種子法が廃止されて1年がたったが、このあいだに都道府県単位で種子条例を制定する動きが広がり、今年度中に21の自治体で制定される見込みとなっている。種子条例を制定する動きが広がれば、種子法廃止は実質的に意味を持たなくなる。地方の一人一人の動きがつながり、大きなうねりになってきた。こうしたなかで年明け、農水省はいよいよ種苗法の改定法案を国会に提出しようとしている。私たちは種子条例制定の運動に続き、今年は自家採種禁止法案に反対する運動と、種苗条例を全国で制定する運動を大展開したいと考えている。
種苗法が改定されると、これまで自家増殖をしていた農家が種や苗を買わなければならなくなる。茨城県のある農家は、8品種のコメの種子約7㌧を自家採種しているが、すべて購入することになると350~500万円になると訴えた。日本の農家がやっていけなくなるのは、だれが考えてもおかしいことだ。
農水省は、シャインマスカットの苗木が中国・韓国に流出していた問題を例に出し、「シャインマスカットが逆輸入されて、日本の農家を苦しめている。だから育種知見を保護しなければならない」として、自家採種を原則禁止にする必要性を主張している。現行の種苗法では「海外に持ち出すことが合法になっている」というのが農水省の言い分だ。
ところがこれは間違いだ。大きく4点、農水省の主張の矛盾を指摘する。
一つ目に、現政府が制定した「農業競争力強化支援法」は、第8条4項で、独立行政法人の試験研究機関や都道府県が有する種苗の生産に関する知見を民間事業者に提供することを促進するとしている。シャインマスカットは独立行政法人・農研機構が開発し、育種登録した品種だ。これを「民間に渡すように」といっているのだ。しかも当時国会で「海外のモンサントなどにも提供するのか」と聞くと、齋藤農林水産大臣は「TPP協定は内外無差別だから当然そうなる」と答えた。海外の種苗企業、多国籍企業にも育種知見を提供しろといいながら、「中国に流出するから種苗法を改定しなければならない」という主張は根本的に矛盾している。
二つ目に、種苗法第21条2項では、登録品種や特性によって明確に区別されない品種でも、その種苗を用いて収穫物を得て、それを自分の農業経営のなかで種苗として用いる場合には、育成権者の効力はその苗から得た収穫物や加工品には及ばない。自家増殖は自由だ。
種苗法はユポフ条約(1991年条約)のためにできた法律だ。ユポフ1991年条約は自家採種を禁止し、開発企業の知的所有権の遵守を優先させたものだ。上記のように21条では例外として、自家採種してその種をまき、収穫物を得ることや加工・販売することもできるようになっている。
だが政府は、「ここで育成者の権利が消えてしまう(消尽)」ため、自由に、合法的に海外に持ち出せるから自家採種禁止にする、と説明している。しかしそうではない。第21条4項では、「当該登録品種等の種苗を生産する行為、当該登録品種につき品種の育成に関する保護を認めていない国に対し種苗を輸出する行為及び当該国に対し最終消費以外の目的を持って収穫物を輸出する行為」については育成者権の効力は及ぶとしている。海外に持ち出そうとする場合には、この第21条4項によって禁止することができる。改定する必要がないという根拠だ。
三つ目に、種苗法には罰則の定めがあり、違反した者には10年以下の懲役もしくは1000万円の罰金、または両方を科されることになっている。しかも共謀罪の対象だ。本当に海外への流出を止めようと思えば、宮崎県が種牛の精液が流出したことについて刑事告訴をしたように、刑事告訴をすれば十分であり、改定しなければならない理由にはならない。
四つ目に、本当に海外流出を止めたいのであれば、国が中国・韓国で育種登録・商標登録すべきだ。シャインマスカットが海外流出したのは、それを怠ってきた国の責任ではないか。実際に、平成17年に種苗法21条を改定したさいの農水省の資料では、「海外に行く日本の優良な育種知見を止めるには、海外で育種登録するしかない」としている。今になって「シャインマスカットの育種知見が流出するから」というのは説明がつかない。
