いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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「あこがれの宇宙」の軍拡競争 京都・宇宙と平和国際セミナーで警鐘 地球の外でも米国の傘下

 安倍政府がとなえる集団的自衛権行使の一つの柱に、アメリカ本土や軍事衛星に向けられたミサイルを、自衛隊が迎撃するという「ミサイル防衛(MD)」がある。「“ミサイル防衛”“集団的自衛権”の真実を考える」をテーマに、その実態と危険性に迫る「“宇宙と平和”国際セミナー」が7月30日・同志社大学、8月1日・立命館大学で開催された。セミナーには国内はもとより海外10カ国から研究者や学生、活動家らのべ約450人(うち海外35人)が参加。日本の宇宙開発がアメリカの宇宙戦争戦略に組みこまれ、「安保法制」とあいまって新たな核戦争の危機を高めていることに警鐘を鳴らすものとなった。そのなかから、日本の学者三氏の報告のあらましを紹介する。
 
 先行する科学の軍事動員

 このセミナーは、「宇宙における核や兵器の配備に反対する国際組織」(GN)の第23回年次大会として初めて日本で開かれたものである。「“ミサイル防衛”の真相」「宇宙規模で構築中の米軍戦争システムの全貌」「宇宙戦争も核戦争もない平和な地球を築こう」の3つの標題でおこなわれた。
 同セミナー京都実行委員会の代表を務める藤岡惇・立命館大学特任教授は、「“ミサイル防衛”は新型核戦争(衛星軌道上での核爆発と原発炎上)を招く」と題して次のように報告した。
 アメリカは冷戦後、とくに9・11事件(2001年)直後からブッシュ政権下で「核作戦態勢の見直し」を進め、「宇宙基盤のネットワーク中心型戦争」といわれる「新型戦争システム」を開発してきた。アメリカの冷戦時の核戦力は①大陸間弾道弾、②潜水艦搭載の核ミサイル、③戦略爆撃機の三本柱からなっていた。それが「新型核戦争システム」では、①攻撃力(冷戦時の核戦力=旧来の三本柱と非核通常型弾道)、②防衛力(ミサイル防衛・サイバー防衛)、③即応性に富む基盤力(GPS衛星編隊や核戦力の開発力など)という新しい三本柱へと移行した。
 米軍が先制攻撃を始めても敵ミサイルの応射・反撃からアメリカの核戦争システムを守り抜く態勢が強化されたわけだ。加えて、核戦争を支えるインフラ部門が損傷を受けても、迅速に対応できるようにした。そのうえで、これらの3本柱は宇宙ベースの通信・指揮・諜報能力という「戦争の神経系」によってネットワーク状にリンクされ、統合されることになった。これが「宇宙ベースのネットワーク中心型戦争」の実体だ。
 それを統括するのが米戦略軍で、その傘下の宇宙司令部は地上から数百㌔の近距離軌道、2万㌔のGPS(測地)衛星軌道、3万6000㌔の静止衛星軌道に150基余りの軍事衛星編隊を回らせ、地球上の全戦力をネットワークで結んでいる。2005年前後からドローン(無人戦闘機)を飛ばし、イラクやアフガンなどで「反米」とされた勢力に先制攻撃を加えてきた。
 第2次世界大戦後、アメリカが開戦した戦争の99%は米軍側の先制攻撃から始まった。今日でも、米軍との圧倒的な戦力差を考えると、北朝鮮や中国の核開発拠点やミサイル基地への先制攻撃から戦争が始まる可能性が高い。その場合、北朝鮮や中国は残存ミサイルを応射して反撃するだろう。MDとは、その応射ミサイルを追撃し、アメリカの「新型戦争システム」を守り米軍を完勝に導こうとするものだ。北朝鮮や中国が発射するミサイルから日本人の命と暮らしを防衛することだと思い込まされている人が少なくないが、それは幻想にすぎない。
 これはいわば「半宇宙戦争」の段階で、今後地表から宇宙衛星に向けてミサイルやビーム兵器が発射されるようになり、それに対抗して衛星の側も装甲を固めて武装し、地表の敵や敵衛星に向けた応射が始まると、本格的な宇宙戦争を招く。アメリカの攻撃を受けた北朝鮮や中国は「ミサイル防衛網」の正面突破は避け、米核戦争システムの最も弱い急所に反撃を試みるに違いない。アメリカが金を注ぎこんだ「ミサイル防衛」の弱点だが、急所となるGPS衛星を打ち落とせばいい。迎撃ミサイルで敵ミサイルを破壊するのは難しいが、軍事衛星は定時に定位置を巡回しているのではるかに撃墜しやすい。
