日米政府が進める沖縄県名護市の辺野古新基地建設をめぐり、安倍政府は14日、米軍キャンプ・シュワブのある辺野古崎の埋め立て区域に土砂を投入した。9月には沖縄県が「埋立承認の撤回」をおこない、続く沖縄県知事選では新基地建設反対を掲げる玉城知事が過去最多得票で当選するなど島ぐるみの反対世論が渦巻くなかで、地方自治の原則である「地元同意」の前提もないまま米軍基地建設を強行する姿勢をみせている。振興予算を人質にした「アメとムチ」政策、さらに「普天間の危険除去」「負担軽減」などの欺瞞が破たんするなかで、来年に控える県民投票(2月)、参院選(8月)を前にした安倍政府の焦りのあらわれにほかならない。強権によって県民の諦めを誘う以外に手段がないことを意味するとともに、占領期の「銃剣とブルドーザー」と変わらないやり方で基地として奪っていく構造を見せつけている。
安倍政府が土砂投入を開始した14日、沖縄県の玉城デニー知事は会見を開き、前日の菅官房長官、岩屋防衛相との面談で土砂投入の中止を訴えたにもかかわらず「県の要求を一顧だにすることなく、違法な土砂投入を強行した」と国を強く批判。「県民・国民のみなさまには、このような国のあり方をしっかりと目に焼き付け、心に留めていただき、法治国家そして国民に主権があるとする民主主義国家としてあるまじき行為をくり返す国に対し、ともに声を上げ、ともに行動していただきたい」と呼びかけた。
さらに「国は一刻も早く工事を進めて既成事実を積み重ね、県民を諦めさせようと躍起になっているが、このような行為は、逆に沖縄県民の強い反発を招き、工事を強行すればするほど、県民の怒りはますます燃え広がるということを認識すべき」とのべ、「工事の権限のない者によって違法に投入された土砂は、当然に原状回復されなければならない」と断罪した。
翌15日には、辺野古ゲート前での抗議行動の現場に出向き「われわれのたたかいは止まらない。国の暴挙に対して、本当の民主主義を求める私たちの正しい道のりと思いは全国のみなさんとも共感している。対話は継続していくが、対抗すべきときは対抗する。私たちは決してひるんだり、怖れたり、くじけたりしない。勝つことは諦めないことだ!」と宣言し、県民とともに徹底抗戦を続けることを約束した。「国民を守るため」と豪語しながらその国民の合意も法的手続きも度外視し、一方的に基地建設工事を強行する安倍政府への県民の怒りはさらに高まる趨勢にある。
「後戻りできぬ段階」 果たしてそうか?
メディアは土砂投入をもって「節目を迎えた」「後戻りできない段階」との印象を振りまいているものの、辺野古新基地建設は、当初の計画からすでに3年以上も遅れており、土砂投入によって計画が加速するものでも固定化するものでもない。
2013年12月、それまで「県外移設」を公約していた仲井眞知事(当時)が3400億円の振興予算と引き換えに辺野古埋め立てを承認して以降、2014年1月には地元の名護市長選で基地建設反対の稲嶺進前市長が再選を遂げ、同年11月の県知事選で「政府案推進」を掲げた仲井眞元知事は「反対」を主張する翁長雄志前知事に10万票差をつけて大敗した。以来、国政選挙を含めて、選挙を通じて県民が新基地賛成の民意を示したことは一度もない。
買収によって得た「知事承認」の既成事実化を狙う政府は、2014年6月の日米合同委員会で辺野古予定地一帯を「日米共同使用地」とし、常時立ち入りを禁止する「臨時制限区域」に指定して、立ち入る者には刑事特別法を適用するとの脅しをかけて抗議活動をする市民を強権的に排除した。
だが2014年秋までに終える予定だった海上ボーリング調査が今も続く一方、2015年10月には翁長前知事による「埋立承認の取消」、今年9月の「埋立承認の撤回」、県知事選での玉城知事の圧勝など、県民の反発や抗議行動は広がり、行政的な手続きも難航するなかで、「粛々と」工事を進める格好を見せてきた政府は土砂投入に手を付けることはできなかった。
選挙のたびにあらゆる手段を使って県民世論の分断を図ってきた安倍政府は、市町村の首長選にまで官邸の直接指揮のもと国会議員を大量投入し、宗教団体による集票コントロールなど権力・金力をフル動員して介入したが、前宜野湾市長を担いで「普天間基地の危険除去」を唱えながらも大敗北を喫した今年の知事選まで来て、その世論操作は完全に破たんした。県民世論の盛り上がりのなかで、来年2月には辺野古埋め立ての是非を問う県民投票が予定されており、基地建設阻止を掲げる玉城県政を強く後押しする結果となることが濃厚となっている。辺野古問題に触れず、振興策などの「アメ」をバラ撒いても選挙で敗北を続けてきた自民党政府にとって、辺野古の埋め立てを唯一の争点とした県民投票では勝ち目はない。
世論を欺瞞する手立てを失った安倍政府は、すでに県民の中で欺瞞が見抜かれている「普天間の固定化を避けるための辺野古移設」のワンフレーズを連呼しながら、知事選1カ月後の11月4日に工事を再開して土砂投入を急いだ。10月19日の日米防衛相会談では、これまで「プランは2つ。1が辺野古、2も辺野古だ」と豪語してきたマティス米国防長官が辺野古新基地建設のスケジュールの遅れについて岩屋防衛大臣に苦言を呈している。その意向を忖度し、土砂を投入することで年内の「埋め立て着工」を米国にアピールしたい安倍政府の焦りをあらわしている。
