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リーマン・ショック以上の打撃 7~8割売上減の業種も コロナパニックに対応する経済政策が急務

 新型コロナパニックで、下関市内でも歓送迎会や卒業式、入学式などイベントシーズンの年度末に飲食店や飲み屋街は閑散としている。学校の一斉休校を境に自粛ムードが一気に広がり、飲食店、観光業、タクシーなどの運輸業など影響は幅広い業種に及ぶ。売上の7割減、8割減など深刻な状態が語られており、企業主は月末の資金繰りに追い立てられている。政府が無担保・無利子の融資をうち出しているものの、借金は借金。審査で希望額が借りられなかったり、すでに金融機関から借り入れをしているため融資に手を出せない企業も少なくない。リーマン・ショックや東日本大震災後以上の落ち込みとなっており、本当に必要としているところに届く支援政策が待ったなしとなっている。

 

日本政策金融公庫には融資申し込みが殺到

 

 日本政策金融公庫には、中小・零細企業からの融資の申し込みが殺到している。2月中旬から旅行業やバスなど運輸業からの申し込みが出始めていたが、学校の一斉休校から一気に増加したという。3月17日に「新型コロナウイルス感染症特別貸付」の制度ができるとさらに急増し、例年の倍以上のペースになっているという。全国125支店が同じ状況であり、「現在の状況はリーマン・ショック時以上で、ここ30年間で経験したことのない状況だ」という。自然災害は再建の見通しが立つが、このたびは収束の見通しが見えないことから、手持ち資金を追加せざるをえない企業や、急激な売上減に運転資金が回らなくなった企業など、運転資金の相談がほとんどだという。

 

 「新型コロナウイルス感染症特別貸付」は、①最近1カ月の売上高が、前年または前々年の同期と比較して、5%以上減少、②業歴が3カ月以上1年1カ月未満の場合等は、最近1カ月の売上高が、過去3カ月間(最近1カ月を含む)の平均売上高、令和元年12月の売上高、令和元年10~12月の平均売上高のいずれかと比較して5%以上減少している人が対象になる。運転資金の場合、返済期間は15年以内と長期だ。

 

 融資限度額6000万円のうち、3000万円以下の部分については、3年間の利率は0・46%で、3年後から1・36%になる。さらに「特別利子補給制度」の条件に該当すれば、この利子補給を受けることができる。公庫は「借金であるため、規模に見合わない融資はできないものの、かなり弾力的に審査しているので相談してほしい」としている。

 

 下関市産業振興部によると、新型コロナ関連の相談件数は3月2日以降で約220件と急増している。金融機関に融資を受けるさいの後押しとなる「セーフティー認定」についての相談が多く、47都道府県に発動された4号(災害時などに発動)だけで35件、業種を指定する5号についても3月に入ってから10件にのぼっている(今年度は2月までで9件だった)。

 

 市商工会議所も、2月中旬から現場に出向いてヒアリングをおこなっており、現状の把握と同時に、制度の周知をはかっている。急な売上減で従業員を休業させざるをえない場合にはハローワークの「雇用調整助成金」があるほか、融資制度では現在もっとも有利な「新型コロナウイルス感染症特別貸付」を可能な限り案内しているという。飲食店や観光業、運輸業などへの影響が大きいほか、建設業では水回りの備品が入らないため納品できないといった相談もあるという。

 

 ただ、中小零細企業向けの支援策は、雇用対策を除くと融資のみだ。影響は広範囲にわたっており、小規模事業者の場合、返済のめどが立たないことから融資に手を出せない事業者も少なくない。「融資よりも消費税をゼロにしてほしい」「必要なところに届く支援策をうつべきだ」という声が広がっている。

 

給食がなくなったやまぐち県酪乳業

 

 山口県内の学校給食の98%に牛乳を納入しているやまぐち県酪乳業は、学校給食だけで1日12万本を届けており、収入は1日600万円にのぼる。春休みまでの臨時休校が16日程度なので、単純計算で約7000万円の売上減だ。

 

 2月27日の一斉休校の発表を受け、翌日から県内19市町すべてと連絡をとって学校給食の有無を確認。翌週初日分の牛乳を製造する直前の28日夕方にすべての市町から返事が来たため、ぎりぎりロスは出なかったという。岩国市、長門市は3月2日まで給食があったので、これは予備で対応することができた。

