2017年5月に広島中央警察署で詐欺事件の証拠品として保管していた現金8572万円が消えた事件をめぐり、広島県警は12日、署内関係者7人の処分を発表した。事件後、記者会見にも応じず、「事件の内容が明らかでなく、責任の所在がわからないので処分できない」としてきた県警だが、事件発覚からまもなく2年を迎え、県民の批判世論の高まるなかで、処分を先行させる異例の対応をみせた。だが、いまだに事件の全容は明かされず、盗難金の行方や犯人の特定についても説明はない。このまま「幕引き」の空気も漂うなか、説明責任を果たさない県警の動向に厳しい視線が注がれている。
事件後初となった記者会見に姿を見せた石田勝彦本部長が謝罪したのち、処分内容を明かした。
事件発生当時、会計課長で金庫の管理責任者だった管理官(55歳)と、生活安全課長で証拠品の保管責任者の警部(47歳)を懲戒処分(戒告)とした。
また、現在も留任している井本雅之中央署長(警視正・59歳)は「本部長訓戒」とし、2人の副署長(警視・51歳、53歳)、刑事1、2課と生活安全課の刑事を統括する刑事官(警視・58歳)、生活安全課係長(警部補・49歳)を「本部長注意」とした。井本署長と生活安全課係長以外の5人は現在は別の部署に異動している。事件当時に関係していた署員があと4人いたが、すでに退職しているため処分対象から外された。春の人事異動の直後というタイミングの意味を感じさせるものとなった。
「戒告」は、懲戒処分(免職・停職・減給・戒告)のうちで最も軽く「昇任試験で不利になるなどキャリアに傷が付き、出世レースに出遅れるため、階級社会の警察組織では部下が誰も付いていかなくなる」程度の処分といわれる。退職金が没収される免職、事実上の退職勧告といわれる減給や停職には及ばないが、これが今回の事件に関する最も重い処分となった。
一方、井本署長が受けた「本部長訓戒」は懲戒処分ではなく、キャリアも残り1年であるため影響はないとみられている。警察用語では「向こう傷」(たまたま管理職の地位に合ったため受けた処分)と呼ばれ、「むしろ勲章として扱われることもあるので、天下りなどの退職後の扱いにも影響は少ない」と語られている。また県下最大である中央署の副署長は「所属長級」であり、署長ポストが約束されている。「本部長注意」によって「栄転はおあづけとなるが、1年程度の禊ぎを済ませてから通常ポストに収まるのが常」といわれている。
「責任の所在があきらかにならなければ処分できない」というこれまでの県警の見解にもとづくなら、処分に相当する理由があるとみなすべきだが、この7人を処分した理由については「不適切な管理」というだけで、具体的な管理の実態については「捜査に影響を与える」として説明を避けた。捜査も終わっておらず、具体的な理由もないのに処分だけが下されるという不可解な対応となった。
さらに県警は、詐欺事件の被害者に返還しなければならない8572万円を補てんするため、所属長以上の幹部、県警の全職員が加入する職員互助会や警友会(OB組織)からも金を集めてきたが、「ほぼ全額が集まった」と説明した。だが、これも個別の金額や総額などの具体的な数字は明かしていない。
3月5日の記者会見で湯崎知事は「(内部補てんは)まだ確定ではない」とのべたが、水面下では互助会のプール金や積立金で補てんすることを記した通達文書が出回ったり、OBからの拠金は警察OBが役員をつとめる「警察御用達の保険代理店」を通じて寄付として集めていることが各地で語られていた。関係者の間では、2017年11月までに2000~3000万円が金庫に返還されていたとの情報が出回っていたが、今回補てんのためにどれほどの金額を集めたのかは不明のままだ。関係者からは「そもそも集金権限がどこにあるのかもわからず、集めた金額についての報告もない。管理責任が問われている段階でなぜ内部補てんなのか」「互助会は盗難金まで助け合う会ではない」「組織内で異を唱えられないのをいいことに、福利厚生のために給料から天引きされる年会費を流用するなど刑法上は業務上横領といってもいい話だ」と不満の声も上がっている。このようなイレギュラーな処理を県当局や県議会が認めるのかどうかも注目される。
この日の会見で県警は「盗難被害の原因が不適切な保管にあったことは明らか」(石田本部長)、「事件の全容を解明したさいに処分するのがベストだが、もう待てないという判断だ」(岩上首席監察官)と処分の理由を説明したが、誰がどのような経緯で起こした盗難事件なのか、どのような管理実態にあったのかについてまったく言及せず、処分の妥当性についても煙に巻くものとなった。
県警は、一昨年9月に捜査中に死亡した警部補を書類送検する方針を2月半ばにリークしていたが、それから1ヵ月以上たっても音沙汰はない。事件そのものの全容や肝心の8572万円の行方については依然として「闇の中」であるにもかかわらず、「死人に口なし」で死者にすべてを被せたうえで、処分や内部補てんなどの幕引きの材料ばかりが先行することがますます世間の不信を集めるものとなっている。
「全容解明に全力を尽くす」と言いつづけてまもなく2年。実態は何一つ明らかにされず、「全力で隠蔽」してきたのが現実の姿といえる。県警の説明責任を問う声が強まっている。
本来ならば、証拠品を紛失した時点で、管理者は懲戒処分を受けるべきでした。
管理者の責任を追求することなく、処分を遅らせたことが国民の信頼を回復する機会を逃した結果になったと残念に思います。
処分を受けた警察官は、警部補以下の警察官は都合が悪いと自殺か辞職に追い込まれる警察組織の幹部職員として、自らの意思で出処進退を明らかにするべきだと考えます。
8572万円という金額が注目されて、事件の本質が誤って認識されているように思えます。
単純にすべて一万円札だったとしても、8572点もの証拠品が警察署内で紛失した、しかも容疑者が事件捜査の担当係長だったということが問題なのです。
会計課の金庫のダイアル錠について、取材してみると
『 勤務時間中は、鍵を刺しっぱなしにしてすぐに開けられるようにしていた。ダイアル錠も掛けていなかった。』
との証言がありました。
本当だとすると、現金を扱う会計課員(警察官ではなく一般職員)の常識がなさ過ぎる勤務態度だと呆れてしまいます。
一日も早く、真相を明らかにして、国民の警察への信頼を取り戻して欲しいと心から願っています。