いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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戦後の国是覆す戦争動員体制 米軍の奴隷軍隊と化す自衛隊 安保法制化で常時世界中へ

 日米防衛ガイドラインの改定に向けて、安倍政府が安保関連法制を一気に動かしている。20日には自民、公明両党が共同文書に合意し、国会審議に向けた地ならしを終了した。そして、法改定を見越して安倍首相の訪米や米国議会での演説日程が決まるなどしている。今回やろうとしている安保法制化の目的は、米国のための戦争に自衛隊が常時世界中のどこであっても動員される体制をつくることと、海外に生産拠点を移転させた国内独占資本の権益を軍事力によって守ることである。戦後は日米「安保」のもとで、中国やソ連といった国国の脅威から「守る」ことを建前に米軍基地を置き、70年にわたって単独占領を続けてきた。冷戦は終結し米国がその後新自由主義施策をやりまくって中東やアフリカ、欧州、東アジアにしても世界情勢は荒れ、手に負えなくなっている状況のもとで、ついに自衛隊を奴隷軍隊として駆り出すところまできた。戦後の枠組みを大きくかえるもので、戦争阻止のたたかいが重大な局面を迎えている。
 
 大企業の海外権益を守る肉弾

 自民、公明両党が「合意」した文書では、「いかなる事態においても国民の命と平和な暮らしを守りぬくため、切れ目のない対応を可能とする国内法制を整備する」と記し、海外派兵について①自衛隊が参加し、実施する活動が国際法上の正当性を有すること、②国民の理解が得られるよう、国会の関与等の民主的統制が適切に確保されること、③参加する自衛隊員の安全の確保のための必要な措置を定めること、など3要件を満たせば自衛隊の出動が可能という方向を示している。
 具体的には、①「グレーゾーン事態(離島への武装集団の上陸・公海上での民間船の襲撃など)」への対処、②「日本の平和と安全に重要な影響を与える事態」における米軍および他国軍隊に対する支援、③他国軍隊による軍事作戦などへの支援、④PKOなどでの武器使用権限と任務の拡大、⑤集団的自衛権の行使、⑥邦人救出と船舶検査、国家安全保障会議の審議事項ーーに関して法案の方向性を示している。
 グレーゾーン事態への対処としては、有事に至らない場合でも自衛隊が米軍や他国軍を守るために出動できるように自衛隊法を改定するとしている。「米軍および他国軍への支援」では、周辺事態法の改定・恒久法の整備を明記するとともに、有事のさいに米軍艦船を守り、米軍以外の他国軍への支援もおこなえるように改定。さらにいつでも自衛隊を派遣できるように恒久法を整備し、米軍や他国軍への弾薬の補給・輸送、戦闘機への給油などの支援を可能にするとしている。他にも「周辺事態」という用語をやめ、地理的制約をとり払って、世界のどこにでも自衛隊を派遣できるようにすることも加えられた。
 また、PKO以外の「国際社会の平和と安全のために活動する」他国軍隊の軍事作戦などへの支援(治安維持など)を常時可能にする新法の制定も明記している。PKO協力法改定をおこない、PKOなどにおいて武器使用を可能にすること、他国軍への駆けつけ警護で反撃することを認め、さらに国連が統括しない軍事活動への参加についても、要件を満たせば可能とする法整備を検討している。
 「集団的自衛権」とかかわって自衛隊法、武力攻撃事態法などを改定し、武力攻撃を受けている米軍艦船の防護、機雷掃海などにおいて自衛隊の出動を可能にし、「新3要件」を満たせば、新たに武力の行使、いわゆる戦争参加を認める法整備を検討すると明記した。そして、「邦人救出」に関しては自衛隊法を改定し、「テロ集団が大使館などを占拠した場合」において、自衛隊が出動して武力で現場を制圧し、邦人や外国人を救出することを可能にするとした。その派遣手続については、「内閣総理大臣の承認を要すること」とし、ときの首相の判断で自衛隊の出動を命じることができるようにするものである。
 周辺事態法の改定と連動して船舶検査活動法も改定し、シーレーン(有事にさいし、国家の存立や戦争遂行のために確保しなければならないとされる海上連絡交通路)などでの自衛隊の活動を可能にし、船舶検査の参加を可能にする。さらに「他国軍への物品・役務の提供」として、「自衛隊と米軍がともに活動する場面」において、情報収集・警戒監視等についても、「物品・役務の提供」が実施できるよう法整備を検討している。共同訓練や災害対処以外でも、米軍への武器弾薬・燃料・食料・宿泊などの提供をおこなえるようにする方向だ。

