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防衛省 定規で測って適地判断 秋田市のイージス・アショア配備計画で発覚

 防衛省がおこなった地上配備型ミサイルシステム「イージス・アショア」の調査報告書に、事実とまったく異なるデータが記されていたことが物議を醸している。

 

 防衛省は陸自新屋演習場(秋田市)以外に、青森、秋田、山形各県の国有地と陸自弘前演習場の計19カ所を調べた結果、どこも「不適」になったため「新屋演習場が東日本で唯一の適地だ」と主張してきた。ところがレーダーの妨げとなる山があるかどうかを調べた9カ所すべてで、実際にある山の高さより数倍高い数値を記し「不適」としていたことが発覚した。適地選定の恣意性とともに、あまりにずさんな調査姿勢が表面化している。

 

 問題になっている調査結果は、防衛省が秋田県や秋田市の要請に応じる形で、新屋演習場以外の配備候補地を調べたデータだ。防衛省は先月27日に、調査結果を秋田市や秋田県に示し、19候補地のうち9カ所は「レーダーを遮蔽する山がある」として、候補地から山頂を見上げた時の角度を示す「仰角」を示した。他の10カ所はインフラ不足や津波の恐れなどを理由に「不適」と結論づけた。そして19候補地とも「不適」と見なし「新屋演習場が唯一の候補地だ」と主張する根拠にしていた。

 

 ところがこの「仰角」データがすべて誤っていたことが明らかになった。このうちもっとも誤差が大きかったのは秋田県男鹿市の秋田国家石油備蓄基地を候補地とした例だった。候補地からの「仰角」は候補地と対象の山を結んだ「水平距離」と「山の高さ」を基に三角関数で算出する。秋田国家石油備蓄基地の場合は、同基地から男鹿の本山まで水平距離は約9600㍍で、本山の標高は715㍍である。従って「仰角」は「約4度」とならなければおかしい。だが調査結果に記していた「仰角」は「約15度」だった。この「仰角」から男鹿の本山の高さを算出すると約2600㍍になる。この男鹿半島に実在しない巨大な山がレーダーを遮ることをもって「秋田国家石油備蓄基地はイージス・アショア配備地として不適」としていた。ところが男鹿半島に2600㍍級の山などない。地元住民の指摘ですぐにデータの誤りが表面化することになった。

 

 なお9カ所の誤った仰角データと修正後の数値は次の通り。
【青森県鰺ケ沢町】
岩木山(対象の山)=17度(報告書)→15度(修正値)
【弘前演習場】
岩木山=15度→11度
【秋田県男鹿市】
本山=15度→4度
【由利本荘市①】
鳥海山=15度→10度
【由利本荘市②】
鳥海山=17度→13度
【にかほ市①】
鳥海山=15度→10度
【にかほ市②】
鳥海山=15度→13度
【山形県遊佐町】
鳥海山=15度→10度
【酒田市】
鳥海山=20度→15度

 

 こうしたなかで防衛省の深沢雅貴審議官が5日、秋田県議会の全員協議会に出席し「地図の縮尺があっていなかった」とのべた。防衛省側は「初歩的ミス」との姿勢を示したが、自民党県議もふくめて「あれだけ数字が違っていて他の説明は大丈夫なのか」「こんな単純ミスをする防衛省が高度なイージスを配備できるのか」と批判が噴出した。

 

 6日には岩屋毅防衛相が衆院安全保障委員会で「調査、検討結果全体の信頼性、信ぴょう性を失墜させかねないもので、大変申し訳ない」とのべ、配備候補地の秋田、山口両県を自ら訪問して説明する考えを示した。誤りの要因については「断面図の高さと距離の縮尺が異なっていたことに気付かないまま計算するという人為的なミス」と弁明した。

 

 その後、防衛省が実地調査すらしていなかったことも明るみに出た。地元住民にとって町の命運が係る問題であるにもかかわらず、現地には行かず、デジタル地球儀「グーグルアース」やパソコンで作成した地図を使って定規や計算機で数値をはじき出していた。机上で「適地」「不適」のつじつまを合わせるいい加減な調査報告書を作成していたのである。

 

 ところが防衛省は未だに「データを修正しても新屋演習場が唯一の適地であることに変わりはない」との姿勢を崩していない。安倍首相に至っては、陸自むつみ演習場(山口県萩市、阿武町)の調査については「検討に用いるデータに誤りはないとの報告を受けている」(7日、参院本会議)と発言し、地元の意見を無視してごり押しする構えを見せている。

 

 こうした一連の事実は、秋田市や萩市・阿武町で防衛省がおこなった調査自体が、科学的で公正なものではなく、最初から「適地」という結論を出すための「調査」でしかないことを浮き彫りにしている。

 

 そもそも防衛省はイージス・アショアの候補地選定に関連する「適地調査」といいながら、その土地に住み、もっとも土地の事情を知る住民の意見をまったく考慮していない。そして地図や資料、定規を使って導き出した各種調査の結論はみな「影響はない」「適地だ」のオンパレードだった。それは防衛省のおこなった「適地調査」自体が「住民への影響を調べるための調査」などではなく、「防衛省の、防衛省による、防衛省のための調査」でしかないことをまざまざと見せつけている。それは調査の信憑性とともに「誰が何のためにおこなう調査なのか」が鋭く問われる問題になっている。

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この記事へのコメント

  1. 私は現在65歳ですでにリタイヤしています。周南市在住です。以前電波関連の仕事をしていました。
    参考になればと思いコメントさせて頂きます。
    今回のイージスアショアのレーダー(電磁波)について何らかの設置反対の反論資料になればと思います。防衛省の設備は殆どマル秘扱いでレーダ性能が非公開です。電波防護に必要な情報は当然極秘です。提出された資料が、どのように計算され、問題なしとしたか疑問です。
    電波(電磁波)の人体への影響は具体的にまだ解明されていないと思います。だから電波防護指針なのでしょう。電波防護指針で設定された現在の携帯電話の電波(電波電力)で人体に影響した情報はまだきいていませんが、まだ解明されていない状態です。
    電波防護にはアンテナの放射パターン、電波型式(電波の種類)、周波数、送信出力等が必要です。先日の模擬実施でどこまで実際の装置に類似しているのか疑問です。目に見えないものですから参考にはならないと思います。どこまで数値で説明されたのか、その時電波防護に精通した住民がいたのでしょうか。
    レーダー波照射も基本水平には照射しないとなっていますが、それは説明用に作っているだけで防衛省(操作する側)ではなんとでもできます。そのようにプログラムされています。(通常そのように設計します)その部分も追及されたら良いかと思います。
    今後可能なら住民側にある程度の有識者を付けたいところですね。
    レーダー波の送信エリアパターン(仰角含む)についても現在は自動計算で出来る時代です。これは有償ですけどね。

    もう一点、ミサイルサイトは当然演習場内に設置する必要はないと思います。もっと人里離れた場所でも良いのではないでしょうか。遠隔操作は現在では常識、無人化も可能。レーダー基地も無人化可能。ただしメンテナンス、警備等は必要ですけど。住民を守るには処置と思います。

    参考になれば幸いです。

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