いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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TPP 関税も防疫も米国が具体化 日本は一切口を挟めず

 安倍政府が米国の要求を丸呑みした4月の日米合意発表以後、マスメディアはTPP(環太平洋経済連携協定)をめぐる報道をほとんど封じこめている。米国議会での90日間の審議が過ぎれば7月には日本のTPP参加が決まるので、年内の最終合意を急ぐアメリカの意を受けて、それまでは黙っておき国民の強いTPP反対世論をやりすごそうというのである。しかしその間にもTPP参加11カ国による会合が持たれ、各分野の交渉が合意に達している。日本は7月に正式参加したとしても、同月にマレーシアでおこなわれる次回会合には最終の2日しか参加できず、すでに29章900ページにおよぶという素案や協議文書をそれまでに見ることすらできない。また、その後も決まったことには一言も訂正や追加ができず、撤退も認められていない。安倍政府の提灯持ちになったマスメディアに対して、TPPからの即時脱退を要求する知識人のなかから、その後の交渉経過を国民に知らせる発言が続いている。それをもとに現在の局面と政府・マスメディアが秘密裡に進める姑息で大がかりな売国的な動向を暴露し、全国的に高まる各界各層のTPP脱退を求める運動を一段と発展させることが求められる。
 
 意図的に真実隠すメディア

 「例外なき関税の撤廃」をめざすTPPについて安倍政府は、コメや麦、乳製品、牛肉・豚肉、砂糖の「重要五品目」を関税撤廃の例外にするよう要求するといってきた。しかしすでに関税の問題で、日本に発言の余地はないことが明らかになっている。
 3月のシンガポールでのTPP参加国の会合を終えて、米通商代表部(USTR)が新聞発表をおこなった。それによると、「関税、通信、規制の統一、開発を含むいくつかの交渉グループ」では、基本的な合意がなされ、今後の会合では再度集まっての論議はおこなわれず、「残った課題はファイナルとなる大筋合意の場(10月)でとりあげられることになる」としている。大筋合意の前には7月と9月の会合しか予定されていないが、そこでは議論そのものがされず、日本は10月の会合で署名させられるだけになると予想されている。
 今年、アメリカがメキシコとカナダの参加を認めたときも、「すでに合意されたTPPの内容については変更を求めることはできないし、今後、決められる協定の内容についても、現九カ国が合意すれば、口は挟ませない」という屈辱的な念書を認めさせられている。つまり日本がどの段階で交渉に参加しても、法外な「入場料」を払わされるだけで、できあがった協定に唯唯諾諾と従うしかないと見るのが常識だ。
 またこの会合では、TPPの漁業分野で、「海洋資源保全」という理由で加盟国政府の漁業補助金を禁止することを、チリ以外のすべての参加国が合意した。政府の漁業補助金が禁止になると、日本では東北被災地で津波被害を受けた漁船や港湾施設の整備への補助金がその対象になるのをはじめ、漁船建造費に対する国の補助事業や、全国の老朽化した港湾施設の補修・更新への支援などもできなくなる。
 アメリカはこれまで、世界貿易機関(WTO)ドーハ・ラウンドで漁業補助金の一律廃止を国際ルールにすべきだと主張してきた。それは他国の漁獲量増大を抑え、米国漁業の既得権を守るためである。しかしWTOでは、日本、韓国、EU(欧州連合)などが漁業補助金の一律廃止に反対し、米国提案は実現していない。米国は自国の主張が通りやすいTPPで、WTOに先行して一律廃止のルール化をめざそうとしており、世界各国の批判が高まっている。

 有害食品の輸入も強要 SPSルールの徹底

 5月にはペルーでTPP参加国の会合がおこなわれ、「食品の安全確保」「動植物の検疫措置」など六分野で「重要な進展」があったとされる。
 一国の政府は、自国の域内に人や動植物の健康や環境に有害な食品や動植物が侵入することを防ぐ権利をもっている。ところがWTOは、食品添加物や残留農薬、BSE牛、遺伝子組み換え食品などの輸入について、「それが有害であるとする十分な科学的根拠がないかぎり、(実際に有害な食品であっても)輸入しなければならない」というルールを決めた。これがSPSである。日本では製造が禁止されている遺伝子組み換え食品や、成長ホルモンを用いた米国牛が、国内で流通しているのも、このルールがあるためだ。
 そして、「毒だとわかるまでは食べろ」というこのSPSルールをさらに徹底するのがTPPである。なぜなら、「安全だという証明がされてはじめてその食品を輸入する」という考え方では、「安全性」にかこつけて輸入を拒むことができ、「自由貿易を阻害する」からだというのである。国民の生命や健康、国や地域の環境保護よりも、グローバル資本の自由貿易を優先するというのがTPPである。
 米国の2013年度版SPS報告書でも、日本政府がポストハーベスト(収穫後)に使用する防カビ剤を「食品添加物」と「農薬」の両方でリスク評価していることに対し、手間が二重にかかり新製品の認可を妨げていると批判している。また、米国でのBSE発生後日本政府が続けている、米国産牛を原料とするゼラチンやコラーゲンの禁輸解除を要求している。
 食品添加物についても、「米国や世界で広く使われている添加物が日本では認められていない」と規制緩和を要求している。
 米国は、長年の懸案であったこれらの課題を、TPP交渉をきっかけに一気に片を付けようと、先の「日米合意」で確認したようにTPP交渉と並行した二国間協議の場に日本を引き出そうとしている。

