著者は弁護士で元農水大臣。現在TTPや種子法廃止の問題点についての講演や勉強会をおこなっている。
安倍政府は、日本人の主食であるコメ、麦、大豆の安心、安全の確保や安定供給を国に義務づけていた種子法を、昨年4月をもって廃止した。それと同時に政府は、種子法が民間の優良品種の普及を妨げているといって、F1品種(大量生産・大量消費にはうってつけだが一代限りの種子)である三井化学の「みつひかり」や日本モンサントの「とねのめぐみ」などを全国に推奨して回っている。
それが将来どうなっていくかは、野菜の種子を考えればわかりやすい。かつて野菜の種子も今のコメや小麦、大豆と同様、すべて伝統的な固定種(地域ごとの土壌や気候に適応させながら長年月かけて品質を受け継がせるなかで固定化させた品種)で、ほぼ100%国産だった。ところが今では、野菜の種子はほとんどがF1種になって農家は毎年企業から買わなければならず、しかもその大半は海外の多国籍企業が生産している。種の値段も高騰し、イチゴはかつて1粒2円だったのが、今では40~50円になっている。また、政府は種子法廃止と同時に、農業競争力強化支援法を決定した。それは現在286あるコメの品種を絞り込み、最終的にはみつひかりやとねのめぐみなど数種類に集約すること、これまで都道府県の農業試験場が蓄積してきた種子の知見を外資を含む民間企業に提供することを盛り込んでいる。
さらに政府は、次の国会で種苗法を改定し、自家採種の原則禁止、つまり自分の畑や田んぼで採れた種を翌年に使うことを禁止する。すると農家は毎年企業から種を買い続けなければならなくなり、私たちが毎日食べる食物の味も安全も値段も企業に握られることになる。しかもこの種苗法に違反すれば10年以下の懲役と1000万円以下の罰金が科され、共謀罪の対象にもなるという。
以上の問題についてアメリカは長年にわたり、日本の主要農作物の種子が公共のものとして保護され、民間に開放されていないと非難し続けてきた。著者は、その背後にいるのが世界の種子生産の70%を独占するモンサントなどの多国籍アグリ企業だと指摘する。
これまでもアメリカは、北米自由貿易協定に加盟しているメキシコに対して、種子の一部を保存して次の年の栽培に備える伝統的な自家採種を犯罪行為として原則禁止にし、政府指定の多国籍アグリ企業の種子を毎年購入することを義務づける法律(批判を込めて「モンサント法」と呼ばれる)を成立させようとし、その後この「モンサント法」をラテンアメリカ全域に、さらにアフリカ諸国に広げようとして、強烈な拒絶反応に直面してきた。そして今、最後の未開拓市場の日本に殴り込みをかけようとしている。
つまり「モンサント法」を完全な形で機能させ、日本の農家を、農薬や化学肥料とセットでモンサントの高価格の種子を買わざるを得ない状況に追い込むために、種子法廃止、農業競争力強化支援法、種苗法の改定という三つの法律が必要なのであり、種苗法改定はその総仕上げである。
あわせて著者は、2017年12月に厚労省が突然、グリホサート(除草剤ラウンドアップの主成分)の残留基準を最大400倍に緩和したこと、食品表示も23年から変更になり、「遺伝子組み換えでない」という表示ができなくなることも指摘している。また住友化学(モンサントと業務提携)のつくばSD1号というコメの種子を生産する農家が、台風やゲリラ豪雨で予定通りの収量を出荷できず、出荷先のセブン・イレブンに損害を与えた場合、損害賠償金はその農家が負担しなければならないという契約書を結ばされていたことも暴露している。何事も外資企業に至れり尽くせりなのだ。
世界中と逆行する日本 押しつけられるラウンドアップ
だが、世界の農業を席巻してきたモンサントも、今、落日を迎えている。そのことを著者は後半で詳しく展開している。
それまでの流れを一変させる出来事が、昨年8月10日に起こった。末期の悪性リンパ腫と診断されたカリフォルニア州の男性が、原因は除草剤ラウンドアップにあるとしてモンサントを訴えた裁判で、サンフランシスコの陪審がモンサントに損害賠償金2億8920万㌦(320億円)の支払いを命じる評決を全会一致で下したことだ。内部告発によるものと見られるが、モンサントががんを引き起こす可能性があることを知りながら十数年にわたって隠してきたこと、水面下で政治家への献金や政府高官・科学者への賄賂を仕掛けていたことなどが暴露された。
このニュースは世界を駆け巡り、アメリカやEU諸国や南米、中東の諸国など世界中でラウンドアップの即時販売禁止や使用制限の動きが一気に広がった。同様の訴訟は今年5月に1万3000件をこえている。ラウンドアップが使用されなくなれば、ラウンドアップへの耐性を持った遺伝子組み換え作物も栽培できなくなる。関係者は「アメリカとEUでは、モンサントは終わりました」とのべた。モンサントの業績は悪化の一途をたどり、株価は五割も下落した。
世界の流れはこの2、3年で変わり、アメリカでは遺伝子組み換え作物の作付けが減少して、有機栽培が年に10%の割合で、EUでは年に7%の割合で増えている。ロシアでも法律で遺伝子組み換えの農産物は輸入も生産も禁止し、中国でも有機農業が成長している。お隣の韓国・清州市では、合計180の小中高校に通う約11万人の児童や生徒全員に、有機農法で育てた地元の食材でつくった給食を、毎日無償で提供している。
こうした世界の流れに逆行して、日本では、モンサント敗訴のニュースをメディアが黙殺し、ラウンドアップが普通に売られ、政府がモンサントを歓迎して自国農業の壊滅に手を貸している。こんな国は他にない。国民の食の安全も食料自給も売り飛ばして恥じない売国政府に対して、子どもや孫たちの未来のためになにができるかを考えさせる一冊だ。
(角川新書、236ページ、定価860円+税)
売り渡される食の安全
…だからしょうがないと諦めるのではなく、抵抗することです。健康を維持するために。
例えば、いつも利用しているスーパーにオーガニック野菜、減農薬、食品添加物の少ない食材
遺伝子組み換え種子を使っていない豆腐や、納豆、国産品を増やすなどの食品を増やすように
リクエストしています。多くの消費者が健康な食品を選ぶようになれば需要供給ですから
安価で仕入れることもできるはずです。大切な食に無関心ではいけません。
二人に一人が癌に罹ると喧伝される時代です。消費者が賢明になり政治家を動かすことで
「健康で文化的な生活」をおくることができるのです。
沈黙=認めるということです。手遅れにならない内に抗いましょうよ!みんなで!