 宇宙空間での核実験を米ソとも60年代に20発はやっている。迎撃ミサイルで衛星に衝突させ破壊する実験も米ソとも80年代にやっている。現在は衛星攻撃兵器の試作がおこなわれ、地上から衛星にむけてレーザー光線を照射したり、自国の衛星を標的としてミサイルで撃墜する実験がされている。2007年1月11日中国軍は弾道ミサイルを内陸部の四川省から発射し、高度850㌔で自国の気象衛星を撃墜した。それに対抗してアメリカの戦略軍司令部は、08年2月21日にイージス巡洋艦から迎撃ミサイルを発射し、自国の軍事偵察衛星を北太平洋の上空247㌔で撃墜した。
 こうして、「ミサイル防衛」のための迎撃ミサイルは「衛星攻撃兵器」に転用した方がはるかに効果的であることが明らかになった。上空2万㌔のGPS衛星軌道上で核ミサイルを爆発させると衛星は黒こげになり、「ミサイル防衛システム」は麻痺してしまう。地上の人間は大気圏に守られているので、核爆発への抵抗感は小さいだろう。
 もうひとつの狙い目は原発施設である。原爆は冷戦後、小型化が進んだ。スーツケースに入れて自爆攻撃ができる。「戦争ができる国になる。それが抑止力になる。戦争は防止できる」という19世紀の典型的な思想では、皮肉なことに福島原発事故が起こった日本を対象にするとミサイルを福島原発に打ちこめば簡単に爆発する。ミサイルを持たない弱小の軍事勢力でも原発で自爆するだけで同じ効果が得られる。日本は人が住めない土地になるだろう。日本の上空は偏西風が吹いているから、東アジア諸国には被害が及ばないだろう。
 「ミサイル防衛」の前線基地でありながら防御の貧弱なXバンドレーダー基地(京都・京丹後、青森・車力)も狙い目となる。ミサイル探知のXバンドレーダーはトレーラーに積んで移動できるようになっており、自家発電装置をともなっている。有事のさいに外部電源を切断されることを想定しているからである。そのさいは米軍は地下深くに隠れ、地域住民だけがとり残され反撃にさらされることになる可能性が大きい。
 今年1月に安倍政府が決定した第3次宇宙基本計画は、アメリカの24基からなるGPS衛星編隊が攻撃されマヒした場合の代替措置として、七基の準天頂衛星編隊を提供することを公約している。緊急事態に備えて航空機から衛星を打ち上げる態勢づくりもうたっている。アメリカの軍事衛星編隊が破壊されても即座に機能回復をはかり、継続能力を高める態勢づくりに日本が積極的に関与すること、アメリカ新型核戦力の3本目の柱「迅速な対応力を備えたインフラ」づくりに日本が参画することが公約されているのだ。
 すでに2003年に日本は「ミサイル防衛」に参画している。「ミサイル防衛」とは、アメリカの新型核戦争の根幹をなす宇宙戦争システムを防衛することーー ①宇宙衛星編隊というアメリカの宇宙基地の防衛、②地球上に広がる米軍・同盟国軍のネットワーク型戦力の防衛ーー が任務である。集団的自衛権の行使を容認することなしに、「ミサイル防衛」に参画することはできないしくみとなっている。
 「新型戦争システム」に対する反撃を「ミサイル防衛」によって封じ込めようとすると、これまで想定してこなかった「宇宙での核爆発」や「原発の爆発」という新しいタイプの核戦争を引き起こす可能性がある。ロッキード・マーティン社が核爆発に耐える能力を高めた軍事通信衛星を受注したという。1基50億㌦という軍産複合体にとって残された数少ない宝の山が宇宙分野なのである。日本の宇宙開発予算は年間2000億円、アメリカのNASAの10分の1、米国全宇宙予算の20分の1だ。「はやぶさ」の開発は110億円。少ない予算の枠内で設計に知恵を絞って小さくて軽く割安の探査機をつくり、NASAも驚かす探査を成功させた。このような日本の優れた宇宙技術に「死の商人」が目を付けている。
 アメリカの宇宙戦争に日本は引き込まれつつある。集団的自衛権行使容認にアメリカの日本担当者が固執するのはなぜか。米軍の戦争に日本の資源を動員し、アメリカの宇宙戦争に日本を参戦させようとすれば、専守防衛や個別的自衛権に拘泥していては話にならないからである。宇宙の戦場化と新型戦争を、招かないようにしなければいけない。幸いイラン核合意となった。アメリカは65年も朝鮮戦争をやっている。朝鮮戦争を終結させ、東アジアに相互信頼をつくりだすことから始めようではないか。