 ルール作るのは米議会 先取りする安倍政府

 「TPPのルールづくりに関与する」という安倍の発言が口からの出まかせであることは、米議会の「2002年超党派貿易促進権限法」を見ても明らかだ。
 米国では、TPPをはじめとする通商協定は議会の専権事項であり、大統領は協定の締結権限を持っていない。ただ議会の授権を受けてそれを実行するだけだ。つまりTPPのルールをつくるのは米議会である。この文書は2002年から2007年6月までの期間、米議会が大統領オバマに突きつけた条件であり、TPP交渉で実現する最低限のことが列挙されている。そこには次のようなものがある。
 ・米国の輸出品に対する市場機会を減少させ、または米国の貿易を歪曲するような、外国政府の関税・非関税障壁や政策、慣行などを撤廃させること。農産物の著しく高い関税を削減・撤廃させ、米国の関税と同等またはそれ以下の水準に引き下げること。不当に農産物市場を保護する補助金を削減・撤廃させること。
 ・遺伝子組み換え作物の表示義務の解除。「科学的な根拠にもとづかない」不当な一般衛生上または植物衛生上の制限の撤廃。BSE牛に関する輸入制限は「偽装の貿易障壁」「米国の輸出品に対する恣意的で不当な差別」であり、認められない非関税障壁である。
 ・日本では解雇を制限する法理が判例で認められており、企業が自由に労働者を解雇することができないが、これも米国資本にとって「偽装の貿易障壁」に該当する慣行となる。
 ・こうした分野の規制に関して、影響を受ける当事者(米国企業)が規則の制定に参加する機会を増やす。
 ・日本の薬価規制の緩和(米国製薬企業の求める法外な価格で薬を売りつける)。
 オバマ大統領は今、この権限法の失効を受けてTPP交渉にあたってはなんの権限も持っていない。また、この法律が失効したのは議会がこうした内容ですら不満であったからで、米議会が日本に対してこれ以上の要求を突きつけようとしていることは明らかである。
 安倍政府はこれに対して国益を守るどころか、産業競争力会議に「解雇規制の緩和」「農地の集約と企業参入」「混合診療の拡大と薬のネット販売」などを検討させ、学校での英語による授業の拡大や、大学入試や卒業認定での英語検定の活用をうち出すなど、アメリカの要求をみずから先取りして実行している。

 外資が大収奪する正体 憲法も踏みにじり

 「TPPを考える国民会議」の弁護士は、TPPのなかのISD条項(外国企業が事業を展開する国で不利益を被った場合、その国の政府を相手取って損害賠償を請求することができる)に関連して、次のようにのべている。
 最近、敦賀原発2号機の直下の断層が原子力規制委員会によって活断層と断定され、廃炉の可能性が大きくなった。これに対して日本原電の浜田社長は、もし廃炉になったら、震災以降国の指示に従っておこなってきた安全対策の費用を国に請求することも検討するとのべた。
 この場合、政府が原発を廃炉にしても、国民にとって致命的で取り返しのつかない事故を回避するためであるから、「公共の福祉による財産権の規制」(憲法第29条)として当然、適法な措置となる。ところが仮に、日本原電を外国人投資家に置き換えると、このケースはISD条項による提訴が可能であり、勝訴も確実なものだという。
 なぜなら、経済的影響が甚大であり、かつ明白で合理的な投資期待利益を著しく侵害しているので、「間接収用」に当たるからである(TPPで採用されるアメリカ判例法理による概念で、日本の憲法や法理念にはない)。「国民にとって重大な危険性を避けるためにやむなくなされるもの」であることは、「間接収用」を否定する理由にはならない。そして外国人投資家は、原発が稼働可能な年までの間に上げられたであろう利益に相当する金額を、日本政府に支払わせることができる。日本の憲法を踏みにじろうとするのは、外国人投資家である。
 ISD条項に関連して韓国の例が挙げられている。韓国では、ソウル市条例で大型スーパーは第二・第四日曜日が義務休業日とされている。しかしその日にも、米国資本の大型店コストコが堂堂と営業を続けている。仮に韓国政府やソウル市が強制的に休業させれば、米韓FTAで米国人投資家に対して認めた、アメリカの法理・慣行が求める「公正・衡平待遇義務」に違反することになり、莫大な損害賠償を支払わなければならない。こうしてコストコの一人勝ちのなかで、市民生活は疲弊せざるをえない。
 TPPが、相手国の憲法の上に立ち、その国が独自に築いてきた法律や行政手続きなどすべての規制を撤廃させ、つまり国家主権を放棄させて、アメリカのグローバル資本が日本とアジアの富を収奪するためのものであることがますます明らかになっている。安倍政府は、主権者である国民がなんといおうと、国の運命がどうなろうと知ったことではなく、日本の平和と独立と国民の繁栄を売り渡して、彼らだけが利益を得ようとする売国的な態度をとっている。
 アベノミクスによる円安・株高が、トヨタなど一握りの輸出大企業と外国人投資家を肥え太らせる一方で、勤労人民には物価高と生活苦のみが押しつけられることに、みな我慢ならない思いを抱えており、漁民は「食料生産を担う漁業を守れ!」と集会を開き行動を起こしている。それに加えてTPPは国民のすべての階層に犠牲をかぶせ、国を売り飛ばすものであり、知識人をはじめ農漁民、医療従事者、労働者、中小商工業者、また被爆者や戦争体験者のなかで、日本の独立と平和、農漁業や製造業の生産振興を求め、国の将来に責任を持つ現状変革の意欲は充満している。
 7月の日本のTPP参加を即時脱退させることができるのは、共通の敵に対する全国民の大衆運動の力であり、こうした国民各層のさまざまな運動を一つに合流させることである。

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