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『宇宙に広がる南西諸島の軍備強化』 元京都女子大学教授・前田佐和子氏の講演録

 前田佐和子・元京都女子大学教授(宇宙科学)の講演録『宇宙に広がる南西諸島の軍備強化』が、「大軍拡と基地強化にNO! アクション2019」から発行された。昨年7月におこなわれた講演をまとめたものである。

 

 前田氏は、オーロラにともなって起こる上層大気の擾乱(じょうらん)をテーマに京都大学、米宇宙環境研究所での計算機実験や、北欧の大型レーダーを使った観測研究をおこなってきた。その科学者としての経験、専門的知識を生かし、日本の宇宙開発の軍事利用への傾斜を批判し、調査と発言を続けている。

 

 近年、九州南部から沖縄全域に連なる南西諸島で、「島嶼防衛」を掲げて自衛隊の駐屯・基地建設、米軍離発着訓練場の建設、日米共同訓練などが急速に進められてきた。講演ではその実態を紹介しつつ、「島嶼防衛戦争」が新しい宇宙戦争の技術開発の体制づくりと一体のものであることを明らかにしている。

 

 前田氏は自衛隊の地対空ミサイル部隊、ミサイル基地建設が進む与那国島、奄美大島、宮古島、石垣島での調査や現地の人々の懸念を踏まえて、「島嶼防衛戦争」の構図を浮き彫りにしている。それは、佐世保など九州北部に水陸機動団(作戦部隊)を新しく配置し、沖縄・辺野古新基地、キャンプシュワブ、キャンプハンセンにその司令部をつくり、奄美大島に後方支援のための弾薬庫などを置いて、石垣、宮古、与那国に前線基地を配備するというものだ。

 

 さらに、石垣、宮古、久米島、種子島に準天頂衛星の地上管制局のアンテナが建設されていることを重視し、その目的について科学技術(ミサイル誘導システム)の面からくわしく解説している。そして、「島嶼防衛」としてマッハ7の「極超音速滑空弾」を開発し、この地域への配備をめざしていること、「島嶼防衛戦争」が従来の弾道ミサイルや巡航ミサイルに替わる新兵器の開発の一環であることを明らかにしている。

 

 前田氏は、日本の天頂衛星の打ち上げがアメリカが宇宙空間に張りめぐらした神経系統を守るために要求したもので、それが安倍政府の「積極的平和主義にもとづく宇宙安全保障計画」の目玉となっていることを強調している。また、世界的な宇宙軍拡のなかで問題視されてきた「宇宙デブリ」(老朽化した偵察衛星など人工衛星の破片)や、アメリカ、中国、ロシアがおこなっている衛星破壊実験についても解説している。

 

 こうした南西諸島をめぐる軍備拡張のなかで、軍学共同・科学者の軍事研究にかかわる問題が浮かび上がってくる。最近打ち上げられた「みちびき」などの準天頂衛星は、もともとアメリカがGPSとして開発・運用した、ミサイルや飛行物体の位置を定める測位衛星である。それが、携帯電話やカーナビなどに民生利用されるようになった。

 

 JAXA(宇宙航空研究開発機構)が「はやぶさ2」の小惑星から土を採取するために開発した技術が、極超音速兵器の弾頭開発に採用されている。また、ジェットエンジンを噴射して飛行する超高速誘導弾のエンジン開発を、JAXAを中心に岡山大学、東海大学が共同研究で進めている。

 

 昨年、石垣島にある国立天文台の電波望遠鏡がブラックホール観測で大きな役割を果たした。基地建設によるレーダーや軍事通信が、この望遠鏡のアンテナに支障を来すことも指摘されており、国立天文台の対応が注目されている。前田氏は、巨額の税金をつぎ込んで進められる科学・技術は専門家だけのものではなく、「オープンな場で論議する必要がある」と指摘している。

 

 前田氏は、「島嶼防衛」を名目にした自衛隊基地の建設・配備が米軍の指揮下で運用されること、それは「軍民混在の島嶼防衛戦」を展開する沖縄戦の再来であることを強調している。離島に敵部隊が攻めて来て上陸したとき、そこに駐留する自衛隊がそれを追い返すことはできないというのが沖縄戦の教訓だとして、自衛隊の主部隊が先に撤退し敵に離島を占領させたあと、島民を犠牲に強襲上陸して再占領するというのが「島嶼奪回作戦」である。

 

 講演では、南西諸島のどの島でも、沖縄戦を体験した住民が粘り強く基地建設に反対していることを伝えている。

 

 冊子はB5判・24ページ、頒価300円。

 

武器取引反対ネットワークanti.arms.export@gmail.com(☎杉原090―6185―4407)で扱っている。

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