第三者のチェックなしで盗聴する警察
国民の基本的人権である「通信の秘密(通信の自由)」を保障する憲法に反して、国の捜査機関による通信傍受(盗聴)が無制限に拡大している。警察庁は4月25日、2016年に改定した通信傍受法が6月1日に施行されるのを前に、この法令実施に関する国家公安委員会規則(通信傍受規則)を改正した。適正捜査を監督する第三者を介することなく、警察や検察が好き勝手に国民の通信を傍受することができる「一億総のぞき見国家」づくりが進行している。国民の知らないところで拡大する国民監視は、どのようにおこなわれ、その目的はなんなのか、実態について記者座談会で論議した。
A 犯罪捜査の手段としての通信傍受を用いる法的根拠である通信傍受法は、1999年にアメリカの法律にならって制定された。対象となる通信には、固定電話、携帯電話だけでなく、電子メールやFAXも含まれる。当初は組織的殺人、麻薬などの薬物、銃器、集団密航の4つの犯罪に限定され、NTTなど通信事業者の施設で立会人を置いておこなうように定められていたが、2016年の法改定によって対象犯罪を窃盗、詐欺、強盗、傷害、児童ポルノなど9つの罪に拡大するとともに、警察自身が警察施設の中で通信事業者の立ち会いもなく盗聴ができるようにした。盗聴に使うパソコン型の「特定電子計算機」188台を警察庁や管区警察局が管理し、全国の都道府県警本部が使用するという。これまではリアルタイムの傍受に限られていたが、録音も可能となる。警察署で使えるということはどこでも使えるということであり、立会人がいないのなら、誰がいつどのような目的で盗聴しているのか検証することはできない。
盗聴捜査は「組織性が疑われる」ことが条件だが、2人以上ならすべて「組織犯罪」に該当し、警察が把握する犯罪のうち7割を窃盗が占めている。つまり、盗聴捜査に関する縛りが一切ない全面解禁となっている。これが「共謀罪」や「特定秘密保護法」などとセットになれば、盗聴の対象は無限に広がる。
また通信傍受は、盗聴は不特定多数のプライバシーや人権を損なうものであるため、通常の逮捕令状と同じように、検察官や警察官が裁判所に対して捜査差し押さえ令状を請求し、裁判官が発布する令状に基づいておこなう仕組みになっている。実施する根拠や必要性があるかどうかについて第三者がチェックし、権力の乱用を防ぐというのが建前だ。今回の改正で、警察は立会人を置かないかわりに、傍受したデータは暗号化して流出を防ぎ、「傍受指導官」を新設して客観性をチェックするといっている。
だが、これはあくまでも「建前」に過ぎない。盗聴のための令状請求は、逮捕状に比べれば容易く、「あやしい」という通報が一つでもあれば簡単に出るという。逮捕や家宅捜索は相手に令状を示さなければならないが、盗聴の場合は対象者に知らせる必要がない。そのため警察自身が通報などを捏造して裁判所に請求することも常といわれる。盗聴データも立件するうえで証拠となりうるものは裁判所に提出するが、大部分を占めるその他の通話記録がどのように利用されるのかは不明だ。
また、新設する傍受指導官は「刑事総務課などに所属する警部以上」の中から警察みずから指名する。傍受したデータを管理・運用するのも警察組織だ。身内ばかりで客観性をチェックする機能はないに等しい。「私たちが適切に運用しますから信用して下さい」という話で、適正性はまったく担保されていない。
B すでに警察や検察は、裁判所の捜査令状がいらない「捜査関係事項照会書」を使って銀行、カード会社、携帯電話会社などから膨大な個人情報を得ている。さらに盗聴器まで警察自身が管理するのだから、家族関係、預貯金残高、借金の有無、趣味趣向から人間関係まで個人の情報を丸裸にできる。
C 盗聴や傍受の無制限拡大もはるかに前から進んでおり、法律が後から追っかけているのが実際のようだ。
携帯電話などは番号さえわかれば、GPS機能で位置情報も把握でき、その人物が、いつ、誰とどんなやりとりをしたのかまで簡単に傍受できる。暴力団捜査では早くから導入されており、捜査中の暴力団組員にうっかり電話して癒着関係がバレた警察官が捕まるという事件もあちこちで起きている。また、警察の総合照会センターには、免許証を持っている人間や前科前歴のあるすべての人間の個人情報が蓄積されている。このサーバーには全国どこの捜査機関からでもアクセスでき、氏名と生年月日で戸籍から住所まですぐに閲覧できる。