 ガイドライン改定へ 軍事作戦は米軍と一体

 米軍以外の支援相手にオーストラリア軍の名前が浮上したりしているものの、「集団的自衛権の行使」が想定している「集団」とは要するに米軍である。イラク戦争にせよ、「イスラム国」討伐にせよ、米軍の軍事作戦にいつも付きあわされているのがオーストラリア軍で、この一味に自衛隊が加えられるのにすぎない。その軍事作戦において「後方支援」としておこなう弾薬提供、燃料補給や食料供給は、17歳少年(川崎少年殺害事件)の「ナイフあるよ」と差はなく、衝突している相手国からすれば戦争の相手となり、たちまち攻撃対象となる行為である。
 日米両政府は13年10月に日米ガイドラインの改定を巡って基本方針を合意し、そのもとで昨年7月に安倍政府が集団的自衛権の行使容認を閣議決定した。昨年10月には中間報告が出され、上述したような方向性が早くからうち出されてきた。中間報告では、安倍政府が閣議決定した集団的自衛権行使を具体化し、自衛隊の新たな対米協力には、米軍艦船を自衛隊に守らせる「アセット(装備品等)の防護」や、中東ホルムズ海峡での機雷掃海を想定した「海洋安全保障」、アメリカへ向かう弾道ミサイルを撃ち落とす「防空及びミサイル防衛」を盛り込み、戦斗の最前線に立たせることを暗示した。また「経済制裁への協力」、「避難民への対応」とともに自衛隊が米軍施設の防衛(施設・区域の防護)、米軍救助(捜索・救難)、米軍家族の避難(非戦斗員を待避させるための活動)を優先することも列記されている。
 自衛隊の指揮所に米軍人を常駐させることも盛り込まれた。
 さらに「日本に対する武力攻撃がないときでも日本の平和と安全を確保するために迅速で力強い対応が必要」「切れ目なく日本の安全が損なわれることを防ぐ」とし、「平時」「周辺事態」「日本有事」としていた区分をとり払った。「日本有事」以外はすべて「グレーゾーン事態」と位置づけ、集団的自衛権で攻撃・報復に踏み切れるようにするものだ。
 地球の裏側まで自衛隊の出動を可能にし、地理的制約をとり払うことと、より米軍と一体化した軍事作戦を可能にすること、米軍と自衛隊はもちろん、米国NSCと日本版NSCなど政府間の指揮系統も連動させて事態に対処していくことなどを一気にゴリ押ししようとしている。要するに自衛隊を下請軍隊として駆り出すもので、特定秘密保護法もその必要性から強行した。
 今後、日米両政府は安保法制整備を進める一方、4月下旬には米国内で外務・防衛担当閣僚会合(2プラス2)を開いて日米ガイドラインを改定し、その後、五月に安保関連法案を国会に提出して成立させようとしている。法整備を施した後は、アフリカ、中東、ウクライナなど世界各地の紛争地域に、自衛隊が実戦的に放り込まれていくことが十分に想定される。

 末期的な資本主義 恐慌下で激化する争奪

 冷戦が終結した後の世界は、リーマン・ショックによって暴露されたように米国の単独覇権のもとで金融資本主義がたけなわとなり、1%にも満たない金融独占資本が世界中の富を収奪する構造が敷かれてきた。それが破綻すると、資本主義各国は国家財政の出動によって目先の危機を切り抜け、犠牲をみな自国の労働者や勤労人民、新興国などに押しつけてきた。しかし恐慌から抜け出せず、米国や欧州、台頭する中国やロシアといった国国の間の市場争奪や覇権争奪はより激化したものになっている。シリア、ウクライナ、中東、東アジア情勢にしても、それらの矛盾と対立が反映しながら世界が流動している。
 アメリカは91年湾岸戦争、2000年代に入ってからのアフガン侵攻、イラク戦争と乱暴な侵略戦争をくり返してきたが、中東では民族解放を望む現地の強力な抵抗にあって泥沼から抜け出せず、ウクライナやシリア対応を巡っても覇権主義が通用しないまでに、その衰退は深刻であることが暴露されてきた。世界情勢は流動化し、その1極支配が揺らいでいるからこそ、日本人を肉弾として駆り出そうとしている。基軸通貨であるドルの立場を利用して荒稼ぎしてきたが、最終的な裏付けになるのは軍事力で、「同盟国の軍事力」によって乗り切ることを明言している。
 オバマ政府はアジア重視戦略に転換し、TPPで中国を包囲したアメリカ中心の経済ブロック化をはかりつつ、日本をアメリカの代理人として前面に立てて緊張関係を深めてきた。東アジア地域において対中国との覇権争奪で矢面に立たされ、恨まれ役をやらされているのが日本政府で、さらに範囲を拡大してその軍事力をアフリカや中東など地球の裏側まで向け、米軍の鉄砲玉になって自衛隊が出撃する体制を動かしている。米軍の下請軍隊であると同時に、核の傘のもとで海外移転をくり返し、新興国や後進国で大収奪をしている独占大企業の権益を守る必要性からも迫られた軍事力の世界展開である。
 親兄弟など320万人もの国民が殺された第2次大戦から70年が経過した。戦後の国是を覆し、再び戦争の火の海に投げ込む動きに対して、全国的に戦争阻止のたたかいを組織し、立ち向かわなければならない情勢が到来している。

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