だが土砂を投入したとはいえ、当初、2015年10月の埋め立て着工を宣言し、工期5年としてきた国の計画に対し、すでに着工から3年以上が経過した現在も埋め立てが完成するどころか一部の護岸工事が進んだだけで、その護岸も建設予定の22本のうち完成したのはわずか6本のみ。辺野古新基地の総面積(205㌶)のうち埋め立て面積は約160㌶で、東京ドーム17杯分にあたる2062万立方㍍もの土砂を必要とする。埋め立てを開始した区画は、埋め立て予定地の数十分の一に過ぎず、しかももっとも埋め立て容易な沿岸部の浅瀬部分であり、大浦湾最奥部から埋め立てるとしていた当初の計画とはまるで異なる。
問題が山積している基地建設 予定地には超軟弱地盤も
日米政府の計画では、辺野古新基地は1800㍍のV字形滑走路2本を備え、強襲揚陸艦などを係留できる長さ272㍍の護岸、弾薬やミサイルの搭載エリア、航空機の燃料を運ぶタンカーを接岸する燃料桟橋、複数のヘリパッドなど普天間基地にはない新機能を併せ持った巨大基地を想定している。米国防総省の報告書には「運用年数は40年、耐用年数は200年」と記されており、沖縄戦の後「銃剣とブルドーザー」による土地の強制接収から現在までつづく米軍基地支配をさらに恒久化するためのものだ。
だが計画をめぐっては、国が当初想定していなかった問題が数数明らかになっている。「埋立承認の撤回」以外にも、辺野古側の埋め立てでは海上輸送のみとしていた岩ズリ(土砂)の陸上輸送にともなう設計概要や「土砂に関する図書」の変更手続き、環境保全のために定められた県外から搬出する土砂の外来生物や有害物質検査の実施、沖縄県漁業調整規則で禁止されているサンゴ類の移植のための採捕許可、海底の地形を改変させる行為をおこなうのに必要な岩礁破砕許可、赤土流出防止条例にもとづく事前の知事協議など多岐に及ぶ項目で県知事の承認が義務づけられている。国が一方的に法解釈を変更し、県の指導を無視しているものも多いが、それは同時に建造物の安全性や円滑な工事の遂行にとっても大きなリスクとなる。
さらに明らかになったのが、大浦湾の海底部を走る活断層の存在だ。名護の地質を研究する学者たちは、2000年に防衛庁(当時)が示した大浦湾海底部の60㍍もの落ち込みについて、公開された地質調査や音波探査のデータから「2万年前以降にくり返し活動した、極めて危険な活断層」と指摘しており、新基地の立地条件そのものが根底から問われる事態となっている。
同時に浮上したのが、大浦湾のケーソン護岸設置箇所の水深30㍍の海底に、厚さ40㍍にわたってN値(土の硬度を示す値)ゼロという超軟弱地盤が広がっていることだ。大型構造物の基礎にはN値50以上が必要とされているが、新基地を支えるケーソン(鋼鉄製の箱)の真下は、試験用の杭を打ち込んだだけで地中に沈んでしまう「マヨネーズ状」といわれる超軟弱地盤であることが判明した。防衛局も報告書に「当初想定されていない地形・地質」と記しており、この土質調査の報告書を情報公開請求されるまでの2年間公表していなかった。海上ボーリング調査が当初の予定を大幅に超えて継続されている最大の理由とみられている。
これは「基礎基盤は、砂・砂礫が主体であり、軟弱な粘性土層は確認されていない」としていた当初の設計条件がまったく誤っていたことを示しており、設計概要の全面的なやり直しは避けられない。このままでは基地建設そのものが不可能であるため、基礎基盤の広範な地盤改良、ケーソン護岸の大幅な構造変更が求められ、それには公有水面埋立法にもとづく知事の承認が必須となる。軟弱地盤はさらに広範囲に及ぶ可能性があるが、より全面的な土質調査結果についての市民の情報公開請求に対し、沖縄防衛局は「不存在」として開示していない。工事が進めば、明るみに出さざるを得ない。
さらに辺野古新基地予定地の周辺にある国立沖縄工業専門学校、辺野古弾薬庫、久辺小・中学校、辺野古区や豊原区などの集落、沖縄電力などの通信事業者の鉄塔が、米国防総省の飛行場設置基準の高さ制限をこえている問題が明らかになっている。安倍政府は「米側との調整で高さ制限の適用は除外される」「離着陸は基本的に海上とすることで合意している」などと弁明した。一方で、沖電の鉄塔だけは撤去や移設の依頼協議をおこなっており、安全が最優先されるべき学校や住宅を安全基準の適用から除外するというあるまじき判断を見せている。
これらの問題を考慮して沖縄県は、辺野古新基地建設は埋め立て工事に5年、軟弱地盤の改良工事に5年、埋め立て後の施設整備に3年の計13年を要し、総事業費は当初の10倍に及ぶ2・5兆円に達すると試算している。国の偽装が明らかになるたびに計画の大幅な変更にともなう知事認可が求められ、無視すればするほど見切り発車した工事のツケが雪だるま式に膨らんでいくことになる。
来年2月の県民投票で圧倒的な県民の反対意志が示された場合は、沖縄県はより強力な根拠をもって「承認撤回」を発することができ、「民意がわからない」とお茶を濁してきた裁判所の判断をも縛り付ける効力をもつことは疑いない。