個人情報はいまや売り買いされる商品であり、管理する者の厳正な管理と中立公正さが大前提だ。だが、昨今の警察が果たしてそのような信用に足る組織なのか? と思うような事件が頻発している。警察がその個人情報を悪用して、ストーカー行為を働いたり、住居侵入したり、情報を横流しして利益を得ていた事件などは枚挙に暇がない。早い話が、警察OBが容易く民間企業に天下りできるのは、一つは警察情報が入手できるからであり、警察本部から半ば公然と一般人の個人情報を入手していた例などもゴロゴロしている。公権力を使って収集した情報を利用して再就職の椅子を得ているという構造的な問題がある。
それこそ盗聴捜査の対象である「特殊詐欺」の容疑者たちから押収した8572万円が広島中央警察署内で消えてなくなった事件は、発覚から丸2年がたちながら盗難金の行方も事件の真相も明かされていない。どちらが犯罪組織なのかわからないような状態だ。「8500万円がなくなりましたが信用して下さい」が通るなら、それこそ警察はいらないという話だ。
D そもそも盗聴法の改定は、大阪地検特捜部による証拠捏造事件をはじめとする冤罪事件が多発するなかで取り調べの可視化が論議になった過程で浮上し、取り調べの過程を録画・録音するかわりに捜査権限を拡大するという取引でおこなわれた。ところが、「可視化」される対象は、殺人や放火など裁判員裁判になる重要事件と検察の独自捜査事件に限られ、警察が把握する全事件の3%程度にすぎない。しかも「可視化」されるのは、そのうちの逮捕、勾留された容疑者の取り調べだけであり、逮捕前の任意の取り調べは含まれない。一応、チェック機能として「取調べ監督制度」があるが、これも同じ警察の身内が監督するため客観性は乏しい。捜査権の乱用を解決すると見せかけて、捜査権を無制限に拡大するという荒技をやった。
盗聴による犯罪摘発件数はせいぜい1年間で10件程度であり、対象を拡大したといっても摘発件数が爆発的に増えるわけではない。別のところに目的があるということだ。
カード記録も無断提供 令状なしが常態化
A 日本国内で動いているのは盗聴法だけにとどまらない。軍需産業の企業内の秘密を漏らせば処罰する秘密保護法に加え、国民に番号をつけて管理するマイナンバー法も始動し、犯罪行為をしてもいないのに「相談した」というだけの理由で逮捕・投獄できる共謀罪法も施行している。「テロ対策」「防犯」を口実にした監視ツールが、すでに生活空間の隅隅に入り込んでいる。スマホやパソコンはもちろん、メンバーズカードやポイントカードもその一つだ。
今年初旬、ポイントカード最大手の「Tカード」(会員約6800万人)を運営する「カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)」が、利用者本人の了解も得ず捜査当局に個人情報を提供していたことが最高検察庁作成の内部資料で発覚している。CCCは当初、捜査令状があった場合にのみ提供していたが、捜査機関側が「捜査関係事項照会書」で情報提供を求めたため2012年から令状なしの情報提供に応じるようになったという。一旦警察に情報が流れると、それが何に使われるのかわからない。Tカードはツタヤの会員証だが、コンビニやスーパー、家電量販店、ドラッグストア、飲食店などが多く加盟する。この会員情報は氏名、生年月日、住所、電話番号、メールアドレス、ポイント履歴などが主な個人情報だが、買い物記録などから好きな食べ物、好みの服、使っている薬、好きな映画まで分かる。