 第三次宇宙基本計画 平和利用が軍事へ変貌

 前田佐和子・元京都女子大学教授(地球惑星科学)は、「日本の第3次宇宙基本計画が示すものーー 宇宙の軍事利用は戦争への道」と題して報告。「平和利用」から始まった日本の宇宙開発が軍事利用へと変貌し、アメリカの「ミサイル防衛」の主要な役割を担うまでになった過程と、第3次宇宙基本計画の概要を次のように明らかにした。
 日本の宇宙政策は、宇宙基本法の規定により、宇宙基本計画として策定される。2009年の第1次計画では「憲法の平和主義にのっとり、専守防衛の範囲内で」という文言が書かれていた。ただし、ここでの「平和」概念は、すでに憲法九条二項の「非軍事」ではなく、「安保・防衛」概念に変更されていた。そして、2013年の第2次計画では「専守防衛の範囲内」という文言が削除された。そのあと2年にも満たない2015年1月、安倍政権は国家安全保障を最重要課題と位置付ける第3次計画を発表した。
 2015年は日本が最初にペンシル型ロケットを打ち上げてから60年目にあたる。宇宙への夢はまず、技術の自主開発とそれにもとづく宇宙科学の世界から始まった。アメリカの15%、全ヨーロッパの半分の宇宙科学予算で、日本は独自でロケットや衛星、機器開発を進め、地球の周辺から太陽系空間、さらに深宇宙にまでおよんで、数数の発見をおこなってきた。
 1969年、科学の中核機関である宇宙科学研究所(文部省)とは独立した、民生利用のための宇宙開発事業団が設立された。そのとき、国会で「宇宙の平和利用原則」とともに「自主・民主・公開・国際協力」の四つの附則が決議された。しかし、1985年に海上自衛隊が米海軍の偵察衛星受信機装置を購入したことで密かに軍事利用が始まった。このデータの精度は他の民間衛星のそれと変わらないので、「平和利用原則」に反しないという「一般化原則」という概念が考案され、それ以降の軍事利用に適用されていくようになった。
 1990年、アメリカは日本の民間衛星の調達に関して市場開放を要求(スーパー301条)し、技術力でははるかに劣る日本の宇宙航空産業を直撃した。これが国内市場に限定される宇宙航空産業を軍事衛星開発に向かわせ、実質的な軍需産業に変質させることになった。
 1998年には朝鮮半島から中距離弾道弾テポドンが発射されたことを口実に、偵察(スパイ)衛星の開発が始まる。政府はこれを「情報収集衛星(IGS)」と呼びかえてとりつくろった。この衛星の開発の目的の一つに大規模災害に対応することがあげられたが、2004年の新潟中越地震や2011年の東日本大震災でIGSの情報が提供されることはなかった。宇宙開発の現場はこれを厳しく検証することなく、軍事化への道を開いた。
 2003年には「ミサイル防衛網」に参加するという政策決定のもとで、研究と民生利用に特化されていた二機関を宇宙航空研究開発機構(JAXA)に統合した。2008年には宇宙基本法を制定、平和利用を破棄し、「非軍事」から国連宇宙条約にうたわれる「非侵略・防衛」概念へ転換した。これによって、日本も核兵器を搭載したミサイルの運用を合法化した。憲法との整合性が問題であるはずのこの政策転換は、社会に広く問題提起されることなく、関連学会の声明も正面から反対の声をあげる内容ではなかった。
 翌09年の第1次宇宙基本計画の策定後、2012年には宇宙開発戦略本部(事務局・内閣官房)が設置された。同年のJAXA法の改正で、それまで「平和の目的に限り」認可されてきたJAXAが、戦略本部に指揮される実施機関という位置付けに変更された。
 第3次宇宙基本計画の最重点目標は「準天頂衛星」(日本版GPS)にある。GPSはアメリカの「ミサイル防衛網」の中核をなす軍事衛星で、「準天頂衛星」はアメリカのGPSを補完するものである。現在の1基から17年度に4基、23年には7基体制にするとしている。開発費用は総額3800億円だ。
 軍事衛星の中核となる偵察衛星(IGS)は、衛星寿命が短く、ほぼ毎年打ち上げられ、宇宙設備だけで年600億円以上の予算が内閣官房のなかに組まれている。2017年から即応型小型衛星、次世代情報収集衛星の開発、高性能の光学衛星、レーダー衛星の開発を始める。赤外線センサーがJAXAと防衛省の技術本部で共同開発されており、ミサイル発射を検知する早期警戒衛星用に使われることが見込まれる。
 軍事用衛星通信には情報量が多く、気象の影響を受けにくい短波長電波(Xバンド)が使われている。陸・海・空自の3基の衛星情報通信が統合され、3年後には次期Xバンド衛星網へつなげる。光データ中継衛星を19年に打ち上げる。これに従事する専門家の養成が必要とされ、政府は大学や研究機関に軍事研究の推進を押しつけてきている。
 この60年間の宇宙開発の歴史は、言葉に真逆の意味を与え、「戦争」を「平和」といいかえ、「一般化原則」で軍事利用を民生利用に偽装することで、憲法の平和条項を無意味化してきた道である。第三次宇宙基本計画は、宇宙の軍事化を顕在化したものだ。

