いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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かんぽ不正問題が示す郵政民営化の反社会性 天下り幹部が公共放送にも介入

 かんぽ生命による膨大な不正契約をめぐり、日本郵政グループ幹部が不正契約の実態を報道したNHKに圧力をかけて謝罪させていたことが、公共放送のあり方とかかわって物議を醸している。公共機関であった郵便局を分割民営化して12年。過剰なノルマで社員を酷使して不正契約を強要していた側が、開き直って公共放送にまで介入するという異常な構図は、多額の金品を受けとっていながら被害者面する関西電力幹部とも重なり、モラルの底が抜けた腐敗ぶりを見せつけている。「ガバナンス(統治)」「コンプライアンス(法令順守)」などの言辞を弄びながら、公共性や社会的責任を放棄し、公共財を食い荒らして個別利害を追求する民営化の犯罪性をあらわしている。

 

不正契約を認め謝罪会見した日本郵政の長門社長(中央)ら幹部(9月30日)

 問題表面化の発端は、NHKが昨年4月放送の『クローズアップ現代+』で、かんぽ生命の不正契約疑惑をとりあげたことに始まる。番組は「郵便局が保険を“押し売り”~郵便局員たちの告白~」と題し、NHKのもとに集まった450通をこえるメールや証言をもとに全国的に広がっている郵便局による悪質な保険勧誘の実態を特集した。NHKによると、その多くが現役の郵便局員など関係者からの内部告発だった。


 そのなかでは「郵便局員に毎月4万円の生命保険を勧められたが、支払額が640万円なのに、死亡時(不慮の事故などの例外を除き)の受取額は500万円。しかも支払いが90歳まで続く。断ったのに息子さんのためにといって3人に囲まれてサインさせられた……」(女性)など高齢者の訴えを紹介。また、郵便局員から提供された内部資料には、70歳以上の高齢者との契約で同席が義務づけられている家族にかわり、郵便局の上司が同席すれば契約が可能になるなどの「例外規定」があることや、2016年の9カ月間だけで全国の郵便局に4000件以上の苦情が寄せられていたことなど、深刻な規模にまで広がっている不正営業の実態が赤裸裸に綴られていた。


 さらに全国各地で局長クラスが隠蔽や不適正契約にかかわり、長年「まちの郵便局」として培われてきた社会的信頼を逆手にとって不正営業をくり広げている事例とともに、各郵便局には本部から前年度の2倍から3倍もの現実離れした高い営業ノルマが押しつけられ、未達成者には「恫喝研修」「懲罰研修」を課して組織的な圧力をかけていたことも現場からの告発としてとりあげた。「高齢者に強引に販売せざるを得ない環境が郵便局にはあった。お客さまに申し訳ない気持ちが日に日に強くなり退職した」(30代の元局員)、「以前のような地域の人に頼りにされる局員に戻してください」(40代の現役局員)という現場の声もあった。


 もはや隠し切れなくなった内部の混乱が広く世間に知れわたり、民営化によって変質した郵便局の実態に衝撃が走るものとなった。


 同番組の放送を受け、日本郵政グループは、「犯罪的営業を組織ぐるみでやっている印象を与える」との文書をNHKの上田良一会長(米国三菱商事社長)宛に送付し、NHKがツイッターで情報を集めるために公開していた動画の削除を要求。NHKの番組幹部はこの要求に対して「放送法上、会長は番組作成に関与しない」と説明したが、日本郵政側は「最終責任者は会長であり、NHKでガバナンスがまったく利いていないことの表れ」と恫喝し、上田会長に文書での説明を求めた。これを受けてNHK側は、昨年8月に予定していた続編の放送を見送り、ネット上の動画を削除した。


 同10月、日本郵政は再度、NHKの最高意志決定機関であるNHK経営委員会(委員長/石原進・JR九州相談役)宛に「ガバナンス体制の検証」を要求する文書を送付。それを受けてNHK経営委は「ガバナンス体制の強化」の名目で上田会長を「厳重注意」し、それを日本郵政側に報告した。やましい自覚があったのか、これらは経営委の議事録には載らない非公式の場でおこなわれた。

 

日本郵政の鈴木上級副社長

 そして同11月には、NHK専務理事らが「(番組幹部の)説明が不十分だった」とする会長名義の謝罪文を手渡しに日本郵政に出向き謝罪。会長みずから番組に関する謝罪文を出すのは異例で、日本郵政はNHK経営委に「果断な措置をとっていただいた」と感謝状を送っていた。


 このとき日本郵政の鈴木康雄上級副社長がNHK経営委に送った文書では、「(NHK専務理事・放送総局長から手渡された)会長名書簡にある『放送法の趣旨を職員一人ひとりに浸透させる』だけでは充分ではなく、放送番組の企画・編集の各段階で重層的な確認が必要である」とし、「かつて放送行政に携わり、協会のガバナンス強化を目的とする放送法改正案の政策責任者であった立場から、ひとりコンプライアンスのみならず、幹部・経営陣による番組の最終確認などの具体的事項も挙げながら、幅広いガバナンス体制の確立と強化が必要である旨も付言した」と、まるでみずからが監督官であるかのような立場から重ねてNHK側を「指導」している。


