いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

文字サイズ
文字を通常サイズにする文字を大きいサイズにする

技術進歩の先にある超監視社会 スーパーシティ構想は何をもたらすか

 都市インフラや一般家庭の家電、各個人の健康状態データもみなインターネットにつなぎ、あらゆる行動の監視に直結する「まちづくり構想」が動き出している。今月14日の国家戦略特区諮問会議(議長・安倍晋三首相)では、人工知能(AI)やビッグデータを総動員し、2030年頃の未来社会を先どりする「スーパーシティ」構想実現に向けた法整備を急ぐ方針を決定した。3月にも関連法を今国会へ提出する動きを見せている。

 

国家戦略特区諮問会議

 安倍政府が具体化する「スーパーシティ」構想は昨年11月頃から片山さつき・内閣府特命担当大臣(地方創生)の下、竹中平蔵などを中心とする有識者懇談会が具体化を進めてきた。この有識者懇談会が明らかにした最終報告は「スーパーシティ」構想について「これまで日本国内において、スマートシティ(省エネを追求した環境都市)や近未来技術実証特区などの取組があった。しかし、エネルギー・交通などの個別分野での取組、個別の最先端技術の実証にとどまっていた」「“スーパーシティ”は、これらとは次元が異なり、“丸ごと未来都市を作る”ことを目指す」と明記した。さらに世界各国のとりくみが部分的実証にとどまっていることを指摘し「日本で世界に先駆けて“スーパーシティ”を実現し、世界にモデルを示す」と強調している。

 

 今後、具体化する「スーパーシティ」の対象職種としては、①移動(自動走行、交通量・駐車管理)、②物流(自動配送、ドローン配達)、③支払(キャッシュレス)、④行政(電子政府、ワンスオンリー化=一度行政に提出した資料は永久にデータ登録されるシステム)、⑤医療・介護(AI活用病院、遠隔診療)、⑥教育(AI活用、遠隔教育)、⑦エネルギー・水、⑧環境・ゴミ、⑨防災、⑩防犯・安全(ロボット監視)など10項目をあげた。

 

 そしてこのエリア選定について「住民の合意形成を促進・実現できる、ビジョンとリーダーシップを備えた首長の存在」「最新技術を実装できる企業の存在」が重要と明記した。自治体議会の合意、住民合意をへて、最終的に総理大臣が決定する順序である。今国会で提出しようとしている関連法は、このエリア内限定の規制緩和策をより早く決定・実行するための制度整備が狙いである。

 

 有識者懇談会の最終報告は「地域限定で規制特例を設ける仕組みとしては国家戦略特区制度があるが、これには限界がある。これまでも各種の近未来技術の実証をおこなうため規制改革にとりくんできたが、規制所管省と個々に協議し、同意をとりつけなければ動かない仕組みであり、それまでに数カ月や数年を要することも少なくなかった。この限界のもとでは、丸ごと未来都市を作ろうとする“スーパーシティ”構想はできない。そこで、従来の国家戦略特区制度を基礎としつつ、より迅速・柔軟に域内独自で規制特例を設定できる法制度を新たに整備する必要がある」と主張した。

 

 そしてこれまでの国家戦略特区の枠組み(内閣が決定する政省令で規制対象外の特例措置を規定)より踏み込み、市町村レベルの条例制定で特例措置をもうけることを可能にする方向をうち出した。この新制度になれば、企業誘致を目指す自治体間の誘致競争が激化するのは必至だ。それは企業により好条件を提示することが勝負となるため、必然的により進んだ規制緩和に駆り立てることに直結する。各都市が財政難や人口減少など困難に直面するなかで、それをさらなる規制緩和に利用し、外資などの大企業がより好条件で事業参入するための地ならしに着手している。

 

グーグルやアリババ AIによる都市の管理

 

 安倍政府が先進地と見なしている都市は、グーグル系列会社があらゆるデータを管理する都市設計を進めているカナダ・トロント市や、アリババ(中国のネット通販大手)系列会社が行政と連携している中国・杭州市などである。有識者会議はドバイ(アラブ首長国連邦)、シンガポールなども視察している。

 

 トロント市では約20年前から東部臨海地区の再開発計画を推し進めてきた。対象地域は面積が4・9㌶に及ぶオンタリオ湖に面したキーサイドという未開発地で、土地の多くは同市とオンタリオ州、カナダ政府が所有していた。公共財産であるため、開発作業は民間人を含む非営利組織であるウォーターフロント・トロント(2001年に創設)が具体化してきた。

 

 ところが2017年秋にグーグル系列企業のサイドウォーク・ラボがウォーターフロント・トロントと提携協定を締結した。そしてグーグルは水の使用量や空気の質、住民の散歩回数や散歩経路など、あらゆるデータをサイドウォーク・ラボに集めさせ、そのデータを活用した「まちづくり」を促進した。それは建物の内外や通りに設置した無数のセンサーで絶えず動向を監視し、AIが動かす自動制御装置によって遠隔操作をおこなうというものだった。

 

