朝鮮戦争終結にむけた和平交渉が進行するなか、アメリカが今度は中国などアジア一帯をにらんだ軍事挑発をエスカレートさせている。領有権問題で緊張している地域に戦略爆撃機やイージス艦を派遣して恫喝をくり返し、9月末には米駆逐艦と中国艦船が異常接近する事態に至ったが、その後も日本を舞台にした大規模な軍事演習を継続している。今月中旬に原子力空母2隻がフィリピン沖で軍事演習をおこない、最近も台湾海峡でミサイル駆逐艦を航行させたばかりだ。安倍政府が12月末の策定を目指す新防衛大綱は「中国の脅威」を掲げてアメリカから大量の武器を買い込むことが柱である。その本格的な論議が始まる前に近隣諸国を挑発し、「脅威」を演出する動きが露骨になっている。
今月14日、米海軍第七艦隊がフィリピン沖で原子力空母「ロナルド・レーガン」と「ジョン・C・ステニス」の2つの両空母打撃群を動員し、対潜水艦作戦や空中作戦などを実施した。同時期に開かれた東アジアサミットでアメリカが「南シナ海で、中国が軍事拠点化を進めているのは違法」(マイク・ペンス副大統領)と主張し、中国側が「紛争に第三国は介入するべきではない」(李克強首相)と反論した。これに対してアメリカが「インド太平洋の一部で当事国だ」と反発して実施したのが米軍の軍事行動だった。
今月19日には、米太平洋空軍がB52戦略爆撃機2機を南シナ海上空に飛来させ、「今回の任務は国際法に合致しており、米国が長年とりくむ自由で開かれたインド太平洋地域を実現するためのものだ」との声明を出した。米軍は「継続的爆撃機プレゼンス作戦」で南シナ海付近へ定期的に爆撃機を飛ばしている。
さらに28日には米太平洋艦隊が、台湾海峡でミサイル駆逐艦と補給艦を航行させ、「自由で開かれたインド太平洋に向けたアメリカの関与を示す」との声明を出した。フィリピン沖も、南シナ海近辺も、台湾海峡もみな領有権をめぐって軍事緊張が激化している地域である。そこへわざわざ原子力空母やミサイル駆逐艦や戦略爆撃機を何度も派遣することは、軍事挑発以外のなにものでもない。9月末に起きた米軍艦船と中国艦の異常接近も、海域から離れるよう求める中国艦の警告を無視して米軍が「航行の自由」作戦を強行したことが原因だった。こうした米軍の動きに関連してアジア諸国の軍事費拡大や軍備増強に拍車がかかっている。それを「攻めてきたらどうするのか」「脅威だ」と煽り、日本に米国製軍事兵器を大量に買わせる地ならしが進行している。
そして大きな問題は、日本の米軍基地から原子力空母や米軍艦船を派遣するだけでなく、日本全土を丸ごと「不沈空母」に見立てた訓練や軍事挑発が本格化していることだ。
自衛隊と米軍が先月29日から8日まで実施した日米共同軍事演習「キーンソード(鋭い剣)」は水陸機動団など自衛隊員4万7000人と米軍9500人を動員し、日本国内の自衛隊基地やグアムも含む周辺海域をみな戦場に見立てる内容だった。自衛隊は艦艇約20隻、航空機170機、潜水艦などを動員し、米軍側は第七艦隊の原子力空母や空軍、海兵隊などを投入した。演習内容は離島奪還、弾道ミサイル防衛、パラシュート降下、潜水艦による交戦、原子力空母への着艦などで、日本全土を出撃基地として活用する実働訓練だった。
さらに米海兵隊と陸上自衛隊が12月7日~19日におこなう「フォレストライト」も大分、福岡両県を中心に地域一帯を戦場に見立てた軍事演習である。演習地は日出生台演習場(由布市、玖珠町、九重町)、十文字原演習場(別府市、杵築市、日出町)、築城基地(築上町、行橋市、みやこ町)で、今回は米軍輸送機オスプレイを使った初の兵員輸送訓練となる。しかし防衛省は飛行ルートや飛行時間を一切公表していない。それはいつでもどこでも米軍機の飛行を野放しにする体制である。こうした日本国内の大規模な軍事演習も近隣諸国との軍事緊張を高める要因の一つになっている。
新防衛大綱や中期防衛力整備計画の具体化と連動して、米軍が主導する軍事挑発に拍車がかかっている。