 鈴木上級副社長は、郵政官僚として郵政民営化にかかわり、元総務省事務方トップの事務次官から2013年に日本郵政に副社長として天下って16年には社長代行を務めた人物。菅官房長官の総務大臣時代には総務審議官を務めており、半官半民(株式の大半を国が保有)の日本郵政に事実上の政府代理人として送り込まれた存在といえる。


 公共放送の監督機関であるNHK経営委の側も、委員の任命権を政府(首相)が握っている。石原委員長は日本会議福岡の名誉顧問、委員の長谷川三千子(埼玉大学名誉教授)は「安倍総理大臣を求める民間人有志の会」の発起人、本田勝彦(JT顧問)は安倍首相の家庭教師など首相ブレーンで固められ、かつては委員長として「(NHKは)政府が右ということを左というわけにはいかない」と豪語した籾井勝人(米国三井物産社長)や、トンデモ発言で知られる百田尚樹までが委員に選出されていた。


 会長への「厳重注意」とは直接にはプロデューサーなど番組制作者への圧力強化であり、「コンプライアンス」「ガバナンス」の強化とは「もっと番組制作を監視・コントロールする体制をつくれ」を意味する。


 NHKの性格を規定する放送法は「放送を公共の福祉に適合するように規律し、その健全な発達を図る」とし、「放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによって、放送による表現の自由を確保する」「健全な民主主義の発達に資する」(第一条)と定めている。また「放送番組は、法律に定める権限に基づく場合でなければ、何人からも干渉され、又は規律されることはない」(第三条)としている。
 これらを国民に約束することによってNHKには、受信料徴収権をはじめ、所得税や法人税、登録税、事業税の減免や固定資産税の軽減措置、放送施設建設用地にあてるための国有地の譲渡、ラジオ・テレビ中継回線に関する行政措置、放送用周波数割り当てへの特別配慮など多岐にわたる特典が付与されているのであり、役員であっても恣意的な放送への介在は認められていない。


 一連の騒動は、民営化で公共財を食い物にしてきた側が、公共性の概念まで投げ捨てて公共放送の番組内容にまで介入し、その一民間企業の圧力をNHK側(経営委)がすんなり受け入れるという本末転倒な姿を露呈している。権力の威光を笠に着た天下り官僚の越権行為に何の歯止めも利かない土壌は、「腐ったミカン」式の腐敗の伝播というほかない。

 

開き直って責任とらぬ モリカケや関電と共通

 

 この騒動をへた今年6月、日本郵政はかんぽ生命をめぐり多数の不正販売の疑いがあったと発表。9月27日までに明らかになった不正契約の規模は、NHKが報じた内容をはるかに上回り、保険業法違反の疑いのある契約は6327件、そのうち契約時に「解約できないルールだ」などと虚偽の説明をしたり、不利益な契約であることを隠したり、病歴を記載しないように指示するなどの法令違反は1400件と過去最高となった。


 さらに、過去5年間に保険料の二重払いなどで顧客に不利益を与えた可能性がある契約数は18万3000件にのぼり、当初発表していた9万件から倍増した。これまでに顧客に確認できたのは、4割弱の6万8020件にとどまっており、さらに膨らむ趨勢にある。すでに2万6000人の顧客が不利益状態の解消を求めており、現場はふたたび混乱に陥っている。


 まさに「犯罪的営業を組織ぐるみでやっていた」わけであり、通常の民間企業なら社長の辞職だけでは済まされない大規模な特殊詐欺事件として刑事罰に値する重大事件といえる。


 「ガバナンス(統治)を検証せよ」などと強面でNHKに抗議していた側のガバナンスに注目が集まったが、9月30日にそろって会見した日本郵政の長門正貢社長、かんぽ生命の植平光彦社長、販売委託先である日本郵便の横山邦男社長は「信頼を回復するのが経営責任」「大きな膿があると思うので、われわれは膿を出し切るのが当面の経営責任」(長門社長)とのべて辞任を否定。


 モリカケ疑惑における公文書改ざんで「行政のトップである私が責任を持って全容を解明し、膿を出し切る決意だ」といった安倍首相、原発マネーのキックバックを受けていた関西電力・八木誠会長の「すべての膿を出し切るということで、今後徹底的な調査、原因究明をおこなう。そして再発防止対策を確立し実施していくことが私の務め」と同じく、開き直って責任をとらぬ文化が蔓延している。


 そして現場で蔓延する不正契約の把握については「現場からまったく情報が上がってこなかったからだ。議論する材料が十分あれば、きちんと機能できる」(長門社長)とのべたが、現場の声を拾った昨年4月のNHK報道に逆上して抗議し、その後も不正を認めなかった事実からも苦しい答弁となった。

 

社員恫喝しノルマ強要 暴力的な経営手法

 

 民営化から12年たつ郵便局は、日本郵政の管轄下に日本郵便、ゆうちょ銀行、かんぽ生命の3社に分割され、本来業務であり公的性格の高い郵便業務を切り捨て、これまでそれを支えてきた「ゆうちょ」と「かんぽ」が持つ300兆円(世界最大級)もの運用資産を、外資が手ぐすねを引いて待つ金融市場に垂れ流す構図がつくられてきた。