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農水省が急いで種苗法を改定しようとしているのはアメリカの圧力にほかならない。日米FTAにともなって、モンサント等多国籍企業が圧力をかけている。種子法廃止と同じように、3月に衆議院、4月に参議院を通過させ、1年後に実施するつもりだ。
種苗法改定の検討委員会を引っ張っているのは、知的財産権ネットワークの弁護士だ。昨年10月15日に開催した院内集会の場に参加した農水省知的財産課の説明では、裁判所は現物を要求するが、モンサント等は登録された品種を現物として保有するのは容易ではないので、「特性を明文上、明らかにしたい」という。「この作物は背丈が何センチで、節はいくつで…」というように決め、それに該当すればすべて違反として、育種権者の権利を守るといい始めている。まさにモンサント等多国籍企業が裁判をするにあたって、彼らが有機栽培農家の栽培している伝統的な固定種を育種登録及び少し改良を加えて特許をとることができる内容である。
育種登録した品種でも、栽培する土地によっても変化していくものだ。そこでモンサントは有機栽培農家の自家採種をやめさせ、すべての種子を自社の種にすることを狙っている。モンサントの裁判が有名なことはみなさんご存知だと思う。モンサントポリスが畑を見回り、自社が育種権を持つ作物が混ざっていれば訴訟を起こす。カナダでは風で飛ばされた種が混入した菜種農家が訴えられ、20万㌦請求された。日本国内でもすでに、キノコの生産者が企業に訴訟を起こされたケースが6件も発生している。
すでに彼らは準備を始めている。このまま種苗法を改定すれば有機栽培農家も裁判に負け、大変な事態に置かれる。農水省が「伝統的な固定種を栽培している有機栽培農家は絶対に大丈夫だ」といっているのは真っ赤な嘘だ。
もう一つ、10月15日に農水省が大事な資料を出した。例えばシャインマスカットは農研機構の育種知見だが、その育種登録権者が第三者にかわった場合どうなるかということだ。農水省は「農家の権利は今まで通り変わりない」と説明し、巧妙に「自家採種禁止」という言葉を引っ込めて、「許諾を得なければつくれない」といういい方をしている。県や国の機関である農研機構などが育種登録権者であれば、農家にすぐ許諾するだろうが、これがモンサントなど第三者に渡った場合、金を払わなければ「許諾」などするはずがない。
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われわれは今年から、種苗法自家採種禁止法案に対して全国で反対運動を展開したいと考えている。それと同時に、種子条例が21の自治体でできたように、種苗条例を全国の自治体で制定していく運動を広げたいと考えている。国がアメリカやモンサントのいいなりになって種苗法を改定しても、地方からたたかっていけば恐いことはない。
そのうえで、広島県のジーンバンクのような活動が大切になってくる。県や市町村など公的機関がそれぞれの品種の特性をすべてデータ化し、保存・管理して貸し出すような制度があれば、育種登録より以前に使用している種苗は裁判でも勝つことができる。伝統的な固定種も先にすべて特性を記録し、登録しておけば、自家採種禁止をやられても、モンサントがやって来ても、たたかうことができる。沖縄県では本の貸し出しもしているカフェで、種の貸し出しも始まった。このような動きを全国に広げていけば心配することはない。
遺伝子組み換え作物についても、今治市の「食と農のまちづくり条例」のような形で守ることができる。今治市は市長に申請し厳しい条件をクリアして許可を得なければ、栽培できないよう条例で定めている。市内で遺伝子組み換え作物の栽培がおこなわれなければ、種子が交雑して訴訟を起こされることから農家を守ることができる。遺伝子組み換え作物を市民が食べることもない。今治市の条例は、違反した者に対し6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金も科すなど、大変厳しい内容だ。
今、地方自治体は法律に違反しない限り、みずからの意志で何でもできる時代だ。私たちの暮らしは私たちの力で守ることができる。地方から暮らしを守る時代だ。命をかけてやれば何でもできる。たたかえば勝てる。勝つまでたたかう。希望を持って今年も頑張っていきたい。