情報を提供していたのはTカードだけでなく、航空、鉄道、バスなどの交通各社、携帯電話会社、クレジットカード会社、電子マネー会社、消費者金融など290団体に及んでいた。しかも、企業の多くが個人情報保護方針(プライバシーポリシー)に捜査機関への情報提供を明記しておらず、すべての企業が情報を提供したことを顧客本人に通知していない。個人情報は守られるものと思っていたら大間違いで、顔写真、位置情報、家族情報、銀行口座、預貯金残高、行動範囲、メールや通話履歴にいたる生活全般の情報が、裁判所の令状もなしに第三者に公然と流れているということだ。「捜査関係事項照会書」による情報収集は行政に対しても行使されており、裏口から個人の戸籍謄本などを入手してリスト化するようなことは昔からおこなわれてきた。安倍政府はポイント還元で消費税の負担軽減といってキャッシュレス化(電子マネーやクレジットカード利用)を推進しているが、これも個人データを収集するという側面がある。「個人情報保護」といいながら進んでいるのは個人情報のダダ漏れなのだ。
C 他にも、コンビニ、商業施設、郵便局や銀行の入口などどこでも監視カメラがあり、何か事故や事件があるとその映像が流れる。「防犯」といえば聞こえはいいが、犯罪とは関係のない圧倒的多数の個人の動向を四六時中監視している。
監視カメラは主としてオービス(自動速度違反取締り装置)、Nシステム(自動車ナンバー自動読み取り装置)、防犯カメラの三つに分類される。オービスは全国に約600カ所以上あり、スピード超過車両があれば即座にナンバープレートと運転手の顔を撮影し、30日以内に警察が出頭通知を送付する。物陰に隠れてスピード違反を摘発する「ネズミ獲り」が移動式オービスだ。Nシステムは警察に登録された犯罪容疑車両のナンバープレートと走行車両のナンバープレートを瞬時に照合し、一致すれば捕捉に動くシステムだ。スピード違反を取り締まる機能はないが、ターゲット車両の摘発ができる。全国に約1500カ所以上設置している。
もっとも多いのは「防犯カメラ」だ。警察が設置する「防犯カメラ」(捜査用監視カメラ)は数年前のデータでも全国各地に330万台、JR駅等に5万6000台設置していた。それ以外にも全国に5万店あるコンビニ、各地の自治体や自治会、企業などが設置した監視カメラが山ほどある。この「防犯カメラ」の精度は、街頭の会話を録音したり、急に動いたものを自動的に察知し警察署に送信することもできるという。民間が設置したカメラでも「捜査関係事項照会書」があれば、令状なしで録画記録の提供を求められる。
最近の防犯カメラには、顔認証・照合システムが搭載されており、警察の写真データベースと結んで映り込んだ人物をすぐに特定できる。それは「10人以上の顔を同時に検知」「サングラスやマスク姿、正面でない場合も探知」「被写体の動きを追跡」「10万件のデータベースを1秒以内に照合できる」といわれる。いまや顔認証システムは、スマホのロック解除やオフィスの出入管理にいたるまで幅広く導入されているが、そのデータが捜査機関に蓄積されていることは知られていない。
A 一昨年、前川喜平・元文科省事務次官が加計学園問題で政府の圧力を告発したさい、『読売新聞』が前川氏の「出会い系バー通い」をスクープしたが、これも街中の防犯カメラなどの情報を駆使すれば簡単に得られる情報だ。つまり、権力にとって不都合な人物の私生活全般の個人情報を入手し、御用マスコミにリークすることも可能であり、個人情報は告発者を黙らせたり、圧力を掛ける道具にもなりうる。「隠すことがなければ心配することはない」とか「悪いことをしていなければ会話を聞かれてもいい」と思う人もいるかもしれないが、権力がそれを握ることによって個人を都合よくコントロールする材料になる。一方、国家権力にとって「不都合な事実」は、公文書でも廃棄・改ざんが許され、「特定秘密」にしてしまえば開示しなくてよいのだからまったくの二重基準だ。
D 2015年10月からはじまったマイナンバー制度も、こうした個人情報を統合してサーバー上で管理するシステムだ。赤ちゃんを含む全国民と在日外国人に一生変わらない12ケタの個人番号をつけ、企業に13ケタの法人番号をつけ顔認証機能もついたマイナンバーカードを持たせる。逆にいえば、番号が流出すれば、連結された個人情報がすべて流出する。そのため国民の警戒も強く、いまも普及率は13%程度にとどまっている。なにしろ職歴、家族構成、所得、不動産などの資産情報、今までに受けた医療情報、失業保険、公営住宅を借りた記録、児童扶養手当など各種手当て、生命保険、個人の銀行預貯金、住宅ローン、犯罪歴など個人情報はみな筒抜けになる。ここにポイントカードや図書館カードの情報も紐つけすれば、個人の出生以後の行動履歴がすべてワンタッチ検索で分かるようになるということだ。