 民営化にとって「お荷物」となった日本郵便は、郵便サービスを縮小するとともに、全国2万4000局ある郵便局にかんぽ生命の終身保険や学資保険の販売業務を課して「収益拡大」を迫り、これらの委託手数料が収入の約3割を占めることから、各局に「手数料確保への貢献」と通達し販売を基本業務としてきた。2013年からは日本に進出した米保険大手アメリカン・ファミリー生命保険(アフラック)のがん保険の販売をゴリ押しして販売窓口にさせた。


 ちなみに、アフラック保険の委託販売では、二重払いなどの不利益契約が2014年四月から2019年8月までに19万6355件見つかっている。だが日本郵政は他の保険商品の販売を年内自粛するなかでアフラックの販売だけは継続している。このさい「アフラックの商品を3倍売れ」という内部通達まであるといわれる。


 日本郵便の新規契約件数に一カ月あたりの保険料をかけた販売目標額は、年間450億円(2019年度)。このノルマを全国の郵便局に振り分け、そこから郵便局員一人一人に振り分けられる。地域にもよるが、外回り営業をする保険渉外局員は一人あたりの年間ノルマは約300万円といわれ、保険契約が一件1万円なら毎日(労働日240日)契約をとっても達成できない過大なものだ。


 外回りだけでなく郵便局窓口にもノルマがある。目標額を単純に全国の郵便局数で割ると一局あたり月187万5000円となり、1万円台の保険契約を一局で一日7人以上とらなければ達成することができない。そのため窓口は一年中ゆうちょの貯金集めをしながら、投資信託と保険を一緒に売ることを強いられた。


 そして郵便局では地区内の営業成績が一覧表で貼り出され、成績優秀者には「躍進会議」との名目で旅行や食事会参加などの特典を与え、成績が悪い局員は「恫喝研修」などへの参加が義務づけられる。そこでは「給料泥棒」「他所に飛ばすぞ」などの恫喝が1時間以上にわたって続けられ、プレッシャーに耐えかねて退職するか、良心を捨てて不正販売をするかの二択を迫られるものだったことが多数の内部告発によって明らかになっている。


 そこには局員を疲弊させて退職に追い込む(目標額が下がる)ことで局としての営業成績が上がること、組織全体としては民営化に向けたスリム化(人件費削減)するという政治的な事情も絡んでいるといえる。

 さらに日本郵政3社の上場直前の2015年には、日本郵便は全国に約1万5000人いる保険渉外員の基本給を12%下げ、歩合給(営業成績に応じた報酬)の割合を高めるなど徹底して成績主義を煽った。日本郵政は慢性的な不正を以前から把握しており、2018年度には22件の保険業法違反を確認して金融庁に届け出ている。それでも営業目標をゴリ押しし、年賀ハガキの社員買いとりと同じく、自腹営業やカラ契約も蔓延するなど現場では混乱に拍車がかかった。


 膨大な不正販売発覚後、NHK恫喝問題をめぐって鈴木上級副社長は「(取材を受けてくれれば動画を消すというやり方は)まるで暴力団と一緒だ!」と居直ってみせたが、18万件に及ぶ不正契約を蔓延させた土壌は、どちらが暴力団なのか問われなければならない。


 日本郵政の幹部は、日本郵政グループの長門社長(旧みずほコーポレート銀行出身)、ゆうちょ銀行の池田社長(横浜銀行出身・足利銀行元頭取)、かんぽ生命の植平社長(東京海上日動火災保険出身)、日本郵便の横山社長(三井住友銀行)と、全員が民間銀行や保険会社の幹部であり、「民業圧迫」といってゆうちょ銀行の貯金の運用を禁止して業務資金を枯渇させる一方で、民営化に向けた実績づくりのために現実離れした過大なノルマで社員を酷使する。民営化という政治目標のために「コンプライアンスを守れ」といいながら「数字を上げろ」という、まさに暴力団よりもたちの悪い経営がおこなわれてきた結果といえる。社員に対するノルマのかけ方からしてきわめて暴力的なのである。


 今回の不正契約問題について、グループ幹部や政府は、現場の責任やシステムの問題にし、あわよくば民営化に向けた日本郵便解体に転嫁しようとしていることも看過できない。この実態からも郵政3社の「完全民営化」の反社会性が明らかであるにもかかわらず、財務省は日本郵政株の追加売却をくり返し、運営権を外資に譲渡するとともに公的責任から切り離すことに躍起になってきた。


 「郵便局は安心」と信頼していたらたいへんな目に遭う――この変質をもたらしたものは、現場の意識など個個人の問題ではなく、公的な郵便業務を潰し、現場に過剰なノルマを強要し、これらの公共財を私企業の利益追求の具にしてきた民営化政策の帰結にほかならない。ゆうちょやかんぽの資金を郵便業務維持のために充当して支える体制に戻すとともに、公的業務と国有財産を私物化し、切り売りする反社会性を絶つことでしか解決の道はない。

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