 対米従属の下で日本の軍産共同始まる

 池内了氏(総合研究大学院大名誉教授)は「軍事化が進む日本の宇宙政策のもとで、何をなすべきか」と題して報告した。そのなかで次の点を強調した。
 日本の宇宙政策は、内閣総理大臣を本部長とする宇宙開発本部が前面に出ることによって、政府主導型の「安全保障に資する」という軍事化路線をひたすら走る体制が整った。その具体的あらわれが第3次宇宙基本計画で、内閣官房が参謀の役を果たし、三菱重工業がロケット打ち上げの主体となり、JAXA(宇宙航空研究開発機構)は監理責任を担うという役割分担となっている。
 アメリカでは国防総省(陸軍・海軍・空軍)が軍事にかかわる宇宙化開発全般をおこない、NASA(アメリカ航空宇宙局)が宇宙の平和利用を担う体制をとっている。これに対し、日本では少なくとも今の段階では宇宙開発の主体は防衛省に移行しておらず、形式的にはJAXAが宇宙開発の責任主体となっている。
 つまり、日本ではJAXAは軍事利用をおこなうのだが、平和利用を担うISAS(宇宙科学研究所)も所属しており、JAXAは軍事利用と平和利用の二つの顔を持っていることになる。
 そのため、軍事利用の情報収集衛星(スパイ衛星)を打ち上げるロケットも科学衛星を打ち上げるロケットのいずれもH2Aを使っている。これが、日本の宇宙政策の弱点となっている。つまり、日本では宇宙基本計画に記載されるロケットの使用計画において、軍事のためと平和のための双方を表示しなければならない。そこから、宇宙の軍事利用がどのようにおこなわれるか、あるいは平和利用にどれだけしわ寄せしているか、私たちは目の当たりにすることができるのだ。だからロケットの発射場がある種子島宇宙センターで監視を続けておれば、軍事機構のロケットを開発しているかどうかがチェックできる。
 宇宙開発の事情は国柄によって異なる。アメリカではもっぱらNASAが平和目的を売り込み、国防総省が進めている巨大な予算を食う軍産共同体の実態を覆い隠す役割を果たしている。ヨーロッパ各国では小型の軍事用ロケット(おもに偵察衛星)の開発をおこないつつ、ヨーロッパ連合として大型のアリアンロケットで平和利用(とロケット代理打ち上げ)を大大的に宣伝し、軍事利用が目立たないようにしている。それは、やはり宇宙に対する人人の関心は平和目的が圧倒的に強いためだろう。
 重要なことは、アメリカとの結びつきが強固になり、日本の軍産共同が始まりつつあることだ。科学者は軍事研究に携わることはなかったが、今年四月から競争的資金の形で防衛省が大学へ募集を始めた。JAXAはその一歩先をおこなっており、2003年から防衛省と技術交流を始めている。
 「はやぶさ」や金星探査など科学衛星だけしか知られていないが、科学衛星は1基200億円に対し、スパイ衛星で500億円をはじめ軍事衛星は10倍にはねあがる。日本は宇宙にロマンを感じる人人が多い国である。「あこがれの宇宙」がこれから戦場になると警告を発しなければいけない。ロケットは図体がでかいからチェックが可能だ。各国で監視し、国際ネットワークで軍事化に歯止めをかけよう、と呼びかけた。

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