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下関市議会がなんなく定款変更議案を可決 市立大学の縁故採用やりたい放題に加担

 下関市議会9月定例会の最終本会議が26日にあり、提出議案の採決がおこなわれた。今議会では市立大学をめぐり、前田市長が推薦する琉球大学のH教授以下3人の採用ありきで専攻科設置を強行しようとしている問題が最大の論戦となり、これを実現するために市立大学の定款を変更する議案の可否が注目されていた。しかし、「市長の私物化ではないか」という疑惑は晴れないまま、疑義を呈していた自民党会派・志誠会も賛成に回り、定款変更議案は可決された。本紙記者の本池涼子市議は採決に当たり反対討論をおこなった。

 

反対討論を聞く前田市長(左)

 

 この議案は、理事会を新たに設置するとともに、教育研究審議会や経営審議会の役割として明記されている「大学、学部、学科その他の重要な組織の設置又は廃止に関する事項」などを審議事項から削除し、重要事項をすべて理事会で決定する体制にすることを盛り込んでいる。また、副学長を新たにもうけるほか、教員など14人で組織する教育研究審議会の委員を11人に削減し、委員も学長が指名するよう変更するなど、理事会の好きなように大学運営ができる仕組みづくりをしようとするものである。

 

 新専攻科設置に教員の9割が反対するなかで、定款を変更してでも強行する姿勢に、4人が反対の立場から一般質問をおこなうなど、議会内でも疑問視する声があいついできた。

 

 片山房一市議(共産)は、5月30日に前田市長が市立大学の経営理事、管理職教員に対して琉球大学のH教授を推薦し、1カ月もたたない6月28日に専攻科担当として3人に採用内定が通知されていることを指摘し、「今までの教員採用のルールを無視したやり方で教員3人を採用していることから混乱が生じている」などの理由から、市立大学に対する専攻科設置の指示の撤回を求めた。

 

 自民党・志誠会の関谷博市議は、H研究財団設立時からの理事であったO氏(今年4月1日付で辞任)が、市立大学の経営審議会委員に就任した後の6月4日にIN―Childの商標登録申請をおこなっていることを指摘した。インクルーシブ教育は教育である一方、IN―Childは個人が商標登録を申請しているサービスであることを強調し、一連の経過から見て、市立大学への導入は公平公正の観点から問題があることを指摘した。

 

 また無所属の田辺よし子市議も、日本経済新聞出版社の『価値ある大学 就職力ランキング』において、下関市立大学がさまざまな項目で高く評価されていることをあげ、これまでの大学教員などの努力に反する形で進む新専攻科設置には無理があることを指摘し撤回を求めた。

 

 これらの質疑応答のなかで、前田市長がH教授を推薦して以後、異様なスピードで新専攻科の設置と3人の採用が決定した経緯とともに、インクルーシブ教育の一手法であるIN―Child導入の背景にある不透明さが浮き彫りになった。

 

 採決にあたっては本池涼子、田辺よし子(ともに無所属)、桧垣徳雄(共産)の計三市議が反対討論に立つ一方で、HAN研究財団の評議員である亀田博市議が賛成討論をおこなうという異例の展開となった。

 

 定款変更が可決されたことを受け、市・市立大学執行部は今後、新専攻科の設置と3人の採用を強行するとみられるが、「市長案件で教員採用がおこなわれた大学」として、下関市民をはじめ全国から疑惑の目が向けられることは必至だ。また、H研究財団の理事として大手製薬会社の副社長が名前を連ね(今年6月19日付けで辞任)ていたことも話題となっており、今後、この財団や製薬会社を通じて何が始まるのか注目されている。

 

 

◇ 本池涼子市議の反対討論

 

 議案第202号「公立大学法人下関市立大学定款の変更について」に、反対の立場から討論をおこなう。

 

 この間の一般質問でも定款変更の問題点について幾人もの方が指摘されてきた。定款の変更内容は大きく四つあり、理事会の設置、副学長の新設と理事の枠の拡大、理事会と経営審議会・教育研究審議会の役割分担、教育研究審議会の委員数の見直しとなっている。

 

 少子高齢化のなかで今後激化する大学間競争にうち勝つためには必要だといわれているが、それはたてまえであり、要するに、現場の意見を聞くことなしに大学運営の根幹にかかわる重要な事項、たとえば今回のような教員の採用であったり、学部、学科の設置であったりだが、これらを理事会ですべて決めていけるようにする定款変更議案にほかならないと私は考える。

 

 なぜ、このような定款変更議案がこのタイミングで出てきたのか、下関市議会議員としてこの議場におられるみなさんには是非考えていただきたい。そして、既存の定款からどの部分が削除され、あるいは追加され、そのことによって何が可能になっていくのか、何が不可能になっていくのかを精査する必要があると思う。

 

 一言でいえば、市長の任命する理事長やその理事長の任命する理事によって構成された理事会の意向で、大学を好きなように運営できる仕組みに変えるものだ。

 

 それこそ今議会で何人もの議員の皆さんが一般質問でとりあげ、現在の市立大学の定款から見て明らかに進め方がおかしいと指摘した根幹部分、教育研究審議会すなわち現場の教員の意向や判断をまったく抜き去ったまま、専攻科設置や教員採用を可能にするための定款変更であり、これは「大学改革」の名を借りた大学の変質を促進するものであるといわなければならない。スピーディーな「大学改革」ではなく、スピーディーな変質をこの下関市議会がスピーディーに承認してよいのか? 熟考が必要であると考える。なんでも「改革」といえばよいとか、早ければよいというものではない。むしろ、なぜそんなに大慌てで急いでいるのか? それこそ専攻科設置をなにがなんでも押し通したいという意図が貫かれているようにしか見えない。定款に触れるなら、定款を変えてしまえばよいというやり方であり、なぜ定款に触れないように正規の手続きに基づいて進めないのか。あまりにも力業がすぎるように思う。

 

 今議会では、こうした大学のガバナンス上異常ともいわれる事態が起きている点で全国的にも大変注目されている。下関市立大学は、市長が見初めた人物を雇う大学であり、その教員採用の判断基準は現場の教員たちの意見は反映されず、市長が気に入るか気に入らないかが判断基準で良いのだという。そのように全国にも他に例がない異常な大学として世間から認識されるのだろうか。各新聞でもおおいにとりあげられ、この定款変更議案について議会がどのように判断するのか、市民の皆様もたいへん注目されておられる。全国の大学関係者の注目度も高いようだ。「首相お膝元の大学はさすが、やることが違うな」と、「市長案件」で教員採用まで決まるのだと、別の意味で記録や記憶に残すというのだろうか。

 

 この場におられる議員のみなさんには、是非とも懸命な御判断をお願いする。結果如何によっては「さすが首相お膝元の下関・下関市議会はやることが違うな」の意味合いも別のものに変わるように思う。

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