 例えば信号が常に人や自転車、車の動きを追跡し、信号のある道路を通過しようとすると、赤信号が青に変わり、暗い道を通ると電灯が点灯するという調子だ。歩行者や自動車の動きをみな把握して、すべての人がもっとも待ち時間の少ないタイミングでAIが青や赤を点滅させ、渋滞をなくす仕組みである。公共の無人シャトルバスを走らせる計画、ゴミの自動収集ロボの導入、行政が把握しているデータを活用して社会福祉事業に活用する、などさまざまな計画をおし進めた。

 

 グーグルはこの実証実験のノウハウをもって世界の各都市に参入することを狙っており、トロントはその実験台だった。さらにグーグルはトロントの都市開発にあたって、「利益をもたらす計画をトロント市やカナダ政府が受け入れる場合しか協力しない」との条件も突きつけ、恒常的に利益を確保することも忘れなかった。

 

 しかし人が通れば自動で電気がつき、横断歩道を渡るときすぐに信号が青に変わる…という状態は「すべて見られている」という裏返しでもあり、「個人情報の管理は一体どうなっているのか」との不安が住民や自治体関係者から噴出した。さらにグーグルが個人情報を第三者の企業に流そうとしていたことも発覚した。こうしたなかで開発計画は遅れ、開発の中枢を担っていた関係者が「プライバシー上の懸念」を理由にプロジェクトから手を引く事態にもなった。しかしすでにグーグルを中心にしたインフラ整備は進行しており、市民や地域の全情報は今もグーグル系列企業にすべて握られたままである。

 

 ネット通販最大手のアリババグループが本社を構える中国・杭州市(人口950万人、面積は関東地方の半分程度)でも、AIによる都市管理が進んでいる。杭州市は4000台超の交通監視カメラを設置し、交通警察が交通違反を監視している。AIが監視カメラでナンバーを読みとり、違反があれば警察に自動通報(多い日で500件)し、警察が違反切符を自動車所有者に送りつける方式である。それは「高齢の母親を慌てて自家用車で病院に搬送する途中、一瞬、制限速度を上回ったため慌てて速度を落とした」というような場合でも、監視カメラが「スピード違反」ととらえていれば、問答無用で罰則対象になるシステムだ。「駐停車違反」「一旦停止違反」「信号のない横断歩道の走行」など、すぐに気がついて正せば事故にならないケースも、即座にみな厳罰対象になる制度だ。同時にそれは毎日の行動データや運転の傾向性まで蓄積される仕組みである。

 

 もう一つは無人コンビニの展開である。アリババが開発した精算システムはテイクゴー(TakeGo)と呼ばれ、商品の識別は近距離無線タグでおこない、来店客の識別は監視カメラによる顔認識でおこなう。そのため、商品棚、イートインの椅子、テーブルなど店内はカメラだらけである。この無人コンビニで買い物をするときは、買い物客が入り口から入って商品を手に取り、精算専用の通路を通って外に出るだけだ。そうすれば自動的にアリペイ(アリババが開発したモバイル決済システム)から代金が引き落とされる仕組みだ。顔認証で個人を特定するため、これまでの無人スーパーと違い、入店時にスマートフォンをかざす作業すらないのが特徴だ。

 

 アリババは中国の飲料メーカー最大手・ワハハと提携して、無人レジ技術を広く売り込み、数年内に2000店舗の無人スーパー開業を目指している。このシステムの導入で商品補充や管理スタッフは一人で一〇店舗担当できる。アリババは「営業コストが四分の一になる」と宣伝している。顧客データはみなアリババに蓄積されることになる。

 

全ての電子情報を一手に

 

 安倍政府の目指しているまちづくりは、このトロント型と杭州型のシステムの導入だけにとどまらない。安倍政府と経団連が強力に推進している「Society5.0」のとりくみは、「移動」関連では自動運転導入をおし進め、「物流」関連ではドローン配達などを重視しているが、個人情報の監視・蓄積を重視しているのも特徴だ。「医療・介護」関連ではマイナンバー(個人番号)カードを使った健康情報の管理を目指しており、安倍政府が一五日に閣議決定した医療・介護関連法改定案には、マイナンバーカードを健康保険証として使用するための制度改定を盛り込んだ。さらに消費税引き上げと連動したキャッシュレス決済の普及(キャッシュレス決済比率40%の韓国が目標)、電子政府の推進(行政サービス100%デジタル化のエストニアが目標)、学校教育における児童の電子情報(学習履歴、成績情報、生徒指導の記録等。米国の学校がモデル)活用など、あらゆる電子情報を一元管理する動きをさまざまな分野で同時におし進めている。

 

 この個人情報収集体制とあらゆるインフラや家電、通信機器をネットで結ぶ「スーパーシティ」が完成すれば、住民の情報はみなネット大手に筒抜けになる超監視社会が出現することになる。

 

 インターネットや人工知能などの技術発展が生活の利便性向上で役立っているのは事実であり、そのような技術の発展や生活環境への活用を一概に全面否定することはできない。しかし都市をまるごとグーグルなどの外資に監視・支配されるような「まちづくり」を放置すれば、日本国内の都市の将来が、みな外資大手の手に握られ、それがいずれ国民監視ツールとして治安弾圧などでフル稼働する危険もはらんでいる。国会におけるまともな論議もないまま、このような安倍政府の「スーパーシティ」構想と関連法制定を野放しにしていいのか、厳密な検証が不可欠になっている。

関連する記事

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。なお、コメントは承認制です。