豊北市場が崩壊の危機に陥っていることが、下関市内をはじめ、豊浦地域の市場関係者や仲買、漁業者、漁協関係者のなかで大きな関心事になっている。手数料倍増通知に激怒した角島漁民の出荷全面停止について、豊浦地域の漁民のなかでは、「安く買いたたいてきたから天罰が下ったんだ!」と思いを共有する人人も多い。年間8億~10億円規模の水揚げが転がりこんでくる唐戸市場も歓迎する。一方、特牛市場に参画してきた地元仲買は会社倒産になりかねないと危機感を強めている。殴りかかったはずの県漁協側は焦っている。
下関市内の漁協関係者の1人は「豊浦統括支店の“自爆テロ”じゃないか……。経営がパンクするぞ」といって言葉を失った。「話し合いもせずに一方的に通知を送りつけたという話だが、なぜ誠意をもって対等につき合わなかったのだろうか。支店の責任者が思慮が浅くてバカだっただけではすまない。市場の利益が崩れたらアウトでしょう」と深刻な表情を見せた。「赤字が出た場合、さらに組合員を泣かせることになる。そのことの方が心配」と語った。
豊北町内の関係者の1人は、「統括支店の責任者が平謝りで白紙に戻すと主張しているようだが、もともと刀を抜いたのは統括支店側。角島としても安く買いたたかれて手数料も並なら、よそに出荷したいのが当然だろう。市場の体質にも問題があって、なるべくしてなった事態だと思う。赤字体質をどうにかしたいという統括支店の気持ちもわかるのだが、自分本位で物事は動かない」と語った。
豊浦町の漁業者男性は「これは天罰だ!」と仲買にたいして思いをぶつける。年末時期にヤズを10本競りに出したとき、300円にしかならなかった悔しさが忘れられない。「特牛は仲買の買いたたきがひどかった。あまり酷いことをやっていると、我が身に跳ね返ってくるんだ」といった。
地元漁師たちのなかでは市場運営、競りの不透明な部分についての不信が、以前から根強かった。同じ魚でも3分の1以下で買いたたかれたといった話はザラで、体質を正すべきだという要求がうっ積していた。豊北市場は産地市場で、ここで競られた魚は消費市場の唐戸市場や瀬戸内海側の市場に飛ばされたり、さらに値を付けて取引される。仲買があまり安価に仕入れすぎると漁業者との摩擦が生じ、結果的に市場が敬遠されることになる。地元漁師のなかには、離れた消費市場まで個人出荷する人人も多い。近年の魚価安では1銭1厘でも高く買ってもらいたいからだ。
今回の市場危機は、統括支店みずから墓穴を掘った格好になっている。しかし市場機能や体質、統括支店の経営難、年年ひどくなる魚価安など、背景は奥深い。角島の実力行使についてみても、ボランティアで漁業をやっているわけではないのだ。豊浦・豊北地域の流通や産業基盤がどうなっていくのか、関係者は心配しながら推移を見つめている。