いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

文字サイズ
文字を通常サイズにする文字を大きいサイズにする

『消費税が国を滅ぼす』 著・富岡幸雄

 

 著者は先の大戦で学徒出陣を体験し、敗戦後は税務署勤務のかたわら中央大学法学部の夜間部に通って税理士資格を得、その後国税庁から中央大学教授に転身した。著者は、税制の大原則は「公平・中立・簡素」と「応能負担原理(負担能力に応じて納税する)」であり、税制は本来、経済格差を是正するための所得の再分配という重要な機能を持っているとのべている。そして、これに反する最たるものが消費税であり、日本経済に破局をもたらすこの消費税依存から一刻も早く脱却して、空洞化している大企業や富裕層への課税の欠陥を改め、国民生活を重視する財政構造に転換することを本書で訴えている。

 

 人間は生きるため、常にモノやサービスを消費するが、消費税はこれに一律に課税される。つまり消費税とは人間の生存それ自体を課税の対象とし、問答無用でとり立てる。しかも消費税は、低所得層への苛酷な負担増である一方、高所得層に対しては相対的な減税になる、逆進性という本質的な欠陥を持っている。安倍政府の軽減税率は、制度を複雑化させ事業者に大きな負担を強いるとともに、それ自体が近い将来の税率引き上げを視野に入れたものである。

 

 また、消費税率の引き上げと法人税率の引き下げはセットになっている。それは、1989年から31年間で消費税収の累計は397兆円(国民1人当り300万円以上)だが、この金がこの間の法人税減収の穴埋めに消えてしまったことからもわかる。

 

 この法人税と法人住民税、法人事業税をあわせた法人三税の「法定総合税率」は、安倍政府になってから、2014年度の34・62%が2018年度には29・74%まで下がった。メディアはこれを法人税の「実効税率」と呼び国民を欺いているが、しかしそれは法律で決められた税率にすぎず、実際に企業が納付した法人税の負担率(「実効税負担率」)は17・46%で、これは法定税率の6割弱に過ぎない、と著者が暴露している。しかも、巨大グローバル企業ほど負担率は低く、中堅企業や中小企業は法定税率に近い税負担を課されているという。

 

 大企業のなかには、新日鐵住金=1・46%、みずほフィナンシャルグループ=0・878%、ソフトバンクグループ=0・003%(納税額500万円)という実効税負担率(いずれも2018年3月期)の企業もあり、その分を国民が消費税で穴埋めしているのだから黙っておれない。

 

 なぜそんなことが可能なのか?

 

 第一には、政府が法人税の租税特別措置という政策減税をおこなっているからだ。それは大企業が研究開発投資をすると減税するなど、法人税関係だけで80をこえる項目がある。とくに安倍政府になってこれが肥大化し、年間で2兆6745億円(14年度)が減税されている。

 

 第二に、「受取配当金等の益金不算入制度」があるからだ。現在の法人税制では、株式を100%保有する完全子会社や、持ち株比率が3分の1をこえる関係会社からの株式配当金は、その全額を益金に加えなくてよい(課税対象にならない)ことになっている。株式投資の配当だけを優遇する措置である。同様に、海外進出し現地生産をおこなっている子会社から親会社への配当金は、95%が課税されない。

 

 第三に、グローバル企業がタックス・ヘイブンなどを使って、国境をこえた課税のがれをやっているからだ。

 

 そのほかにも「恒久的施設なければ課税なし」という国際ルールがあるため、外資系企業が日本国内で事業をおこなっても恒久施設がなければ、その事業所得は日本で課税されることはない。

 

 こうして大企業は、グローバル化・デジタル化に対応できていないその国の税制や租税条約の抜け穴を利用して、合法的に税負担を限りなく軽くする戦略をとっている。彼らはその国や地域社会のインフラや公共サービスの恩恵に預かるだけで、それを支えるための負担は国民に押しつけてはばからない。著者は、法人税を法定税率どおり払わせるだけで9兆円の財源ができ、消費税を5%に引き下げることは十分可能だとのべている。

 

 戦後の歴史を見ると、消費税ほど国民の憤激を巻き起こし、大運動に発展した税制改革はない。政府は1948年、税率1%の取引高税の導入を発表したが、怒った大勢の国民が税務署へ抗議に押しかけて大騒ぎとなり、わずか14カ月で緊急中止となった。続いて大平内閣が1979年、一般消費税を提案したが、直後の総選挙で自民党は過半数割れし、撤回に追い込まれた。中曽根内閣が1986年、税率5%の売上税を提案すると、国民の怒りに火がついて一度も審議されないまま廃案となった。

 

 消費税導入を1988年に強行採決した後は、5%に引き上げたのが社会党の村山首相で、8~10%引き上げへ道筋をつけたのが民主党・野田首相だった。こうして野党が解体し、国民が既成政党にそっぽを向いたもとで、安倍自民党が有権者のわずか2割前後の支持で10%を強行しようとしている。全国津津浦浦の怒りを一つに束ねることができれば、消費税を葬るのは可能だということを示している。

 

 (文春新書、271ページ、定価900円+税

関連する記事

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。なお、コメントは承認制です。