 

 学校給食の休止は製造工程にも大きく影響する。学校給食用の12万本のビン入り牛乳をつくるのに5時間かかり、それを終えてからコーヒー牛乳をビン詰めするようになっている。同じ機械を使ってビンと紙パックにそれぞれ詰めていくので、ビン牛乳がなくなったからといって、ビン入りコーヒー牛乳だけを前倒しで製造することはできないのだという。工程をどうするかも含めて発表後数日はとにかくバタバタだったという。

 

 1日当り12万本分の牛乳はどこに行ったのだろうか。聞いてみると基本的に脱脂粉乳に回ったという。脱脂粉乳はやまぐち県酪乳業では製造できないので、熊本の製造業者に回している。この業者に周辺地域から同様に牛乳が運び込まれているため、現在フル稼働で脱脂粉乳を生産しているという。今後、できあがった脱脂粉乳の保管場所が問題になるほか、この費用をだれが持つのかが一つの問題になってくる。

 

 酪農家から集めた生乳の用途は「学校給食用」「飲用」「発酵乳用(ヨーグルト)」「チーズ・バター用」「脱脂粉乳」の五種類にわかれている。全体をプールした金額が酪農家に支払われるが、このなかで一番単価が高い学校給食用がもっとも安い脱脂粉乳になっているため、酪農家に支払う乳代を減額せざるをえなくなる。国はこの差額を補てんする方針を示している。

 

 さらに学校給食用の牛乳はビン詰めなので生産に多くの人手と手間がかかっている。ビンを洗浄してラインに入れ、傷がないか検ビンし、充填機に並べて牛乳を入れ、入った量を見る―。紙パックと違い、多くの人が携わっており、これらの従業員も維持しなければならない。また、県内各地に届けるための給食専用路線も約20あり、下関市の工場から岩国市まで輸送している。この人員と車両の経費は通常通り必要だ。

 

 生産者組合である山口県酪農農業協同組合によると、今のところ生産者に直接の影響は出ていない。しかし感染状況によっては影響が出てくるため、今後を心配しているという。「牛は機械ではないので、牛乳が必要でなくなっても同じようにエサを食べさせ、同じように乳を搾らなければ乳房炎になってしまう。今後心配なのが外国から輸入しているエサがなくなることだ。流通が止まるのが一番恐ろしい」と話し、「牛乳は賞味期限が短い。みんなが汗水流してつくったものを捨てるようになるのはもったいないので、ぜひ牛乳を飲んでほしい」と呼びかけている。

 

 今回、「牛乳は生産が止められない」という話をすると「なぜ?」という反応も少なからずあったことから、酪農関係者は「牛乳が当たり前に店頭に並びすぎていて、ペットボトル飲料と同じような感覚になっていた人も多かったのではないか。牛は生き物なので、“では止めます”ということはできない。牛の乳を搾り、殺菌してビンに詰めるという、いろんな人の手を通って生産され、それを適正な価格で販売しているということを、今回のことを通じて少しでも知ってもらえる機会になれば」と語っている。

 

 

 学校給食の影響は牛乳に限らず、野菜、精肉、鮮魚、パンなど多くの食材納入業者に及んでいる。青果市場で給食用食材を納める納入業者は400万円の売上減になったという。ニンジンやジャガイモ、玉ねぎなど、日持ちのする根菜類はまとめて仕入れている業者も多く、各社で何とか売り切ったりしているものの、飲食店の仕入れも減少しているため16~19日の1週間の仕入れ額は通常と比べて1000万円程度減った。仲卸業者らは生産者に影響が及ばないよう、みなで努力して可能な限りの価格をつけるようにしているが、やはり若干の安値で推移しているという。

 

 ある業者は「学校給食はもちろんだが、市内の飲食店で歓送迎会などが軒並みキャンセルになった影響も大きい。見通しを持たせるため、市役所などは中止ではなく延期とする話も聞いているが、どこもぎりぎりでもっているので、長引くのが心配だ」と話した。

 

 さらに、仕事量が減少しているため、どこもパート従業員に短縮勤務を依頼したり、休業させたりしているといい、「夫婦共働きの場合はまだいいが、ひとり親で生計を立てている人は大変だろうと思う」と話していた。

 

