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日韓対立煽る意図 レーダー照射巡る異常な対応

外交努力で解決できる問題をなぜこじらせるのか

 

 昨年12月末から韓国海軍駆逐艦による海上自衛隊哨戒機への「レーダー照射問題」がエスカレートしている。安倍政府は、「韓国海軍駆逐艦から自衛隊機が火器管制レーダーを照射された」と発表し、一方的に「証拠」の動画を公開し、それに対して韓国側も映像を公開して、「危険な低空飛行をしたのは自衛隊機であり、事実の歪曲をやめよ」と猛反発している。安倍政府は近隣諸国への強硬姿勢を継続しているが、食い違った主張をごり押しして近隣諸国との対立を煽り続け、国家間対立にまで突き進むなら「火器管制レーダーの照射」にとどまらない事態を招くことになる。

 

 防衛省が先月21日の記者会見で明らかにしたのは「日本海で20日、海上自衛隊のP1哨戒機が警戒監視で飛行していると、韓国軍の艦艇が射撃する際に使う火器管制レーダーを照射した」という内容だった。防衛省は「火器管制レーダーは、攻撃実施前に攻撃目標の精密な方位・距離を測定するために使用するものであり、広範囲の捜索に適するものではなく、遭難船舶を捜索するためには、水上捜索レーダーを使用することが適当だ」「火器管制レーダーの照射は、不測の事態を招きかねない危険な行為であり、仮に遭難船舶を捜索するためであっても、周囲に位置する船舶や航空機との関係において非常に危険な行為だ」と主張した。

 

 韓国側は当初、実務者協議で解決する姿勢で防衛省の声明に対しても直接反論することはしなかった。

 

 ところが先月27日に日韓でおこなわれた実務者協議は、敵対的な決裂へと進んだ。日本側の主な主張は、「海自哨戒機は一定時間継続してレーダーを照射された」「韓国海軍駆逐艦の上空を低空飛行していない」「韓国の駆逐艦にレーダー照射の目的は何かと三回呼びかけたが応答はなかった」という三点である。

 

 韓国側の説明では、駆逐艦は海域にいた北朝鮮漁船の救助活動に従事しており、「遭難した北朝鮮船舶捜索のためレーダーを使用した」「哨戒機が駆逐艦の上空を低空飛行したためレーダー付属のカメラを向けたが、哨戒機に向けてレーダーを向けた事実はない」という内容だった。

 

 双方の主張する事実が食い違っていても「ことを荒立てずに平和的に解決していく」という点で一致していれば、妥協点を見出し穏便な外交交渉で解決できる問題だった。ところが安倍政府は、日本側の主張に従わないなら証拠の動画を公開すると恫喝し続けた。その結果、韓国側は「やるならやればいい」と応じ、さらに溝を深める効果となった。

 

 安倍首相は実務者協議が決裂したことを受けて動画の公開を即断し、翌28日には動画公開へ踏み切った。そして防衛省が公開した動画は約13分。岩屋防衛相は「海自が国際法にのっとり、適切な行動をとったと国民に理解してほしい」と強調した。それは「通常の警戒監視のために撮影」した映像とされ、レーダーの電波を音に変えてヘッドホンで聞いているP1哨戒機乗員などの会話が録音された内容である。乗員が「(電波)を出しています」「避けた方がいいですね」「めちゃくちゃすごい音(電波)だ」などの会話が盛り込まれている。

 

 それに対して韓国国防省は「深い憂慮と遺憾を表明する」との声明を発表した。そして今月4日に動画公開に踏みきった。同国防省報道官は「日本が一方的に日本語、英語版の動画を公開し、歪曲された事実が全世界のインターネット社会に伝わったため、より正確な事実関係を知らせる目的だ」と強調。さらに動画は「韓国海軍は友好国の哨戒機にいかなる威嚇行動もしなかった」「照射されたならば哨戒機はなぜ回避せず、再び、駆逐艦に接近するという常識外の行動をとったのか、答えなければならない」と要求している。また「日本は人道的救助作戦の妨害行為を謝罪し、事実わい曲を中断せよ」などの主張も盛り込み、最後は「日本はこの問題を政治的に利用するな」という字幕で締めくくっている。今後はすでに公開した韓国語版と英語版に加え、日本語、中国語、フランス語、スペイン語、ロシア語、アラビア語など八カ国語の映像を公開する動きを見せている。

 

 レーダー照射問題の真相は、双方の主張が食い違っているため、確かな事実が出てこない限り、どちらが本当なのか結論づけることはできない。しかし死者が出たわけでもなく、大きな実害があったわけでもない。それは、延々と解決を長引かせ、国家間対立を引き起こすような問題でないのは明らかである。

 

 危険かつ無謀なのは、安倍政府の「けんか腰外交」が障害になって解決が長引き、「レーダー照射」をきっかけにして日韓対立が煽られ、東アジアの分断をますます深めることだ。それは尖閣諸島問題、竹島問題、北方領土の問題などでも共通している。また米軍機が起こした事件や事故は一切抗議しない者が、相手が違うと居丈高になって振る舞う二重基準も見せつけている。

 

 現在、朝鮮半島をめぐる情勢は昨年の南北対話以来、朝鮮戦争終結へ向けて大きく動き始めている。戦争ではなく平和的解決を目指す流れがアジア諸国で強まっている。しかしそのカヤの外に置かれ、いまだに「北朝鮮の核やミサイル脅威」を主張してアジア地域で軍事緊張を煽り、アメリカのいいなりになって軍備増強と「けんか腰外交」を続けるのが安倍政府である。「レーダー照射問題」は平和的な外交交渉によって解決するのが正しい道筋であり、無意味な国家間対立を激化させ、軍事衝突の道へ突き進むなら、「レーダー照射」どころではすまない。外交によって解決できる問題を解決するのではなく、逆に軍事的な緊張を煽る材料として政治利用していることが、問題を長引かせている。

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