ネット通じて個人情報収集 監視大国アメリカの実態
A 国民監視は、インターネットの普及とIT化が進むなかで飛躍的に進んだ。これまでは尾行したり、潜入して聞き込みをしたり、足を使わなければ得られなかった情報が簡単に得られるようになった。これをフル活用して国家規模の諜報活動をくり広げてきたのがインターネットの総元締めであるアメリカで、日本はその後を追っている格好だ。
元NSA(米国家安全保障局)職員のエドワード・スノーデンが、NSAが世界中の個人情報を秘密裏に収集している事実を暴露した。アメリカ国内では、マイクロソフト、アップル、グーグル、フェイスブック、ヤフー、アマゾンなどのプロバイダやインフラ、光ファイバー回線、衛星などの設備を提供する通信事業者に協力させ、これらのサーバーに政府が自由にアクセスできるようになっている。ネットを利用するすべての人物が検索ボックスに書き込んだ単語、閲覧したウェブサイト、クリックした広告などネット上の行動記録は「メタデータ」として永久保存される。携帯電話やスマホのデータは、GPSによる位置情報、通話履歴や時間、アドレス帳、メールの通信記録、さらに相手の情報まで蓄積されている。これらの情報を令状なしで政府が得られるようになっており、四六時中ヘッドセットをつけて通話を聞いていなくても、サーバーに保存されたメタデータから検索ができる。
また、アイフォンなどのスマホをハッキングし、電源を切っていてもNSAの職員が遠隔操作し、マイクを通じて盗聴器に使う技術(ローヴィング・バグ)を英国政府通信本部(GCHQ)と共同開発していることや、ネットを利用したIP電話も盗聴器として遠隔操作が可能なこと、個人が利用したヤフーのウェブカメラの映像も傍受して保存していることも暴いている。
他にも、NSAやFBI(米連邦捜査局)は、国際通話や国内の通話を含む電話のすべてのメタデータを毎日提出させ、さらに、フェイスブックやグーグル、アップルなどアメリカに本社を置くIT大手9社には電子メールやSNSによる通信内容を秘密裏に提出させている。これらの監視プログラム(プリズム)で秘密裏に吸い上げた情報から「監視対象」に指定された人物は2013年4月の段階で11万7000人ほどいたといわれ、米政府の政策に批判的な人物は出入国のさいに必ず別室での取り調べをしたり、スマホを使ってリアルタイムの行動を追跡されるという事例が明らかになっている。中国や北朝鮮に「国家監視で人権がない」というが、表沙汰になっていないだけでアメリカの監視体制はそれ以上に大規模だ。
B インターネットでやりとりされる世界の情報はすべて海底を通って大陸間を結ぶ地下ケーブルを使って伝達されるが、そのほとんどが最終的にアメリカを通る。アメリカの通信事業者は、このケーブルを通る情報に関して、収集・利用などのあらゆる権限を与える無制限のアクセスをNSAに許可している。これらの国際ケーブルなどのインフラに直接進入して情報を盗み出す「特殊情報源工作(SSO)」が「米国のスパイ活動の大半」だとスノーデンは告発している。たとえ日本国内で送受信されたメールであっても、多くはアメリカのサーバーを経由するようになっており、そのすべてが監視対象になりうる。一般国民だけでなく、過去数年にわたってNSAがドイツのメルケル首相の携帯電話を盗聴していたり、メキシコ大統領府の電子メールシステムや、ブラジル政府の通信に進入したり、少なくとも世界35カ国の国家元首の通話を傍受していたことが発覚して物議を醸した。