 歓送迎会など団体客のキャンセルが続いている飲食店や飲み屋街は小規模経営も多いことから状況は深刻だ。消費税増税後の消費の減少やカード決済の増加で手数料負担も大きくなっているところに「自粛」の嵐が押し寄せている。

 

 ある男性は、企業接待などで利用する予約制の飲み屋を経営している。1人単価1万3000円ほどの、かなり大きな会社の上役が来る店だ。2月初めごろから3月の予約がいっぱいになっていた。ところが2月中旬ごろからすべての予約がキャンセルとなり、ネット予約も全部キャンセルになった。

 

 昨年3月の売上は600万円だったが、今年は歓送迎会などもすべてなくなっている。それでもアルバイトの学生にも生活があるので、やめさせるわけにはいかない。日ごろできない掃除をしたりしながら、家族のため従業員のため、頭を悩ませており、「国が自粛せよというからどこも飲食店は困っている。であるならば国が責任をもって対策をとるべきだと思う」と切実な思いを語る。

 

 コロナ対策で国が融資枠をもうけるという報道を見て、「当然力になってもらえる」と思って相談に行ったが、担当者に「コロナ、コロナというがそれはきっかけで、これまでの経営手腕によって判断する」といった内容をいわれたという。男性は「コロナがなければ借金などする必要はなかった。これまでもどうにか努力して経営してきたし、支払いもしてきた。どうにか2月中旬まではやってきたが、今回のコロナは自助努力ではどうにもならない。その事態に対して、国が事業者に対して融資をし、払いやすいよう相談に乗ってくれると期待を込めて行ったが、はしごを外された感じだ」と憤りを語った。

 

 別の飲食店主も、「この間キャンセルがあいついで深刻だ。うちのように鮮魚を扱う店は、少し値が張ってもできるだけ活きのいい魚を仕入れるが、客がいない日が続けば刺身ではなく別の料理にせざるをえない。仕入れ値に対して収入が減るので損失が大きい」と話した。

 

 別の飲食店も「学校の一斉休校から経済がガタンと落ちた。今日まで相当な影響が出ている。数人の予約まですべてキャンセルになり、うちも売上は通常の2割程度だ。魚を扱う料理店は冬場から3月、4月くらいまでがピークで、暖かくなると売上が下がってくるのが普通だ。コロナが下火になっても経営はどん底の時期に入る。今月をどうにか回して乗り切ってもその次が同じ状態なら厳しい」と話した。どれだけ低利・無担保だといわれても、返済する目途が立たないため、融資に手を出すことができないという。「国が個人に10万円を出す話もあったが、高額所得者や公務員、議員などまで配るのならとんでもないと思っていた。国民年金で何とか暮らしている人や共働きして子どもを育てている人たちに届くような支援でなければならない。商店も実情をよく把握してもっと手厚く支援していかなければつぶれるところが出てくる」と話した。

 

 ある商店主は、今月末の金策に追われているという。「一斉休校の時期から人が出てこなくなって売上ががたっと下がった。客が1人の日もあればゼロの日もあるが、支払いは待ったなしだ。今月は26日までに入金しなければ商品の仕入れができなくなる。少し前に緊急に融資を受けて返済がある状態。利息が高いので、市の利息が安いものに借り換えたいと考えていたが、難しかった。まだ年金もないので、自腹にも限界があり本当に厳しい」と話した。

 

 別の食品加工業者は、「今日も送りの荷物が一つもなかった。宅配便の人も“どこも送りがない”という。製造場所に冷蔵庫を二つ入れていたが、それを一つ止めて節約することにし、新聞の購読も中止した。売上が1割にも満たないのに従業員の給料も支払わないといけない。しかし、冷蔵庫を整備するときに借金をして返済しているところで、これ以上融資に手は出せない」と苦境を語っていた。

 

 イベントのキャンセルがフリーランスを直撃し、アルバイトでしのいでいるといった実情も語られており、連日のように経済対策がうち出されているが、「自粛」を呼びかけながら旅行に助成するなど支離滅裂な財政出動への批判も強い。「飲食店がつぶれると農家もつぶれる。生産者がいなくなれば復活しようと思ってもできないし、経済が立ち行かなくなるのではないか。補助はどんどん出したらいいが、一律ではなく花屋なら花屋、飲食店なら飲食店に、本当に役に立つ補助にしなければならないのではないか」との声が高まっている。

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