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保健所削減が追い討ち 27年間で852カ所から472カ所に半減 コロナ対応の脆さと関係

 新型コロナウイルスによる肺炎が世界的な脅威となり、日本国内の感染者数は中国、韓国、イタリアに次ぐ規模にのぼった。潜在的な感染者は未知数であり、地域や施設などの具体的状況に応じた科学的な対策を講じるためには、検査体制を拡充して実相を把握することが必須となっている。だが近年、検査をおこなう保健所や衛生研究所の削減、非正規化が全国的に進んでおり、公的な保健衛生機関の拡充へと政策を転換する必要性を突きつけている。

 

 日本国内での新型コロナの感染者数は1000人(うちクルーズ船内705人)をこえ、韓国の3526人と比べて少ないが、感染者を発見するための検査そのものの数が圧倒的に少ない。ウイルス感染の有無を調べる方法として各国政府は、患者の粘膜などを採取して遺伝子情報を探すPCR検査を採用している。韓国ではすでに累計9万人以上が検査を済ませたのに対し、日本では累計6300件にとどまる。

 

 韓国では、検査にかかる費用1回1万6000円の全額を国負担とし、14日以上の入院・隔離の場合には約12万円(4人家族)の生活費支給、院内感染の発生で閉鎖する病院への補償をするなどの対策を決め、1日の検査能力も当初1日7500件から、2月24日には1万3000件に拡充して実施した。一方、日本では、国立感染症研究所や地方衛生研究所、民間への委託を合わせて1日約3800件の検査が可能(政府発表)としていたが、24日までの実施件数は1日平均約900件程度にとどまり、韓国の7%弱となっている。

 

 日本政府の基本方針では、「渡航歴・若しくは濃厚接触歴」があり、4日(高齢者は2日)以上の発熱(37・5度以上)などで入院を要する肺炎の疑いがあってはじめて検査が検討されるが、それ以外の軽症者は「自宅療養が原則」とした。安倍首相は2月29日の会見で、はじめてPCR検査を保険適用し、保健所を通さず直接民間で検査する方針に言及したが、あまりに遅い対応に「感染規模を矮小化するために意図的に検査を遅らせてきたのではないか」と国際的な不信を集めた。

 

 厚労省は「感染が疑われる場合は、まず最寄りの保健所へ」としているが、各医療機関をたらい回しにされたうえ重篤化したり、検査が受けられないケースが多発した。肝心の保健所や連携して検査をおこなう地方衛生研究所の規模が「行財政改革」の名の下に大幅に削減されており、全国的な検査に対応しうる体制が崩されてきたことが背景にある。

 

 各自治体にある保健所は、憲法二五条で国が義務を負う「公衆衛生の向上及び増進」を担う公的機関の一つであり、インフルエンザや新型コロナなどの感染症の検査や対応も担っている。だが、1992年には全国852カ所に設置されていた保健所は、2019年には472カ所まで45%も減少している(厚生労働白書)。国は運営費助成金を削減して自治体に保健所業務の一部を肩代わりさせるとともに、保健所の広域化と統廃合、さらに人員削減を進め、地域住民の幅広いニーズに応えることを困難にした。

 

 また、日本の感染症対策の専門機関である国立感染症研究所でも、研究者が312人(2013年)から294人に削減され、そのうち任期付きが44人で常勤は3割程度。米国CDC(疾病対策センター)と比較すると人員は42分の1、予算は1077分の1という脆弱さだという。

 

 2009年の新型インフルエンザ流行のさいにも、地方衛生研究所がPCR検査のためにフル稼働した。総括として地方衛生研究所全国協議会は、「求められたものは、大量の検体を昼夜の別なく受け入れ、迅速に検査結果を出すこと」であり、「感染症対策の専門知識を求められることはなかった」ことや、「地方財政は厳しく、衛生分野での人員・予算の削減はもはや限界に達し、地方自治体の感染症への対応能力はおしなべて低下しており、地方衛生研究所の機能を維持することさえ難しい状況にある。たとえば、PCR検査を実施するために必要な人的資源、検査機器が十分に配備されていない地方衛生研究所もある」と訴えている。

 

 また「地方衛生研究所は検査機能と同時に、頭脳としての疫学情報機能を兼ね備えることで感染症対策に十全の能力を発揮することができる。また、今回のような危機管理事例にさいし、冷静かつ的確に判断を下すことのできる感染症や実地疫学の専門家が、現実に地方自治体に育っていないことも危惧される」(同)と警鐘を鳴らしていた。今回も、予算削減によって検査体制が弱体化しているところに、検査の責任を押しつけたことから現場が混乱をきたしたことが指摘されている。

 

 国レベルでみても、厚労省職員の53%(3万4722人)が「病気で休むと無給になる」という非常勤職員であり、他省庁と比べても非正規率は高い。大阪府や大阪市のように保健所や衛生研究所を「無駄なもの」と見なして統合・民営化する動きも見られるが、「小さい政府」「市場原理」の名の下に、国民の生命の安全を守る根幹である厚生行政、公衆衛生機関をコスト削減の対象としてきたことが、感染症などの危機にまともに対応できない「後進国化」を促進してきたことが浮き彫りになっている。

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