日本に関しては、NSAが日本の政府や企業の電話を少なくとも2007年以降盗聴を続けていることを内部告発サイト「ウィキリークス」が暴露した。「ターゲット・トーキョー」として公表された内部文書には、内閣府、経済産業省、財務省、日銀や同職員の自宅、三菱商事の天然ガス部門、三井物産の石油部門などの計35回線の電話を盗聴していたことが記されていた。「テロ対策」といいながら、テロとは関係のない金融、貿易、エネルギー、環境分野などの情報を収集して外交上で優位に立つためで、これらの情報はアメリカと諜報活動で協力しあう「ファイブアイズ」(イギリス、オーストラリア、ニュージーランド、カナダを加えた5カ国)で共有されていたという。国会で「特定秘密保護」だの「サイバーセキュリティ」だのと真顔で論議しているのがちゃんちゃらおかしくなるような話だ。
C スノーデンをはじめとするジャーナリストたちは、日本でアメリカのスパイ機関のために信号諜報(シギント)、情報工作、インターネット監視などに携わる人員が総勢約1000人規模で配置され、主要拠点は横田基地、米空軍三沢基地、米海軍横須賀基地、米海兵隊キャンプ・ハンセン、米空軍嘉手納基地、アメリカ大使館の6カ所であることも明らかにしている。
横田基地内の国防総省日本特別代表部(DSRJ)は、日本のNSA本部にあたり膨大な個人情報が集中する。スノーデンがNSAの仕事を請け負うDELLの社員として東京で勤務していたとき、横田に日本側の「パートナーたち」がやってきて情報提供を求めていたが、NSAは日本の国内法がスパイ活動を認めていないことを理由に情報提供を拒み、逆に日本の国内法を変更させる「秘密保護法」の制定を促していたという。基地内にあるNSAの総合評議室には約100人の法律家が配置され、このグループが秘密保護法制定を妨げているさまざまな要素を取り払うための知恵を授け、その指示通りに官僚や政治家が動いていくという構図だ。「個人情報保護」とか「秘密保護」というのは、国民の目隠しや情報統制のために使う建前であって、実際には国のど真ん中にとんでもない大穴が空いている。外国機関に政府機関の盗聴まで許しているのだから本末転倒もいいところだ。
B NSAは「コレクト・イット・オール」(すべての情報を収集する)を目指しているというが、日本政府も盗聴捜査の全面解禁でその後を追っている。国家権力が社会を私物化する流れの中で、国民の個人情報を勝手に抜きとろうが、会話を盗み聞きしようが、権力のやりたい放題という麻痺状態を作り出している。
日本国憲法は、国民の基本的人権として「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する」「検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない」(第21条)と定めている。戦前、国民を戦争に動員するために治安維持法を定め、国民の手紙から日常会話に至るまで特高警察が検閲・盗聴して、戦争に異を唱えるものは片っ端からしょっ引いて拷問し、思想統制していった反省のもとに定められた条文だ。
電気通信事業法にも「電気通信事業者の取扱中に係る通信は、検閲してはならない」(第3条)、「電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密は、侵してはならない」(第4条)とあり、「電気通信事業に従事する者は、在職中電気通信事業者の取扱中に係る通信に関して知り得た他人の秘密を守らなければならない」とある。条文改定前から憲法と実態がかけ離れている。
C 戦前はムキ出しの検閲だったが、今度は、国民の知らないところで国家が国民の私生活をのぞき見し、メールも会話も盗聴し放題という戦前以上に薄気味悪い国民監視が進行している。一般国民は他人に聞かれることを前提で電話をしなければならないほど丸裸にされる。その一方で、権力の不祥事や不正行為は「個人情報」ないしは「特定秘密」でひた隠しにされ、公文書は改ざん・廃棄され、あるいは黒塗りの「ノリ弁」状態で開示されるのだ。
AI(人口知能)やあらゆるものをネットでつなぐインターネット・オブ・シングス(IoT)などの技術革新が社会の豊かさのための可能性を広げる一方で、一部の人間の恣意的な目的のために社会や人をコントロールするために利用され、逆に社会を閉塞させるものにもなりかねない。「テロ対策」や「緊急事態」などの名目で国民弾圧のツールとしてフル稼働していく危険もはらんでおり、国民による権力の監視こそが不可欠になっている。