も「イランは事実上、新型コロナと米国の制裁という二つのウイルスとたたかっている」とのべ、「コロナの感染拡大が始まった当初、イラン国内では制裁のせいでウイルス検査施設はわずか2カ所だったが、現在は60カ所になっている」と国内医療を拡充してきた努力を強調している。もともと医療先進国であるイラン独自の努力とともに、現在は、中国やロシア、今月からはドイツ、イギリス、フランスなどが米国の制裁を回避するユーロ建ての枠組みを活用して医療物資を輸出している。
WHOへの拠金を停止 事実上の制裁措置
米国の経済的圧力は、個別の国をターゲットにしたものに止まらない。トランプ大統領は一四日、WHO(世界保健機関)が「過度に中国寄り」だと批判し、同機関への資金拠出を停止することを発表した。
WHOは国連システムのなかで保健を統括する機関で、「すべての人々が可能な最高の健康水準に到達すること」(国連憲章第一条)を目的とし、感染症対策のほか、非感染性疾患(生活習慣病)、母子保健、医薬品、保健医療システム、水・衛生、食品安全など、幅広い分野で国際機関としてルールづくりや各国保健当局への技術指導などをおこなう。WHO設立前に発生したスペイン風邪では患者数は世界人口の25~30%に及び、死者は4000万人に達したことから、SARSやMERS、インフルエンザなどの感染症対策では世界各国のワクチン開発の統括機関として機能してきた。
WHOの拠出分担金は、米国が約15%、中国が12%、日本が8・5%を占める。トランプは、「武漢からの情報で人から人への感染を疑うべき情報があったのにWHOは調査せず、中国政府の対応を擁護した」として「責任を問われなければならない」と感染拡大の責任をWHOの政策にあると批判。国連のグレーテス事務総長が「今停止すべきではない」と再考を呼びかけたが、今後2、3カ月かけてWHOを調査し、「他国と連携して別の道を探さなければならない」と枠組みを外れることにまで言及している。
この強硬策の背景にあるのは、国内での感染拡大で国民の不満が噴出し、みずからの大統領選での立ち位置が脅かされていることへの焦りにほかならない。
米国内での感染者数は64万人をこえて世界単独トップとなり、2位のスペイン(18万人)の3・5倍にも達している。死者は3万人をこえた(16日現在、ジョンズ・ホプキンス大学統計)。国内では国民皆保険制度がなく、無保険者は3000万人にのぼり、検査だけでも膨大な個人負担が強いられ、まともな治療も受けられない。そのため一日あたりの感染者数が数万人規模で増え続けており、それは公的医療や公衆衛生を一部の大企業の利潤追求のために切り捨ててきた新自由主義政治の破たんを突きつけている。
新型コロナウイルス蔓延の渦中での米国による凶暴な他国への干渉は、自国民を搾取してきた内政の延長であり、長年世界を欺瞞してきた「人道主義」「自由主義」の仮面をみずから外さざるを得ないまでに統治と覇権が弱体化していることの裏返しともいえる。そのなかで、すでに社会を統治する力を失った既得権益層の利潤追求のための政治から、社会を構成するすべての人々のために機能する政治へ転換を促す世界的な力が強まっている。
日米同盟に縛られた中での政界、財界の支配 新自由主義その下での労働者民衆に対する収奪生活破綻。労働者民衆を現実の主体とし生活と労働という人間の社会的生存基盤再生確立に向けて、れいわ新撰組のポスボラを職場地域に活発に広げていこうと思います。