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各国軍がイラクから撤退 韓国は軍の派遣を拒否

 米軍によるイラン革命防衛隊ソレイマニ司令官の殺害に端を発するイランと米国の緊張激化を受けて、米国主導の連合軍や「対IS(イスラム国)」などテロリスト掃討を名目にした有志連合として中東に駐留してきた各国軍があいついで縮小や撤退を始めている。イランへの軍事挑発とともに制裁を強めるトランプ米政府の強硬策に巻き込まれることを忌避する動きが目立っており、中東への軍事介入に反対する国際世論の高まりを示している。

 

 イラクでの有志連合には、米国5000人をはじめ、イタリア845人、フランス500人、英国400人、オーストラリア380人、カナダ370人、スペイン350人、デンマーク190人、オランダ150人、ドイツ120人など、23カ国の約9000人が駐留しているとされる(『ミリタリー・バランス』2019年度版)。

 

 3日のソレイマニ司令官の殺害による緊張激化を受けて、ドイツ政府は7日、イラクの首都バグダッドとタージでイラク軍の訓練を目的に駐留していた兵士約35人を隣国ヨルダンとクウェートに退避させる方針を発表し、イラクからのドイツ軍の撤退は「間もなく開始される」(独国防省)とのべた。マース独外相は6日、ドイツ軍のイラク駐留の根拠は「イラク政府と議会からの招請を受けている」ことにあり、「もはやそうでないならば、われわれが同地にいる法的根拠がなくなる」と発言していた。イラク議会は5日に駐留米軍を含む外国軍隊の全面撤退を求める法案を決議している。

 

 イタリア軍も7日、バグダッドの米大使館周辺に駐留していた約50人の部隊を退避させ、イギリス軍もバグダッドから約50人の部隊をイラク国外に撤収した。

 

 北大西洋条約機構(NATO)は5日、イラク軍への訓練任務を中止することを発表し、7日には「人員の安全を守ることを優先する」として500人の教官のうち一部をイラク国外に撤収すると発表した。これを受けてルーマニア、クロアチア、スロバキアも訓練任務にあたっていた部隊をイラク国外の基地に退避させた。

 

 また、NATO傘下でのイラク治安部隊訓練などを担ってきたカナダ軍のバンス統合参謀長は7日、兵士の家族宛に書いた書簡を軍のツイッターで公表し、イラク駐留軍約500人のうち一部をクウェートに撤収させる考えを明かした。「部隊の安全が最優先」と撤退の理由をのべている。つづいてデンマークも9日、同国のイラク駐留部隊をクウェートに移動させる方針を発表した。

 

 メルケル独首相、マクロン仏大統領、ジョンソン英首相の3人は6日、共同声明を発表し、「すべての当事者が最大限の抑制を行使する」ことを求め、「事態悪化を防ぐ緊急の必要性」「イラクにおける現在の暴力のサイクルは終わらなければならない」と説いた。そして「イラクの主権と安全を守ること」をくり返し強調し、「別の危機がイラクを安定させるための長年の努力を危うくするリスクがある」と注意を喚起した。

 

 イラク政府は6日、外国軍隊の国内撤退を決議した議会の決定を履行するための法的手続きに入ったことを発表した。同国のアブドルマハディ首相は10日、ポンペオ米国務長官に対して軍撤収に向けて代表者を指名するように求めるとともに、駐イラクEU大使にも多国籍軍の撤収によってイラクの主権国家としての権利や安全が保障されることを呼びかけた。イラク国内では、イラク政府の正式な招聘によって同国を訪問中だったイランのソレイマニ司令官を米軍が殺害したことについて「国家主権の侵害」との非難が強まっており、同じく米軍が駐留するトルコ、シリア、レバノンなどの国民世論とも呼応しながらイラク政府の決定を後押ししている。

 

 トランプ米政府がホルムズ海峡などを航行する船舶の「安全確保」を名目に各国に軍の派遣を呼びかけた「番人(センチネル)作戦」への参加国は、米国が対象とした30カ国のうち米国、英国、オーストラリア、サウジアラビア、バーレーン、アラブ首長国連邦(UAE)、アルバニアの7カ国にとどまっている。

 

 日本政府が自衛隊の中東地域への「独自派遣」を強行する一方で、韓国の康京和(カン・ギョンファ)外交部長官は9日、「米国の立場とわれわれの立場が必ずしも一致するとは限らない」「韓国国民の安全を最優先に考えている」と表明し、軍派遣の可能性を否定。「中東地域の情勢分析も(米国とは)一致しておらず、われわれはイランと長いあいだ経済関係を結んでおり、人道支援と教育もおこなってきた」とのべ、「米国が派兵を要請するだろうが、イラクに韓国国民が1600人、イランには290人、なかでもテヘランには240人がいる。政府の決定が彼らの安全に影響を及ぼす」「国民の安全を最優先に考慮しなければならない」と強調した。

 

 駐韓米国大使から「同盟国の協力」として軍の派遣要請を受けた後の11日には、「同盟国だからといって、すべての問題で米国と歩調を合わせるべきということにはならない。ホルムズ海峡への軍隊派遣に関する方針は変わらない」(康京和長官)と改めて軍の派遣を否定した。

 

 イラン政府は「ペルシャ湾地域の保安警備の主要な責務は近隣諸国にある。地域外の国がペルシャ湾地域の情勢不安を煽ることを許さない」とくり返し表明している。ハタミ国防軍需相は、日本の河野防衛大臣との電話会談のなかでも「地域の情勢不安や緊張の主な元凶は米軍の駐留」であり、「国連安保理決議によれば、アメリカの行動(司令官殺害)は国家テロの実例とみなされる」「イランは常にペルシャ湾とオマーン海の安全確保において役割を果たしてきたし、緊張緩和と安定に寄与しようとする人は、アメリカに対して安定と平穏のため地域から撤退するよう求めなければならない」とのべている。

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