臨時国会が4日に始まり、衆院代表質問が始まった。今国会では与党や改憲勢力が、これまで何度も頓挫してきた「改定国民投票法案」の成立を目指しており、その行方が大きな焦点になっている。現在、継続審議中の改定国民投票法案は自民党改憲案を発議し、改憲に突き進むための準備であり、現憲法から「戦争放棄」の国是を抜き去り、戦時対応を想定した「緊急事態条項」を盛り込む地ならしである。与野党はこうした改定国民投票法案の性質をうやむやにしたまま「CM規制導入」など枝葉の論議でお茶を濁し、法案成立に踏み切ろうとしている。
自民、公明両党の幹事長、国対委員長は臨時国会召集直前の2日、継続審議中の改定国民投票法案について、野党が主張する国民投票運動のCM規制について論議し早期成立を図る方針を確認した。それを受けて大島理森衆院議長が5日、青森県で開いた自身のパーティーで「議長として臨時国会で与野党ともに話しあい、合意を見つけてほしいのは国民投票法だ。議論はもう少しのところまで来ている。後は広告をどのように規制するかだ」と公言した。それは野党側が主張するインターネット広告などの規制を具体化して、できるだけ早く国民投票法案を成立させ、改憲案の発議へ向けた論議を本格化させていくという意味である。
こうしたなかで7日の衆院議運理事会は、大島衆院議長の発言をめぐって「議長としてののりをこえた」「スクラムを組めない」と野党が問題視し、発言の謝罪や修正を求める動きとなった。しかし追及の急先鋒となった立憲民主党も、前日のNHK番組で「われわれも憲法議論を拒否しているつもりはない。積極的にやればいい」(立憲民主・福山哲郎幹事長)との態度を示しており、基本姿勢は与党とほとんど変わらない。結局「与野党がもめている」という印象だけ植え付け、1時間半後に国会審議が始まった。こうしていかにも対立しているかのような格好をとりながら、最後は改定国民投票法案を成立させていく筋書きが顕在化している。
現在問題になっている改定国民投票法案は昨年6月に提出したもので、国会のたびに手続きを少しずつ進めてきた。18歳以上の選挙権を認めた2016年の改定公職選挙法を踏まえた改定で、具体的には駅や商業施設への「共通投票所」の設置や、水産高校実習生に洋上投票を認めることなどを盛り込んでいる。この国民投票法自体に改憲内容を規定する文面はない。だが国民投票法案を成立させなければ、その次の段階である改憲発議へ進むことができない。そのため安倍政府は執拗に改定国民投票法の成立を目指している。
すでに自民党は昨年3月、「改憲」をめぐって優先四項目の「条文イメージ」(たたき台素案)を決定している。四項目は、①安全保障にかかわる「自衛隊」(九条改定)、②統治機構の在り方に関する「緊急事態」(緊急事態条項導入)、③一票の格差と地域の民意反映が問われる「合区解消・地方公共団体」、④国家百年の計たる「教育の充実」である。
「九条改正」関連では「戦力不保持」と「交戦権の否認」など九条の条文は変更せず、現在の条文の後に「九条の二」をもうけ「前条の規定は、我が国の平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つために必要な自衛の措置をとることを妨げず、そのための実力組織として、法律の定めるところにより、内閣の首長たる内閣総理大臣を最高の指揮監督者とする自衛隊を保持する」と追加している。それは「戦争放棄」や「戦力の不保持」の規定を「自衛の措置」を掲げてかき消す内容である。
そして「自衛の措置」発動の引き金になるのが「緊急事態条項」である。これについて自民党は巨大地震や津波の対処と連動させ「憲法に“緊急事態対応”の規定を設けることにより、“国民の生命と財産の保護”の観点から、①緊急事態においても国会の機能を可能な限り維持すること、②国会の機能が確保できない場合に行政権限を一時的に強化し迅速に対処する仕組みを設けることが適当」とした。そして「選挙実施が困難な場合における国会議員の任期延長」「緊急政令の制定規定」をもうけることを「立憲主義にもかなう」と記述した。それは大日本帝国憲法で規定した「国家緊急権」の復活に等しい内容である。
こうした緊急事態条項の導入を軸にして「合区解消・地方公共団体」の項で民意が反映しにくい広域自治体や道州制を促進する姿勢を示し、「教育の充実」で国が学問分野への統制を強める方向を示している。
この改憲素案は両院それぞれの本会議で総議員(欠席議員をふくむ)の3分の2以上の賛成を得ると国民投票にかける改憲案になる。そして国民投票で、賛成投票の数が投票総数(賛成投票数と反対投票数の合計数)の2分の1をこえると「改憲承認」となる仕組みである。
審議の大詰めを迎えた国民投票法案はこうした「改憲」に通じており、その行方は、日本の将来を左右する重要な意味あいを持っている。