バングラデシュで農業開発に関わっていた日本人男性が「イスラム国」を名乗る組織に射殺された事件は、日揮襲撃事件や今年初めに起きたシリアでの2人の人質殺害に続いて、日本人がイスラム圏を中心とする海外で標的にされていることを自覚させるものとなった。
事件直後に「イスラム国」は「カリフ国(イスラム国)戦士がバングラデシュにおいて、“イスラム国”に対峙する十字連合軍の一員である国の国民を標的にし、攻撃を実行した」と表明した。キリスト教徒などあまりいない国なのに、日本人が仏教徒であろうと何であろうと「十字連合軍の一員」と見なされて殺されなければならないのである。
「十字軍の一員」という言葉が使われ始めたのは、今年2月に起きた日本人人質2人の殺害事件からだった。中東を訪問した安倍晋三が、イスラエルやエジプト、ヨルダンなどで「イスラム国」対策として大金をばらまき、得意になって「卑怯なテロは許されず、断固として非難する!」等等と演説したものだから、直後に「日本の首相よ、おまえはイスラム国から8500㌔離れた場所から、進んで十字軍に参加すると約束した。おまえは自慢げに寄付すると話した。われわれの子どもたちや女たちを殺すため、またムスリムを攻撃するための資金としてーー 」とイスラム国が反応し、最終的に人質二人が殺害されたのだった。あの事件以降、日本人は確実にターゲットにされ、それこそ「十字軍」すなわち米軍の一員として狙われるようになったのである。バングラデシュにおける射殺事件も、発端は安倍晋三の振る舞いにあるといっておかしくない。
バングラデシュは親日的な国として知られ、それをもっけの幸いにしてユニクロや縫製関連企業など232社が進出してきた。格安の労働力を求めて世界をさ迷ってきた大企業にとって、タイなどよりもさらに安い労働力(人口1億5000万人)がいる穴場だった。官民挙げてインフラ整備や医療、教育、農業開発などに熱を上げ、その果実として大企業が低賃金労働で利潤を得ていくシカケだった。ところがそんな矢先に射殺事件が起き、海外進出企業にとっては背筋が凍る出来事となった。
安保法制をゴリ押ししたもとで、今後米軍の下請け軍隊として海外展開を引き受けるなら、日本人が狙われる危険性は格段に高まる。NGOであれ何であれ、その良心の如何に関わらず、大企業の海外進出のお膳立てやイメージアップに役割を果たしている人人も含めて狙われる危険性は高まる。「日本人の生命を守る」のではなく、危険にさらす道に踏み込んでいることを教えている。
吉田充春