いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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映画『新聞記者』 監督・藤井道人

 映画『新聞記者』が話題となっている。参議院選挙の最中に上映されたことも重なって首都圏の映画館では連日満席が続いているという。日本でここ2、3年、立て続けに起こってきたモリカケ問題や公文書改ざんといった政治事件を盛り込んだ映画であることが注目される理由だ。政治に嘘がはびこり、政治不信やマスコミ不信がかつてなく渦巻くなかで、社会的な問題意識を持って制作された映画であり、日本社会のあり方について考える機会を提供している。

 

 若手記者・吉岡エリカ(シム・ウンギョン)が勤める東都新聞社に、ある日、「医療系大学の新設」に関する極秘文書がファックスで届く。「首相肝いりの案件」ということらしいが、誰が何のために送ってきたのかはわからない。許認可先の内閣府の関係者を調べ始めた吉岡は、神崎というキーパーソンの存在に気づくが、連絡をとろうとしていた矢先に彼は投身自殺を遂げる。

 

 一方、内閣情報調査室(内調)に勤める杉原拓海(松坂桃李)は、外務省から出向したエリート官僚だ。内調での主な仕事は、反政権的なメディアに対する批判・揶揄をツイッターに投稿したり、反政権的な個人をこじつけてスキャンダルをでっち上げたりして信用を失墜させるなど、現政権に不都合なニュースの情報操作に従事することだ。杉原はそれに矛盾を感じながらも、上からの指示を遂行する。国会前デモに集まる群衆について「参加者たちは犯罪者予備軍だから、彼らの身元をあらえ」と指示されたり、「現政権を安定させることが我々官僚の仕事だ。それが国の安定につながるのだ」「この国の民主主義は形だけでいいんだ」といい聞かされながら--。だが外務省時代の尊敬する上司・神崎の死に直面し、自分の生き方に苦悩しはじめる。

 

 神崎がかかわっていた大学新設計画の裏に潜む闇を追及しようと孤軍奮闘する吉岡。そして神崎の死から真実を知るために動き出す杉原はやがて必然的に出会う。

 

 国がひた隠しにしながら実行しようとする大学新設計画の真相が明らかになるなかで、杉原は自分は誰のために生きるのか、自分は一体何を守っているのかと激しく葛藤する。そして産まれたばかりの我が子を胸に抱いたとき、ある決意をする。映画で描かれる杉原の心情的葛藤は、森友学園問題をめぐって自殺した近畿財務局職員や、加計学園をめぐり「官邸の圧力」を暴露した前川喜平氏などとも重なって見える。

 

メディア内部の重苦しさ

 

 一方、政権の闇に迫ろうとする記者の吉岡は孤軍奮闘する。デスクからの「上から言われた。それ以上調べるな」という指示や同僚の冷めた目線は、マスコミ業界全体に覆う重苦しい空気を反映したものであろう。そのマスコミの姿はジャーナリストとしての矜持を投げ捨て、政府の広報機関になり下がったメディア各社が、権力者にいかに情報を与えてもらうかを競い、飼い慣らされている今日の日本の報道のあり方とあまりにも重なる。映画は新設大学が生物兵器の製造が可能である事実を新聞が大大的に報じ、他紙も後追い報道する。そんななか、一方の杉原は上司から「外務省への異動」を持ちかけられる。

 

 新聞は、官僚はどうするのか。ラストは一種の諦めと敗北感を漂わせて終わる。この部分については映画を見た人たちの賛否が分かれる場面でもあるようだ。記者が情熱に燃えて個人で真実を追及し、若き官僚が良心の呵責にさいなまれながら権力の呪縛から抜け出そうとする。けれども、最後は真実が権力によって黙殺されてしまうという無力感が拭えないのは、映画が抱えている問題というより、現実問題をリアルに反映したものだろう。

 

 海外では『ペンタゴンペーパーズ 最高機密文書』『記者たち~衝撃と畏怖の真実』『バイス』『華氏119』など、現在進行形の政治をテーマにした社会派映画やドキュメンタリーが制作されてきた。日本ではこのようなテーマの作品は近年見られないなかで、現在の腐りきった政治やマスコミに対する映画制作者たちの批判的メッセージがこめられている。

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この記事へのコメント

  1. 京都のジロー says:

    参院選後に鑑賞しました。映画館で観るのは20年ぶりくらいです。
    どれだけの日本人がこの映画の主人公の様な真摯な行動をとれるでしょう?
    「今だけ、金だけ、自分だけ」が当然の様に蔓延した社会。
    「正義」を貫くより損得で忖度するのではないでしょうか?
    私は主人公のように怒りや悲しみをエネルギーにする勇気、強さはありません。
    せめて、こんな社会を変えようと一人で立ってくれた「山本太郎」を
    全力で応援しようと思います。一人で何かできなくてもホンモノの人間が
    立ち上がった時により多くの民衆が応援することで社会を変えていけると信じてます。

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